随分厳かに年が明けた。


年末・年始と王子は顔を見せず,

僕は一人で孤独に机に向かっていた。


そういえば誰かが言っていたっけな。


「受験は孤独なマラソンと一緒だ」


僕はポツリと声にしてみた。


年末・年始はどこに出かけることもなく,

ただ何となく御節を食べ,

ただ何となくテレビを見て,

そして,勉強に明け暮れていた。


そういえばこんな事も言っていたな。


「受験生に正月はない」


王子がいたら

「受験生に正月がないのは小さくガッツポーズしろよ。小ガッツ!ぷっ」

などと相当ヒドイ駄洒落をかましてくるところだろうな。


自嘲気味に笑っていたら,突然王子がにゅ~っとが現れた。


「よう!あけおめ。そして,ことよろ!」


『それはもう古いですよ。何年前のあいさつですか?』


「どうだい受験生。孤独と戦っているか?」

「ま,受験生に正月はないからな。正月がないのはあ,しょうがないツ」


・・・僕の方がまだ上手だ。


「それよりよお。今から羽根つきしようぜ,羽根つき!」


『え?羽根つきってあの羽根と羽子板を使うヤツですか?』

我ながらひねりがない返答をしてしまった。


「そうだよ。そんで負けた方は顔に墨で落書きされる方式で。」


『なんすか,その方式でって。まあいいですけどどこでやるんですか?』


「そうだな,裏の空き地に行こうぜ」


僕は王子と並んで裏の空き地へと向かった。


どこから調達してきたのかわからないけど,

王子は羽根と羽子板と,そして墨汁を持っていた。


かつーん,ぽかーんと羽根をつきながら僕らは他愛無い言葉を交わした。


受験生は孤独か,とか。

受験で大切なのは覚悟だ,とか。


王子の顔はすでに真っ黒で,○や×が顔中に描かれていた。


その会話の中でどうも王子は僕に何かを伝えたいようだった。

でも,それを躊躇しているのか,なかなか言い出さない。


覚悟だ,気合だ,根性だと話すわりには,

肝心なところで言いかけて止める。


ひょっとして僕に何かを言いたいのではないか?

何か言いづらい事なのだろうか。


『王子。もう塗る場所がないからもう止めましょうよ』

『これが最後の勝負です。そして・・・』

『負けた方は勝った方の言う事を1つ聞くってのはどうですか?』


ぼくは何となく切り出した。


「お!いいねぇ~。よし,じゃあ負けたほうは何でも聞くんだぞ!」

鼻息荒く燃えている。


しかし,王子は泣きたくなるほど弱い。

どんな高さに飛んできても何故か横から羽子板を振る。

ちょうど卓球のラケットを振るように。


だから全然当らないし,たまたま当ってもすぐ打ち返される。


よ~しいくぞ~と王子がサーブ(?)してきた。


僕はカツーンと返し,羽根を見上げた。


と,同時に王子の必死の顔が見えた。

相変らず羽子板は横に構えている。


そりゃー!!

気合い充分王子が渾身の一撃を振る。


バシーン!


羽根はよわよわしく僕の方へ飛んできた。


僕はその羽根の横を掠めるように羽子板を振り下ろし,

おでこで羽根をキャッチした。


僕の負けだ。


「おおお!やったぁ!勝った勝った!」

王子は小躍りしている。


「じゃあ,約束どおり言うぜ」


僕はおでこをさすりながら聞いた。


「年が明けて心機一転。受験生として最後のステップに入ろうぜ」


最後のステップ?


「部屋の中の娯楽,いや勉強に関係ないものは一切片付けること」


一切のものを?


「勉強道具と寝具以外はぜ~んぶ目の届かないところへしまうんだ。」


・・・それを僕に言えずにモジモジしていたのか。。。


【本日の宿題


勉強以外の道具は全て片付ける


52.僕が娯楽を捨てた日  


かしこ