『本当の』志望校を決める


僕は必死に自転車を立ちこぎして坂を登っていた。

背中にじんわりと汗をかきながらこぎにこいだ。


坂の上に建物の影がうっすらと見えてきた。

あれが夢見ヶ丘高校だ。


その影を見ながら,僕はある覚悟を決めていた。


そうだ。

自分で限界を作っちゃいけない。

僕は自分で本当に行きたいところに進学するんだ。

よ~し!ぜってぇあそこに辿りついてやるぜぇ。


今まで心の中でモヤモヤしていたものが一気に吹き飛んだ。


まだまだ全然点数は足りていないけど,

僕は夢見ヶ丘高校に行きたい!


『ここが僕の志望校だぁ~』

頂上まで登りきった所で自然と叫んでいた。


周りの人たちが僕をみてクスクスしている。


あちゃ~・・はずかしい・・・


「だいぶ吹っ切れたみたいだな。」


『ええ。もう迷いませんよ。』

『僕の志望校はこの夢見ヶ丘高校です!』


僕は王子に胸を張りながら,学校を指さした。


「よし。点数うんぬんかんぬんやら,内申どうたらこうたらは後回し」

「とりあえず,合格したときのイメージ作りをしていこうぜ」


『イメージ作りですか?』


「おう,イメージは大切だからな」

「ホレホレ,その辺の人に合格発表ってどこでやるか聞いて来い」


『ええ~・・・恥ずかしいですよ』


「お前何言ってんの?」

「もしお前がここの生徒になって,中学生がそうやって聞いてきたらどう思う?」

「何こいつ?恥ずかしい奴だなぁ~って思うの?」


『いや別に。むしろ頑張ってるなぁって思うかも』


「だろ?だから全然恥ずかしくも何ともないからさ」

「お?ちょうど来たじゃん。あの子に聞いて来いよ」


向こうから一人の女の人が歩いてきた。

まだ1年生ぐらいだろうか。


『あの~・・・つかぬ事をお聞きしますが・・・』


その人は何かしら?という風に首をかしげた。


『そのぉ・・・合格発表ってどのあたりでするんですか?』


“あら、君受験生?へ~えらいねぇ。ちゃんと下見に来たんだ。”

“いいわ。私が案内してあげる”


くるりとひるがえり,彼女は校舎の方へ歩き出した。


「おい,ラッキーだな。あのかわい子ちゃんの後へ続け続け」


王子の低レベルのお話は耳には入らず,

僕はその場で立ち尽くした。


中学生と高校生とでは,ここまで差があるのかと呆然としていた。

なんというか,まとっているオーラが違う。


“おーい,こっちこっち。”


ハッと我に返り,小走りで彼女についていった。


スタスタと歩きながら,彼女が話してきた。


“君はどうしてココを志望しているの?”


『あ,え~と・・夢見はすごくレベルが高いって聞いていて』

『やっぱり僕もそういうのに憧れるというか・・』


“ふ~んレベルがねぇ。じゃあ君も結構判定とかいいのね”


『あ,いや,僕はまだ全然足りていなくて。』

『ここに来れば何かしら刺激を受けれるかなって思って』

『やっぱりイメージって大切ですよね,イメージは。』


王子がニヤニヤしながら僕と彼女の間を歩いていた。


無論,彼女に王子の姿は見えていない(はず)


“あっそうなんだ。私てっきり余裕の見学かと思っていた。”

“そうかぁ・・・イメージは大切かぁ。それは言えてるかもね”


自然な笑顔で答えてくれた。


“私もね。去年君と同じように受験生のときにココに見学に来たの”

“実を言うと私も全然点数が足りていなかったんだよね”

“どうしても勉強に身が入らなくってさ。”

“そんな時先輩が『高校に見学しにおいで』って言ってくれたの”

“そして私はここに立った”


彼女は足を止め,壁を見つめた。


“あの壁に合格者の番号が書かれた掲示板が掛けられるのよ”

“合格発表の日は人が一杯になるの”


『そうなんですか・・』


僕はその壁にあるシミを見つめながら合格発表の日をイメージした。


“私は見学に来たとき,必死に合格した自分をイメージしたのよぉ”

“やったー!私は合格したよ!ってね。どうおかしいでしょ?”


ふふふっと彼女は笑った。


“でも,あの体験があったから私は合格できたって思えるなぁ”

“あの日から私は合格するのが楽しみで楽しみで仕方なかったもの”

“だから本当にイメージって大切だと思うよ”


彼女の体験話は妙に僕の心を揺さぶった。


5分ぐらい話をして,僕らは校門へ向かった。


『おい。おいっ!』

王子がつついて来る。


『カメラ,カメラ』

あ,そうか。


僕はカメラを取り出し校舎を撮ろうとした。


“それじゃイメージ半減だよ。貸してごらん。私が撮ってあげるよ”


そういうと僕を校門の前に立たせた。


“はい!じゃあいくよぉ~・・・もっとこう嬉しそうにしなきゃ!”

“やったー合格したぜぇって感じで!”


僕はハニカミながらガッツポーズをした。


はい,撮れたよと言いながらカメラを返してくれた。


“じゃあ,私はこれで帰るね。受験頑張ってね!ファイト!”


『あ,ありがとうございます。絶対頑張ります!』


僕はお辞儀をして,彼女を見送った。


なんだなんだこの胸の奥からこみ上げてくるものは?

なんか無性に勉強をしたくなってきたぞ!


うおーーーっとチャリンコをこいでコンビニに向かい,

先ほど撮った写真を現像した。


その写真にはガッツポーズをした僕と,夢高が写っていた。


「じゃあ早速その写真を壁に貼って勉強開始だな」


王子はニヤリと笑った。


『誰に言ってるんですか?当たり前でしょ。勉強しか見えませんよ,僕にはね。』


僕もニヤリと笑って家路についた。


【本日の宿題


志望校の前で写真を撮る


44.僕は白黒する。  


かしこ