開高健(1982)『輝ける闇』新潮文庫 | Winterecord

開高健(1982)『輝ける闇』新潮文庫

輝ける闇 (新潮文庫)/開高 健

¥540
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 本作は、筆者がヴェトナム戦争の従軍記者として、アメリカ軍に同行取材したときの実体験を基にしている。主人公は政府軍を支援する米軍に従軍し、寝食を共にし、戦時下における人々の営みを描いていく。作品中では、軍人たちと冗談を言ったり、酒を飲んだりといった日常の些末な出来事から戦争のもつおどろおどろしさまで、主人公はその全てを目撃していく。物語が進むにつれて、主人公は自身の中で大きくなり続ける混沌と向き合い、暗く堕ちていく一方で、生きる喜び・安息を求めた。そして物語の最後に、再び前線へと赴いていく。

この作品で著者開高健は自分自身を主人公として描いている。しかしヴェトナム戦争での体験自体はルポタージュとして『ヴェトナム戦記』著しているにもかかわらず、彼はなぜこの体験を小説として表現しようと試みたのか。彼は、アメリカ人・記者・老人・軍人・子供・売春婦といった様々な人々の生き様を受け入れることで、生死をも含めた自己を徹底的に解体し、そこから新たな生の形を見出そうとしたかったのかもしれない。そしてこの創作活動の極限において彼が達した答えは、決して思想の対立だとか国際情勢だとかいった脈絡などでは語ることのできない、彼だけが触れることのできた絶望であり、真実だったのかもしれない。私はこの作品に触れることでその一端にさえ触れることができなかった。私の手元に残ったのは、生々しい混沌と、虚脱感だけであった。