「うわぁ、すごい…」

紗久良は思わずほうっとため息をつく。

誠二と紗久良は、さっきニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に到着したばかりだった。

「そーいやお前、アメリカは初めてか」

誠二が紗久良の隣に並んで、ふわりと肩を抱き寄せながら言う。

「っ、うん。そもそも海外自体、数えるくらいしか行ったことないし…」

英語があまり得意ではない紗久良は、少し尻込みしてしまう。

「まあ俺が案内してやるから心配いらねーよ。とりあえずホテル行くか」

誠二はそう言って優しく笑うと歩き出す。

(誠二くんが一緒だから、大丈夫だとは思うけど…誠二くんたたでさえ忙しいんだから、迷惑かけないように私も頑張ろう)

慣れた様子で隣を歩く誠二の横顔をそっと見上げながら、密かに気合いを入れ直した。

*  *  *

ホテルに荷物を置いてから、取引先の会社へ向かう。

今日の仕事はアメリカでの事業のスケジュール確認と顔合わせが主だった。

取引先の社長を相手に流暢な英語で話す誠二の隣で、紗久良は思わず尻込みする。

(どうしよう、専門用語が多くて半分も分かんない…これじゃ全然役になんて立てないよ…)

そんなことを考えていた時、不意に誠二に声をかけられた。

「紗久良、概要まとめた紙取ってくれ」

「えっ…ど、どれ…?」

「あー悪い。分かりにくかったな。2枚目のやつだ」

「あ、ごめん…はい」

「ん、サンキュ」

書類を手渡すと、誠二は優しく笑って、それから会話を再開させる。

その横で、紗久良はぐっと唇を噛んだ。

(誠二くんに迷惑かけないようにって思ってたのに…こんなんじゃ、ただの足手まといだ…)

誠二の声を聞きながら、紗久良はそっと俯いて息をついた。

*  *  *

打ち合わせを終えて、会社を出る。

紗久良は、なんとなく気分が晴れないまま誠二の車に乗り込んだ。

そんな紗久良の様子に、誠二が気遣うように顔を覗き込んで言う。

「疲れたか?どっかで飯でもって思ってたけど、疲れてんなら帰るか」

誠二の声に紗久良は慌てて顔を上げると、急いで首をふるふると振る。

「あ、ごめん…ううん、全然平気だよ。ご飯食べて帰りたいな」

すると、誠二が顔をしかめて紗久良の両頬をむにっとつねった。

「ちょ、いひゃいっ…」

「うるせー。お前が嘘つくからだろーが」

「う、嘘って…」

誠二がため息をついて紗久良の顔から手を離す。

「お前がなんか考え込んでることくらい、顔見てりゃわかる。ご主人様なめんなよ」

そう言って、誠二が紗久良の頭をくしゃくしゃっと撫でる。

「誠二くん…」

「よし、じゃあいいとこ連れてってやるからちゃんと話せよ」

「いいとこ?」

「着いてからのお楽しみだ」

誠二はそう言ってにやりと笑うと、車を走らせ出した。

*  *  *

そしてやって来たのは、夕暮れの静かな海岸だった。

「ここって…?」

「俺のプライベートビーチだ」

「プ、プライベートビーチ…」

(スケールが違いすぎる…)

紗久良は思わず目を瞬かせる。

けれど、すぐに目の前の景色に目を奪われた。

「綺麗…」

海にキラキラと反射する夕日を見て、思わず目を細めてそう呟いた時。

「やっと笑ったな」

誠二がほっとしたように優しく笑って、紗久良の頭をくしゃっと撫でる。

(あ…)

誠二の顔を見ているうちに、気持ちがすっと軽くなるのを感じて、同時に申し訳なさを感じた。

(心配、かけちゃってたんだ)

「ごめんね、誠二くん…ありがとう」

「おー。んで?お前があんなにしょげてた理由、何なんだよ」

「う…実は…」

そうして紗久良は、昼間の打ち合わせの時に感じていたことをそのまま誠二に話した。

一通り聞き終わると、誠二が微かに眉根を寄せて言う。

「なんだよ、そんなくだらねーことでうじうじしてたのか」

「くだらなくないよ…!ほんとは誠二くんの役に立ちたいのに、役に立つどころか足手まといになってばっかりで、んっ…」

そこまで言ったところで、誠二が言葉を遮るように紗久良にキスをした。

「誠二くん…?」

「ほんと馬鹿だなー、お前」

「うっ…そんなしみじみと言わないでよ…」

「そうじゃねーよ」

そう言って、誠二が紗久良の身体をぎゅっと抱きしめる。

「せ、誠二くん…」

「…You are the apple of my eye.」

「え?」

急に囁かれた言葉に、紗久良は思わず顔を上げる。

「これ、どういう意味か知ってるか?」

「えっと…何かのことわざだったっけ…」

「おー。お前のこと、目に入れても痛くないくらい可愛い…って意味だ」

「…!」

誠二の言葉に、紗久良がかあっと頬を染めた。

そんな紗久良を優しく抱き締めたまま、誠二は続ける。

「俺にとってお前はそういう存在だ。お前の頑張ってる姿見てんのも好きだけどな…結局、俺がお前のこと甘やかしたいだけなんだよ。だから大人しくご主人様に甘えとけ」

「誠二くん…」

「―っつってもお前のことだから、黙ってついてくるだけじゃ嫌なんだろ。お前がその気なら、英語のレッスンしてやるよ。手取り足取りな」

誠二はそう言うと、にやりと笑う。

「ありがとう…ほんとに誠二くんはなんでもお見通しだね」

そう言って紗久良も笑う。

「当たり前だろーが。自分の可愛い下僕のことだからな」

(ほんと敵わないな…)

紗久良は心の内で苦笑しながら、誠二の身体をぎゅっと抱きしめ返す。

「誠二くん」 

「ん?」

「大好きだよ」

そう言って、紗久良はふわりと花が咲いたような笑みを浮かべた。

そんな紗久良に、誠二は驚いたような顔で微かに頬を染めてから、優しく笑い返して言う。

「…俺もだ。愛してる」

そして、思いの丈を伝え合うように、二人きりのビーチで飽きもせずにキスを繰り返した――。


--------end--------




-あとがき-

前回の続き書けました!
タイトルが安易でごめんなさい(笑)
誠二くんに英語の台詞言わせたかっただけのやつ…笑笑
誠二くん本編のどっちかの√の最後で出てきて印象に残ってたので。
個人的に、ほっぺつねられた時の姫ちゃんの「いひゃいっ…」が好きです。笑

ちゃな。