わたしはドトールコーヒーをよく利用する。
手ごろなお値段と,シックな雰囲気の店内が好きで
大体いつも真ん中の大テーブルを陣取っている。
東京に住んでた頃は,毎日のように通った。
窓際のカウンター席に座り,道行く人をよくウォッチングしていた。
そんなドトール大好き人間であるわたしは,
頑なにアイスコーヒーを飲み続けている。
寒かろうが,暑かろうが,忙しかろうが,暇であろうが。
アイスコーヒーのSサイズを頼むのが当たり前で
メニューなんぞほとんど見たことがないくらい,アイスコーヒー。
それはもうやっぱり頑なだね,と言ってもらって構わないレベルだ。
そんなある日の事,いつものように店内へ入り,
レジに並ぼうとしたら思いのほか混んでいた。
前に3人ほど先客が居たのである。
頼みもしないのに,ミラノサンドの写真を見上げ,
自分の順番を待つ。
列は案外サクサク進む。
『ご注文どうぞ』
「アイスコーヒー」
『サイズはいかがなさいますか?』
「Sで」
『ご注文どうぞ』
「アイスコーヒー」
『サイズはいかがなさいますか?』
「Sで」
『ご注文どうぞ』
「アイスコーヒー」
『サイズはいかがなさいますか?』
「Sで」
・・・
あろう事か,わたしの前に並んでいた別々の男女のみなさんが
全く同じ口調で同じものを頼んだのである。
それもアイスコーヒーのSサイズ。
これには困った。
本来ならアイスコーヒーの波を崩してはいけないはずで
それはまるで個人個人が順番にドミノを並べていくが如くだ。
しかし,明らかにそのリズムは目立っていて,
周囲の人もその異変(アイスコーヒーSサイズ3連発)に気付いていただろう。
4番目のわたしはその流れでアイスコーヒーを頼むと,
前の3人に迎合する形に見えてしまうのではないか?
いやいや,みなさん聞いてください。
僕は最初からアイスコーヒーを頼むつもりだったんですよ。
決して,前の方々の真似をしている訳じゃないんですよ。
ねー店員さん?そうですよね?
僕,いっつも馬鹿の一つ覚えのようにアイスコーヒーばかりですよね?
と,いらぬシチュエーションを妄想しつつ,前の人のお会計を見守る。
こういう時こそ,「いつもの」という
あのフレーズを言い放てればどんなに楽であろうか。
いや,そんな事を言って店員さんに,は?という顔をされ
『当店ではそのようなシステムは採用しておりません』
とか言われたら末代までの恥。
まだ見たことも無い,玄孫から文句を言われるやも知れない。
と,少し危ない思考の回路をさまよってもみた。
そして自分の番が来たとき,わたしは
「アイスティ]を注文していた。
そんなの今まで飲んだ事ないのに。
これはあくまで柔軟に対応した結果だ。
おれは,今まで飲んだ事がないアイスティにチャレンジした
柔軟極まりない男なのだ,と言い聞かせる。
後ろの人は普通にアイスコーヒーを頼んでいた。
それを見て,あの人,本当はアイスティの飲みたかったのかなぁと
ぼんやり考えてみたけど,もちろん真偽はわからない。
ただ,アイスティは味わった事のないほどの渋みがあった。
かしこ