司馬遼太郎(1997)『最後の将軍―徳川慶喜』文春文庫 | Winterecord

司馬遼太郎(1997)『最後の将軍―徳川慶喜』文春文庫

最後の将軍―徳川慶喜 (文春文庫)/司馬 遼太郎

¥530
Amazon.co.jp

 嫌いではないな、と。
 生まれながらの貴族で、物の理に通じること誰よりも優れ、その弁たるや四賢候すら凌ぐ。そんな彼が、すべての武士の棟梁たる「将軍職」に就いた。まっとうな時代なら、誰もが彼を賢帝と呼び讃えただろう。だが、その時勢だけが彼の味方をしなかった。時代はもはや幕府の存在を否定しつつあった。そのため、彼はその才能を、世間からみれば卑怯と思えるような権謀術数でしか発揮することができなかった。誰もが彼の才を正等に評価することがなかった。それでもたった一つ、後年にも残る歴史的事業を成し得た。それが大政奉還という史上稀に見る武力闘争のなかった革命事業である。だがそれも、後年に彼の名を轟かすには至らなかった。誰よりも史実に残る自分の名を気にしていた人だったのに…。幸が薄い、といえばそれまでだが、そんな彼を嫌いではないな、と思った。