(何の匂いかしら?・・・・)

とても官能的な匂いが辺り一面漂っていた。

私は深い霧の中を歩く。

霧は次第に薄れていき、光が差し込んだ。

(あぁ。何て・・・何て 美しいの。・・・)

目の前に広がるのは、ラベンダーで埋め尽くされたあの野原。

私はそのラベンダーに心を奪われていた。

その時、突然勢いよく風が吹き私の髪は乱れ、白いワンピースの裾はひらひらと波打っていた。

ふと、肩に視線を落とすとあの蝶が止まっていた。


「やぁ。」


突然誰かに声を掛けられ思わず叫んでしまった。


「キャッ!」


彼だ・・・・・

あのセクシーな人。

(これは・・・・・夢なのね。)

私は彼を見つめた・・・


「あなた・・・誰なの?・・・」


私の声は期待と恐怖が混じり合っていた。

彼はまたあのセクシーで意味ありげな笑みを浮かべながら口を開いた


「・・・君は美しい。」


あっけにとられ、私の顔は見る見るうちに真っ赤に染まっていった。

(なんて、セクシーな声なのかしら・・・)

またもや、思考回路が停止してしまっていた。

どのくらいの時間、私は馬鹿みたいに口を半開きにしていたんだろう。

はっ。と我に返り自分に叱った。

(アンナ!あんたいい加減にしなさいよ!どれだけ見とれてるわけ?しっかりして!・・・)


「あなたの名前は?」


地に足をつけ、もう一度訪ねてみた。


「わたしの名前は・・・リ・・・・サリエルだ。」


彼の声は、どこか悲しげだった。

私が口を開こうとしたその時、彼の手が私の頬に触れた。

今まで「体が蕩けてしまう」という比喩表現が理解できなかったけれど、今初めて理解できる気がした。

私の体はまるで自分の物ではなくなってしまったかのような、そんな錯覚に陥った。

(あぁ、何て・・・何て魅惑的な人なのかしら?)


「あなたは・・一体何者なの?」


彼の目に影が射しこんだ。


「アンナ。・・・わたしは罪を犯した・・・許されないことだ。」


(何を言っているの?・・・あなたが何の罪を犯したと?)


「罪って?・・・一体・・なん・・・」


(あぁ、意識が遠くなっていく・・・サミエル・・・)

私は何かに引き寄せられるかの様に光に包まれていった・・・・

(サリエル・・・サリエル・・・)


「サリエル!!!」


私は飛び起きた。

まだ外は太陽が昇りきっておらず、薄暗かった。

何時だろうとベッドサイドの時計を見やった、AM5:30 

(まだ5時か・・・・私はどうしてしまったのかしら? 同じ人の夢をこんなリアルに見るなんて。)

そこで私はハッとした。

(夢に出てきた彼は、あの事故現場で見た彼だわ!)

私は急に体が強張った。

夢の中では全く気付かなかったが、あの人は絶対あの現場にいて運転手の男性を連れ出していた人。

(でも、なぜあそこに?・・・しかも他の人には見えていなかった?・・・私おかしくなってしまったの?)

私は頭をふった。 もう考えるのはよそう。だって、こんな話誰が信じるとでも?

そう、自分に言い聞かせながら私は水を飲みに下のキッチンへ降りて行った。

結局あれから一睡もできぬまま学校に行かなくてはならない時間になってしまった。

(ふぁあ。眠い・・・・ん~。今日の一限目は確か・・・)

午前の授業はどれも退屈だった。

寝不足のせいか何だか今朝から顔が火照り体もだるい。

お昼休みになり、エレナと何気ない会話をした。

相変わらず顔は火照っていた。


「そう言えば、この間の事故の運転手亡くなったらしいよ。」


エレナがいきなり話を変えた。


「そうなんだ。まだ若かったんじゃないの?」


私は、何故かあまり驚かなかった

何となくあの運転手は亡くなっているような気がしていたからだ。


「20歳だったらしいよ。 近所のおばさん達が今朝話してた。」


(そうなんだぁ・・・まだハタチかぁ。・・・彼女とかいたのかな?)

“死”について考えた事もなかった。

(死ぬってどんな感覚だろう・・・痛いのかな?苦しいのかな?)

そんな事を考えている間に、お昼休みが終わるチャイムが鳴った。

エレナと私はダラダラと次の授業の教室へと移動した


「アンナ!早く行こう!先生もう教室に来てるみたい!」


エレナが小走りで教室に入っていった。

午後の授業はどれも退屈だ。

世界史の市川先生は声が小さくて一番後ろの席の私には、何を言っているのか全く聞こえない。

最初の頃は何とか聞き取れるよう努力はしたものの、それも無駄に終わっていた。

ただひたすらノートを取るだけの退屈な授業だった。

隣の席の浜崎雄介君は、いつも教科書を枕に爆睡している。

今日もやはり聞き取りにくい市川先生の声は、今日の私には子守唄のようだった。

いつの間にか私は心地よい眠りへと誘われていた。

(寒い・・・なんて寒いの?・・・)

真っ白な地面・・・。真っ白な雪が降り積もっていた。

けれど、よく目を凝らして見ると雪のような真っ白な地面は、降り積もった灰だった。

そして空から降っているのも灰だ。

ゴーン。ゴーン。どこからか鐘の音が聞こえてきた。

私は、その鐘の音が聞こえる方へと歩き出した。

辺りは見たことのない街並みで、だれも住んでいる気配はない。

歩き続けていると、向こうの方から真っ黒なマントを羽織った団体がこちらへ向かってきた。

私は足を止めた。

(だれかしら?・・・)

真っ黒なマントを羽織った団体は、皆下を向いていて顔が見えない。

私はその団体の方へと歩き出そうとした。

けれどもいきなり誰かに腕を掴まれ建物の中へと引っ張られた。


「キャッ!!」


私は、思わず腕を勢いよく払いのけた。

建物の中は真っ暗で何も見えない。


「誰なの?!」


私は叫んだ。 すると静かな声が聞こえてきた。


「アンナ。私だ・・・驚かせてすまない。」


その声には聴き覚えがあった。


忘れるわけがない、「サリエル?!・・・サリエルなの?」


「そうだ。アンナ・・・ここへ来てはならない。・・・早く目覚めるんだ。」


サリエルの声はいつも穏やかだが、今日のサリエルの声は緊迫していた。


「サリエル一体何事なの?・・・これは夢でしょう?」


私は何が何だか分からずにいた。


「君の夢だが、君のいる場所ではない。」


「サリエル!何を言っているの?」


何も見えない暗闇の中、私の頬に手が触れた。

とても暖かくて優しい手だった。


「アンナ。私の言うことを聞いてくれないか。」


今度の彼の声は、少し穏やかさが戻っていた。


「わかったわサリエル。でも、どうすればいいの?」


私は頬に当てられた優しくて暖かい手に自分の手を重ねた。

重ねた瞬間彼の手がピクリと反応した。


「アンナ・・・私が彼らの気を引いている間に元来た道を戻るんだ。・・・いいね?」


「わかった。」


一瞬彼の手に力がこもり、そして頬から手を放した。

私は思わず口を開いた。


「サリエル。また会える?」


彼にまた会いたい。私は彼に惹かれていた。


「あぁ会えるよ。だから、ちゃんと帰るんだ。いいね?」


彼の声はとても穏やかだ。そして私を包み込むような声。

彼は、扉を開け真っ白な灰の中へと消えていった。

私は、彼に言われた通り元来た道を走って戻った


「・・ンナ!・・・アンナ!」


私は誰かに体を揺すられ目を覚ました。

エレナが心配そうに覗き込んでいた。

何だか体中が痛い! 頭も何だかボーッとする・・・


「エドワーズさん!具合はどう?」


保健の先生が声を掛けてきた。

(私・・・何で保健室に?・・・)


「あなた授業中突然倒れたのよ? 覚えてない?」


(倒れた?!・・・いつ?・・・)

全く記憶になかった。


「今日はもう帰った方がいいわね。・・・担任の林先生には伝えておくから。・・・ご両親はお仕事中?」


「・・・はい、仕事中ですので、少し休んでから自分で帰ります。」


私はボーっとしたままの頭で答えた。

結局担任の林先生が車で家まで送り届けてくれた


「エドワーズ、お母さんには連絡をしておいてあるから安心して休みなさい」


林先生はそう言い残してそのまま学校へと戻っていった。

キッチンへ行き、風邪薬と痛み止めを飲んで私はフラフラと2階の自分の部屋のベッドへと倒れこんだ。

横になっていると玄関の扉が開く音がした。

(ママかな?・・・でも、なんだかいつもと様子が違う?)


「ママなの?」


私は、フラフラしながら起き上り階段を下り玄関に向かったが玄関には誰もいない。

(気のせいだった? 熱のせいかもしれない。学校で計った時は38度あったし)

私はまた階段を上がろうとしたその時、背後に気配を感じた。

勢いよく振り向くと、そこには真っ黒なマントを羽織った男が立っていた。


「きゃぁ!!」


「誰なの?!」


私は悲鳴を上げたが、男は身動きせずこちらを見ていた。

マントを深く被っていて顏がよくみえない。

男はこちらに1歩近づき、口を開いた。


「へぇ~。あんたがアンナ・エドワーズか。 」


男の声は、同い年くらいの青年のようだった。


「誰なの? 何で私の名前を知っているの?」


男は何も言わずに、顏を上げた。

その顔は、まるで天使のような綺麗な顔をしていた。

髪は濃いゴールドでサラサラヘアーの短髪、瞳は透き通ったブルー。

全てが整っていて、とてもこの世の者とは思えないほどだった。

私がもう一度口を開きかけたその時、急にどこからか勢いよく風が吹き込んできた。


「やべっ。・・・アンナ。 またね。」


その青年は、満面の笑みを浮かべてあっという間に暗闇へと姿を消した。




ひらひらと蝶が舞う。

その数は無数で、一本道の様に連なっている。

私は誘われるように、蝶が創り出している幻想的な道を一歩ずつ進んだ。
先に進むにつれて霧がかかる。

でも、なぜだろう

私はこの道を迷わず進める・・・

どれくらい歩いただろう。

一匹の蝶が私の肩にとまった。

縁は暗黒のように黒く、中央にいくにつれ燃えるような真っ赤な色をした蝶・・・

今まで見たこともない蝶

その真っ赤な蝶が私の肩から飛び立った。

・・・・・すると、いつの間にか霧は晴れていた。

私は、足を止めた。

そこは紫のラベンダーで埋め尽くされた野原・・・

蝶が飛び立っていった先から、黒い人影がこちらへ向かってくる。

(だれ?・・・)

声にならない不安が押し寄せてくる。


その人影はまっすぐ、そして確実にこちらに向かってくる。

影にきらきらとした日差しが差した瞬間、私は息を呑んだ。

(なんて美しい人なの・・・)

髪は赤銅色で少しクセ毛ぎみ

目は濃いゴールドで、顎のラインはすっきりしていて

とても・・・とても・・・美しい顔をしていた。

背丈は185cmぐらいだろうか?

とてもすらりとしているのに、筋肉質でセクシーなラインをした男性だった。

彼は、私のすぐそばまで来て、ニコリと微笑んだ。


「やぁ。」


彼は優しい口調で、そして意味ありげな笑みを浮かべながらあいさつしてきた。

その声はとても心地がよく、そしてとてもセクシーな声だった。

私は息をするのも忘れていたらしい。

ふっと我に返って、大きく息を吸い込んでから、彼にあいさつを返した。


「どうも。」


(どうも?・・・もっとこう、素敵なあいさつの言葉があったでしょう?)

私は心の中で自分に叱った

私の顔はみるみるうちに真っ赤になっていた

さっき私の肩に止まっていた蝶みたいに・・・

顔が燃えるように熱くなった。

彼は、ニコリと笑った。


「アンナだね。」


彼が私の名前を言った。

こんなにもエロテッィクに名前を呼ばれたことがあっただろうか?

なんだか、その声だけで体中の全細胞が刺激されているかのように湧き立った。

(はっ!また我を忘れてしまった。)

(なんだか、自分の名前なのに自分じゃないみたい)

(でもどうして私の名前を?)

私は、目をしばたたかせた。

そして、恐る恐る口を開いた。


「なぜ私の名前を?」


彼がまたあの意味ありげな笑みをして答えた。


「君のことなら何でも知っているよ。会いたかった、アンナ。」


(え?何・・どうして?一体誰なの?)

私は警戒するように彼を見上げた。

その反面、彼の美しい顔にまたしても見とれている自分もいた。

すると彼の顔に暗い影が射した。


「アンナ・・・目覚める時間だよ」


彼の声は少し悲しそうだった。

私は何も考えず口だけがさきばしっていた。


「また会える?」


彼は、何も答えずニコリと笑った。

その笑顔はまるで無邪気な少年の様でさっきまでの彼とはまるで違って見えた。

そして、眩しすぎるくらいの光の中へと消えて行った。





ピピピ・・・ピピピ・・・ピピピピピピピピピピピ

私は飛び起きた。

そしていつものように目覚まし時計のアラームを止めた。

(何だかとても不思議な夢だったなぁ・・・)

私はベッドの上で膝を抱えた

すると、ドアの向こうから聞きなれた声がしたかと思うといきなりドアが勢いよく開いた。


「アンナ!!」


親友のエレナだ。エレナ・フローレンス

エレナはとても美人で高校生2年とは思えないほど大人びている。

髪は濃いブラウンをしていて、瞳は明るいグレー。

エレナは日本とアメリカのハーフだ。

エレナの父親は研究者で大学の教授をしている。母親は日本人でとても明るくて優しい人。

大学の講師をしていたが、結婚を機に専業主婦をしている。

エレナは両親に似て頭が良く、母親ゆずりで明るくて、クラス人気者。

もちろん男子にも注目の的だけれど、エレナは誰に告白されても無関心だった。

何やら運命の相手を待っているらしい。



「アンナ!ハッピーバースデー!!今日から新学期よ!今学期こそ私運命の相手と出会えそうだわ!」


「ありがとう。そして、運命の相手やらに早く出会えるといいわね。」


(運命の相手・・・ね。・・・)

私は呆れて目を回してみせた

新学期が始まる度にエレナが必ず言う台詞だ。


「あ!アンナ!あなた運命の相手とか馬鹿らしいとか思ってるんでしょう!」


エレナは睨みを利かしてこちらを見やった。


「そんなことないって。さっ!支度するから、エレナも帰って」


「わかったわよ。あっ!これプレゼント!じゃぁまた後でね!」


「ありがとう、エレナ!」


満足げな表情をしながらエレナは嵐のようにやってきて去って行った。

私たちの家はお隣同士で徒歩30秒もあればすぐに会える距離だった。

私は小学1年生の時までアメリカに住んでいた。

両親の離婚を機に母は私と兄を連れて日本に越してきた。

最初はなぜ日本なのか、わからなかったが、理由はすぐに分った。

母は昔日本に留学していて、そこで同じクラスだった日本人男性と付き合うようになったらしい

二人はまだ若くて、母も1年だけという両親との約束で留学していた為に二人は離れ離れになっ
た。

何度か日本に行こうと試みたが、両親は母を許さなかった。

そんな時、母に訃報が届いた。母と付き合っていた日本人男性が、交通事故に遭いこの世を去ったと。

母は何年も塞ぎ込んだ。そんな母に胸を痛めた両親は、私の父を紹介した。

父は、祖父が経営していた会社の社員だった。

母と父は徐々に距離を縮めていき、付き合いだして1年後兄のルイを身ごもった。

そしてルイが生まれてから3年後私が生まれた。

私たち家族はだれが見ても仲の良い家族だった。

だが、祖父が父に社長の席を任せ始めた頃から、父と母はよく喧嘩をするようになっていった。

理由は教えてはくれなかった。そして、等々2人は離婚した。

離婚後、母はずっと行きたかった日本へ私と兄を連れてきたのだった。

引っ越した当時、私はまだ5歳で日本のインターナショナルスクールへ通ったが

中々クラスとも馴染めず泣いてばかりいた私に最初に声をかけてくれたのがエレナだった。

エレナと打ち解けるまでにそう時間はかからなかった。

母は留学時代の知り合いの紹介で、持ち前のセンスを生かしてデザイン会社で務め始めた。

私たち家族3人はお互いを支えあいながら生活していき、去年母はエレナの家の隣の空き家を買ったのだ。


「アンナ!早くご飯食べて学校に行きなさい!遅刻するわよ!」


母が階段の下から、叫んだ。

キッチンへ下りていくと、ママと兄のルイが同時に口を開いた。


「ハッピーバースデー!アンナ!!」


「ありがとう。ママ!ルイ!」


それから2人にプレゼントを貰った。

ママからは小鳥のチャームに小さなダイアをあしらったネックレス

ルイからは貝殻がついた小洒落な香水だった。


「アンナ、はい・・・」


そして、もう一つママから毎年別にプレゼントを手渡される。

祖父からだと聞かされているけれど、私は何だか祖父ではない気がしていた。

そのプレゼントは毎年変わらずブレスレットに着ける小さな赤い石のチャームだった。

始めは、プラチナブレスレットに小さな赤い石が一つ付いた物だったのを覚えている。

17歳を迎えた今日でそのブレスレットに赤い石が17個付く。

(ママはおじいちゃんからだと言い切るけれど、一体誰から何だろう?)

私はそう思うようになっていたが、誰からの贈り物なのか今だ謎のままだった。


「今日の夜は外食にしましょうね。」


ママが楽しそうに言った。


「うん。楽しみにしてる!」


私は急いで支度をして、朝ご飯を食べ学校に向かった。

(はぁ・・・。誕生日の日に新学期かぁー。なんか憂鬱だなぁ・・・)

エレナは隣で歩きながら、何やら今日の運勢を携帯で調べていた。


「アンナ!あなた今日の運勢は、[強い絆あり]ですって! 出会っちゃうかもよ?運命の・ひ・」


キキィー!!!



その時、いきなりすごいスピードで車が横転した。


「キャー!!!」


「車が!!救急車を早く!」


通学・通勤時間だった為、大勢の人が目撃していた。

「中の人死んだ?」


「いや。わかんない・・でも動いてなくない?」


「ヤバいね」


野次馬たちが好き好きに言葉を交わしていた。

その時、横転した車の前に1人の男性が立っていた。

全身真っ黒のスーツを着ていた。

(あの人、何してんの? 警察か何か? でも制服じゃないよね・・・)

その男性は、手を車体に差し込んだ。

すると、車体の中が一瞬青白く光ったかと思うとさっきまでピクリとも動かなかった運転手が割れ

た窓ガラスから出てきた。


「えっ!?うそ!!!すごい! エレナあの人生きてたよ!」


するとエレナが眉間に皺をよせて私を見た。


「アンナ、あの人動いてないよ?なんで生きてるってわかるの?」


(え?・・・・)

「え?だって今出てき・・・・」


(うそ!・・・だれもいない。)

さっきまで、そこに立っていた運転手と男性の姿はなかった。

10分後パトカーと救急車が来たが、救急隊員が運転手の男性に声をかけても応答はなかった。

すぐに搬送されていった。

すると、私のうしろの方から何やら声が聞こえてきた。

振り向くと、さっき運ばれた運転手の男性と全身真っ黒のスーツを着た男性がたっていた。

私は頭が真っ白になった。

(うそ?!え?どういうこと?)

スーツの男性は運転手の男性に向かって何か話していた。


「理解できたか? 大丈夫だ。君は安心していい。 不安など感じなくてもいいんだ。」


スーツの男性の声は何だかとても安心させられるような声だった。

運転手の男性は、泣くばかりで何もしゃべらなかった。

ふっと何気なくスーツの男性の顔を見た。

その瞬間、私の心臓は一気に跳ね上がった。

(この人!!!昨夜私が見た夢に出てきた人だわ!)

そう。私が昨晩見た不思議な夢に出てきたあのセクシーな男性だった。

私の頭は思考回路が停止してしまったかのように、真っ白になった。

スーツの男性は私に気づいた。

すると、夢で見たあの意味ありげでセクシーな笑みをみせた。


「アンナ!」


エレナが私を呼ぶ声にはっとし我に返った。

一瞬エレナの方を向き、またあの男性の方を向いた時にはすでに男性と運転手の姿は消えていた。