摩訶般若波羅蜜経(まかはんにゃはらみつきょう)



摩訶般若波羅蜜経般若経典の一つ『二万五千頌般若経』の、鳩摩羅什による漢訳(403)である。90品(高麗大藏再雕本は27巻、思溪資福藏、普寧藏等は30巻)の比較的規模の大きな経であり、通常大品般若経(大品、だいぼん)と呼ばれている。鳩摩羅什の訳した経の中には、摩訶般若波羅蜜経と名づけられるものがもう一つあるが、そちらは『八千頌般若経』(はっせんじゅはんにゃきょう)の漢訳(408)で、大品に対し29品(10巻)しかないので小品般若経(小品、しょうぼん)と呼ばれる。



般若経典は初期大乗から中期大乗にわたって、小さいものは『金剛般若経』『八千頌般若経』から、大きいものは『十万頌(じゅうまんじゅ)般若経』まで多数つくられたが、その中庸の時期(2~3世紀頃)に繁簡宜しきを得てまとめられたのが『二万五千頌般若経』である。大蔵経(だいぞうきょう)に収録されている漢訳は、竺法護(じくほうご)訳『光讃経(こうさんきょう)』(286)、無叉羅訳『放光(ほうこう)般若波羅蜜経』(291)、この鳩摩羅什訳の『摩訶般若波羅蜜経』、そして玄奘訳『大般若波羅蜜多経第二会』(660-663)の4本である。



『二万五千頌般若経』の特徴としては、紀元前後の『八千頌般若経』で形づくられた大乗仏教の基礎となる般若思想をもった教団が、説一切有部のような力のある部派仏教教団の教説に吟味を加え、それらと対峙・超克しながら増広敷衍しながらまとめた大乗のアビダルマといった観があり、それ以前の仏教の教説の集大成となっているといってよい。 鳩摩羅什は、もう一方の大乗仏教を代表する経典である法華経とともに、この摩訶般若波羅蜜経ならびにこの経の解説である大智度論を最重要視し、中国での仏教布教に力を注いだ。


※増広敷衍(ぞうこうふえん)

意味・趣旨をおし広げて説明すること。例などをあげて、くわしく説明すること。