貴方といると、まるで本当に人の子になったような気持ちになる時がある。

神でなくなるのが怖いのではなくて、

貴方を思って自分が神であることを忘れてしまう事が、少し怖い。

 

      名もなき花

 

「わぁ、見てみて白龍。可愛い花が咲いてるの。なんていう花かなぁ。」

 

にっこりと微笑んで手招きする望美のもとへ、白龍は無邪気に走り寄った。

これこれ としゃがんでいる望美が自分の足元を指差している。

同じように白龍もしゃがみこんでその指先を辿ると、

そこには小さな見たことの無い花が一輪咲いていた。

 

「神子、私はこの花の名前、知らない。初めて見たから。」

「あ、白龍でも見たことの無い花があるんだ。

そうか、龍なんだもんねいつもは。こんなに小さい花は見ないか。」

 

そういうわけではないのだけれど、望美の意識は花に全面的に向けられているようだったので、

白龍は笑って一緒に花を見つめた。

 

その花はまだ雪のちらほらと残る野原では珍しく、見渡す限りでは此処に一輪だけだけだった。

花びらの先がちらちらとしていて珍しいものではあったけれど、

小ぶりでけして派手な色ではない花なので、春に咲けばかえって見落としてしまうだろう。

上品な淡い色合いが、とても神子に似合うだろうと白龍は頬を緩ませた。

 

「望美ー!?なにしてるんだ!そろそろ行くぞ!!」

「あ、はぁーい。名残惜しいけど、いこっか、白龍。」

「・・・うん。」

 

少し寂しげに花に微笑んでから、望美は足早に九朗の下へと走っていった。

その背中を短い間見送ってから、もう一度白龍は視線を小さな花に落とす。

人の形を成した指先が、そっと折れそうに細い茎をなぞった。

 

「お前、あんな所にしゃがみこんで何をしてたんだ?」

「えーっと珍しい花があったから、見てたんです。」

 

少し遠くから聞こえる2人の声を頭の端で聞きながら、さらに白龍の親指が茎へと触れる。

 

「花ぁ?」

「あ、馬鹿にしてる。だってまだ雪も溶けてないのに、

こんなに小さくて可愛い花が一輪だけ咲いてたんですよ?!」

「あー・・・まぁ、わかったわかった。・・・そんなに気に入ったんなら折ってくれば良かっただろう。」

 

白龍の指先に少し力がかかった。

この花は神子に、似合う。

 

「そんなことできませんよ。あんな環境で一輪だけ頑張って咲いてるんですもん。

なんだか折っちゃうなんてかわいそうでしょう?」

「そういうものか?」

「そういうものなんです!」

 

びくり と花から弾かれたように白龍の手が離れ、ひどく絶望したように瞳が揺れた。

折られてはいないけれど、力を加えられた茎は、そこだけ色濃く緑が深くなっている。

 

「白龍ー?どうしたのー?もう行くよーー!!」

 

ゆっくりと視線を望美へと向けてから、もう一度花に視線をやった。

風に揺れる花は痛々しげでもあり、今にも折れそうな命をどうにか留めているようだった。

 

「神子!!」

「わ!どうしたの?白龍。なんか怖いものでも見たの?」

 

急に走って来て抱きつく白龍に、望美は多少驚いたような口調でそう問うた。

きつく望美の服を握り締めてただ俯かせた頭をふるふると横に振る白龍に、

望美は一度九朗と不思議そうに目を合わせ、それから優しく白龍の頭をなでた。

 

 

優しい神子の指先は、あのように必死に生きる花を無下に手折ったりはしない。

なのに私は、

私は手折ろうとしてしまった。

神子に似合うと、ただそれだけの理由で。

私はあの瞬間、神である事を忘れたのだ。

 

神子、

神子、

ごめんなさい、神子。

私は神として失格かもしれない。

 

神子は私の大切な神子だから、だから神子さえ幸せならばいいのだと、

そう、思ってしまった。

 

ねぇ神子、すごく怖いよ。

力を失う事が怖いんじゃない、消滅するのが怖いんじゃない

神でなくなることが怖いんじゃない。

貴方さえいれば、貴方さえ笑っていたらいいのだと、

この身の意味を全て忘れてしまう事が、すごく、怖い。

 

それでもこの手は、離せない。

 

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言っておきますが、小さい白龍ですよ!!

そしてこれは九望だったという・・・ごめん九朗。しかも最初は花じゃなくて小魚だった。

でもまさか拾って飼ったらいいだろうと九朗が言うはずも無いじゃないかと言う事で花にしたんです。

なんかこれはネタとしてあったんですが、どこかでかぶっているサイト様があるという話だったので、

書くの控えてたんですが(忘れてたんですが一週間も前じゃないのにね)、

言われて見ればパロもかぶってるべーと思って・・・。すみません;書きました。あはは。

苦情でも来たら消そう。というか苦情来るならすでにここの創作全部をね、

消す様にとの熱い要望があっても可笑しくないな。(だから笑えないんだって)