吉川英治(1989)『宮本武蔵(一)』吉川英治歴史時代文庫 | Winterecord

吉川英治(1989)『宮本武蔵(一)』吉川英治歴史時代文庫

宮本武蔵〈1〉 (吉川英治歴史時代文庫)/吉川 英治

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 「書物はいくらでも見よ。古の名僧は、大蔵へ入って万巻を読み、そこを出るたびに、少しづつ心の眼をひらいたという。おぬしもこの暗黒の一室を、母の胎内と思い、生れ出る支度をしておくがよい。肉眼で見れば、ここはただ暗い開かずの間だが、よく見よ、よく思え、ここには和漢のあらゆる聖賢が文化へささげた光明が詰っている。ここを暗黒蔵として住むのも、光明蔵として暮らすのも、ただおぬしの心にある」

という沢庵和尚の言葉が胸を打った。

 武蔵は沢庵に諭され、新たな人生を歩みだす。本巻では吉岡道場、そして宝蔵院へと訪問までが描かれる。

 作中に武蔵が陶器師の技に感動を覚え、陶芸の道と自らの剣の道を重ね合わせ、自身の不遜に熟慮する箇所がある。これぞ、一周遅れのなんとやらの精神であろう。他にも剣の道をただ極めようとする武蔵が、一見無関係な遠回りをする描写が幾度か描かれている。そうすることで、求道とは何たるか、我々に問いかけてくれているのかもしれない。