MPT
に対する実務者からの反論
前回、1980年代末のわが国株式市場におけるバブル崩壊によって、MPT(モダン・ポートフォリオ・セオリー)が一躍脚光を浴びたことを述べました。
MPTの骨格は市場の効率性であり、表面上は人為的運用、チャート、企業分析の否定となります。
ただし、MPTは投資の世界に科学を持ち込んだものですが、科学だからと言って、一度証明されたら絶対かというと、必ずしもそうではありません。
たとえば、学術世界からのアプローチを実務の世界から見ると、前提条件自体に実態と乖離が大きすぎるものがあったりします。
現実には実務家からばかりではなく、その後学術的にもMPTに対する反証例が多く出ました。
学術的な反証としては、「効率的市場仮説」の今日的・批判的検証への視角を参考にしてください。
参照URL:http://www013.upp.so-net.ne.jp/sigeru/ronbun13.htm
前提条件自体がおかしいという点を、アナリスト業務を例に挙げてみます。
企業が公開した情報、データを用いて分析を行っても、いかなる超過リターンも得られないというのがMPTの主張です。
それが、なぜかアナリスト業務の否定とされています。しかし、アナリストの立場からすると、この議論自体が全くナンセンスに見えるのです。
つまり、もともと過去データの分析で、将来の業績がわかるのであれば、アナリストは要らないのであって、コンピュータで十分となります。アナリストの業務はいまだ見えない将来をいかに予想するかなのです。
なぜ、学術の世界の人々が、考え違いをするかというと、財務諸表分析の教科書のあり方からもわかります。
財務諸表分析には財務の安定度などを見る部分や将来業績を予想する部分があります。そして、将来の売上を予想するのに、便宜上過去のトレンドを延長するような手法を用います。
それは、教科書であるので仕方がないのですが、実際にアナリストが予想する場合は、過去を分析した上で、業界内の優劣や経営者の力量、経済情勢などの見通しとつき合わせて、業績を予想します。
よって、アナリストから言わせれば、MPTで言う、公表データからはいかなる超過リターンも得られないというのは、証明したぞと胸を張られても、そんなもん最初からわかって仕事をしているぞという程度の話なのです。
結局、たぶん初めのほうに、学術的なロジックを一般の証券界の人間にわかるように表現した人が、過去データからはなんら超過リターンは得られないという準強度の効率性仮説は、本当だとすればアナリスト業務を否定すると書いてしまったのでしょう。
しかし、そのことを真剣に検証しても重要なことの証明にはならないため、ほとんどの人がそのまま使い回しているとしか考えられません。
上の引用例でも、MPTの主張として「準強度の効率性が実証されれば、ファンダメンタル分析は無意味であり、証券アナリストの存在価値はなくなる」としていますが、どう考えてもスタートがおかしいのです。
何十年経ってもこの文章を変えようという人がいないのは不思議すぎることである。
ついでに、チャーチストからの見方というものも代弁しておきます。私は多くのチャーチストと接してきて、過去の株価が将来の株価を予想しないということは、大半のチャーチストが認識しているように思われるのです。
その点に関しては、チャーチストもアナリストとほぼ同じ立場にあります。実際問題、先行きの上昇を示唆するチャートを持ってきても、その後に上昇する確率は五分五分なのです。
それでは、チャートを見る意味は何かということになります。
ひとつの意義は、スクリーニングの指標としてチャートを用いているということです。つまり、チャートによるスクリーニングはPERやPBRによるスクリーニングと同程度の意味合いなのです。
数千銘柄の上場企業から、上がりそうな銘柄を探すときに、その後に大きく上昇する傾向のあるチャートパターンの銘柄に絞り込むのです。
その中から、その他の条件、つまりそのときの市場環境に合わせて、流動性が高い銘柄か、低い銘柄か、知名度のある銘柄か、ない銘柄か、インデックス銘柄がいいのか、そうでない銘柄がいいかということを見極める必要があります。
このようなことを、チャーチスト自らは「チャートは科学ではなく、アートである」と表現しています。アートゆえ、センスのある人とない人で差が出ます。
つまり、彼らチャーチストもアナリスト同様、過去のデータだけで、将来の株価がわかるとは考えていないのではないかと思われるのです。
以上が、実務者の立場から見たMPTの修正的な見方になります。
しかし、このアナリストとチャーチストの立場は、1990年を境に逆の道をたどります。
つまり、それまであまり尊重されているとは言えなかったアナリストが、ランキング制度の発足と同時に脚光を浴びるようになりました。
一方、どこの証券会社にもいたチャーチストは、いつの間にか機関投資家を主要顧客とする部署からは姿を消してました。ただし、厳密に言えば、ストラテジストや市場アナリストに姿を変えたのでして、個別銘柄についてコメントするチャーチストがいなくなったということでしょう。