「エンドロールはいつも最後まで見るの?」

もちろん最後まで見るけれど
こう聞かれたら落ち着かないので

「出ましょう」

と言って席を立った




男友だちからの急な誘いに
あまり気乗りしなかったけれど
予定のない一日をもて余すより
良かれと思い 出かけた

上映開始までの小一時間
中華料理店で
慌ただしくランチをとる
自粛ムードのなか
昼どきというのに客はまばらで
いよいよ大変な事になったねと
小声で囁きあった



エンドロールを諦め
劇場内の階段を下り
非常灯だけの暗いスロープを
ゆっくりと進む
後ろを歩く彼が足早に回り込むと
強引に唇を奪われた

咄嗟に考えたのは
ムードもなにもない
「濃厚接触」の焦り

ぶっきらぼうに押し返し
「ふざけないで」
とあしらった


化粧室に入り鏡を見ると
口紅が斜めによれていた

テイッシュでおさえ、直すあいだ

久しぶりのキスに
遅ればせに心がざわついた






都知事の自粛要請に
街から人が消えはじめた週末
前々から予定していた「会合」に
予定通り出かける

店内は思いのほか盛況で
予約者の名前を伝えると
店長が満面の笑みで迎えてくれた

延長を繰り返し
とうとう追い出されるまで
宴を楽しんだ

店の外で 仲間のスマホに向かい
みんなでピースサインを作る
三々五々に別れ
最後はその日はじめて参加した男性と二人になった

地下鉄の改札前で
短く挨拶すると腕をつかまれた

帰りを急ぐ人並みに逆らって
彼の言葉を待つ
たぶん、時間的にはほんの僅か

もごもごと言いよどむ彼に
酔いの勢いを借りて
唇に軽くキスをみまう




奪うも
奪われるも
みな 春の夢のごとし