興福寺の八部衆像



1  五部浄(ごぶじょう)像 - 像高48.8cm。色界最上位の色究竟天(しきくきょうてん)(色界第四禅天)に浄居天と呼ばれる5人の阿那含の聖者(自在天子、普華天子、遍音天子、光髪天子、意生天子)が住んでおり、五部浄居天はこれらを合わせて一尊としたものである。陀羅尼(だらに)にすがる者を守護するとされ、今昔物語集では釈迦の四門出遊の際「老人、病人、死人、出家者」の4つを見せて釈迦の出家を促している。
象頭の冠をかぶり、少年のような表情に造られている。興福寺像は頭部と上半身の一部を残すのみで大破している(他に、本像の右手部分が東京国立博物館に所蔵されているが、これは1904年(明治37年)、個人の所有者から当時の帝室博物館に寄贈されたものである)。 経典に説く「天」に当たる像と考えられる。 千手観音の眷属の二十八部衆の内には「五部浄居天」という像があるが、三十三間堂、清水寺本堂などの五部浄居天像は両手に1本ずつの刀を持つ武神像である。


2  沙羯羅(さから、しゃがら)像 - 像高153.6cm。頭頂から上半身にかけて蛇が巻き付き、憂いを帯びた少年のような表情に造られている。本像は、経典に説く「竜」に当たる像と考えられている。ただし、興福寺の沙羯羅像を「竜」でなく「摩睺羅伽」に該当するものだとする説もある。二十八部衆には「沙羯羅竜王」の名で登場する。


3  鳩槃荼(くはんだ)像 - 像高151.2cm。頭髪が逆立ち、目を吊り上げた怒りの表情に造られている。経典に説く「夜叉」に相当する像とされている。四天王の内の増長天(ぞうちょうてん)の眷属ともいう。 二十八部衆の内には鳩槃荼に該当する像がない。


4  乾闥婆(けんだつば)像 - 像高160.3cm。獅子冠をかぶる着甲像である。両目はほとんど閉じられている。


5  阿修羅(あしゅら)像 - 像高153cm。三面六臂に表される。興福寺の阿修羅像は、奈良観光のポスター、パンフレットにしばしば取り上げられる著名な像である。


  

6 迦楼羅(かるら)像 - 像高149.7cm。興福寺像は鳥頭人身の着甲像である。三  十三間堂、清水寺本堂の二十八部衆中の迦楼羅王像は異なって翼を持ち、笛を吹く姿に造られている。

  

7 緊那羅像(きんなら) - 像高149.1cm。頭上に一角、額に縦に3つ目の目があり、寺伝とおり、当初から緊那羅像として造られたものと思われる。


8 畢婆迦羅像(ひばから) - 像高156cm。他の像と異なり、やや老相に造られ、あごひげを蓄えている。経典に説く「摩睺羅伽」に相当するものとされるが、定かでない。二十八部衆の内には畢婆迦羅と摩睺羅伽の両方が存在し、前者は通常の武神像、後者は五眼を持ち、琵琶を弾く像として表されている。