やっと出勤にも慣れ、ウィルスを浴びまくる生活にも慣れ、年中風邪をひいているような気もするし、そうでもないような気もするし、睡眠薬代わりに風邪薬を飲むことにも慣れ、顔なじみになったファミレスの人にドリンクのサービス券を4枚もらうようになり、患者さんや業者さんとつまらない世間話をすることにも慣れ、いつも寒そうにオフィス街を闊歩することにも慣れてきた。
このようにわたしは働く人たちの1人となり、その中に混じり、健診の料金が高いとか安いとか、予防接種の価格が高いとか安いとかの問い合わせの電話にも慣れ、最初は企業健診の営業にまわろうかと考えていたけど、料金が安い上に、個々の発送サービスまでつけろとか、客を紹介するかわりに高額の生命保険に加入しろ、という裏話の多さに辟易とし、どちらかと言えば、学生さん相手に採用時の健診を個別に受けるほうが気が楽なことにも気がついてしまった。
というわけで、オフィス街にもかかわらず、慢性疾患をのぞけば、どちらかと言えば、近所の主婦層が子どもを連れてやってくることが多く、忙しいような気もするし、ヒマなような気もするし、わたしの立場で言えば、開業なんてやめておいてくれたほうがよかったとしか言えない。
夕方、ヒマそうにしていると、業者さんがワクチンを配達しながら、「お子さん連れて、入りにくいかもしれないですね」と言う。
そうやって言われると、そうかもしれないと思いつつ、タウン誌の人にも、「ステータスをアピールしたほうがいいかもしれないですね」と言われ、それはそのビルの持つ特有の感覚であって、うちとはまた違うような気がすると思っていたら、自転車に乗り、生活保護の家族がやってきて、おもむろに市役所に電話をしているとほっとしたりする。
田舎での開業は楽だと言う。
理由は、待合室にインフルエンザの患者がいようが、水疱瘡の患者がいようが、田舎の人たちはまるで気にしないらしい。ところがうちあたりになると、あの狭い空間に、奥には水疱瘡ちゃんがいて、りんごちゃんが来たからレントゲン室で待っていてもらい、インフルエンザと慢性疾患が一緒になったりすると、もうてんやわんや。中には、「外で待っていましょうか」と言うお母さんもいて、そういうわけにもいかないし、患者さんの数が少ないわりには、いつもわさわさしている。
まあ、そういうことなんだと思う。田舎で風に吹かれて育っている子たちとは違って、どこか都会では子どもたちはいつも母親と一緒にいて、居場所のあるところにかたまっていたりする。それでいて、待合室で子どもの泣き声を聞きながら待たされていると、どこかヒステリックに立ち去るOLとか、5分も待つのがいやで、順番がきたらケイタイに連絡してほしいと言う人たちもいるし、仕事中だから眠くなる薬がないかどいうか訊いてくる人もいるし、日頃元気な人たちはけたたましい。
まだ若いのに、ストレスが原因で心臓が苦しいとか、下痢が止まらないとか、解熱剤を飲んだだけで胃潰瘍になってしまう人とか、デリケートな人たちも多い。合併症があって、昼間病院で採血されて、夜うちにきて採血されて、医療費のダブルパンチに文句を言う人もいる。
というわけで、わたしは毎日いろいろな人たちのストレスとウィルスを浴びまくり、それでいて今のところ元気に風邪薬を睡眠薬としながら生きている。休みの日には、ひたすら眠りたい・・・
