市内の高校を実際に見学に行く


「ほれほれ,早く準備しろよ」


王子が僕を急かす。


『ちょ,ちょま,ちょっと待っててくださいよ!』


ドタバタする僕を王子が小突いてくる。


「いいからはよせぇやぁ~。あとデジカメも忘れんなよ」


『デジカメですか?』


僕は父さんのデジカメを借りて,ようやく家を出た。


「んで,どこから行くの?」


『じゃあまず芸術の森高校にしますか?』


「OKOK。よ~しじゃあ行こう!」

自転車のかごの中にスッポリ収まった王子が出発進行!と指さした。


全ての高校はさすがにムリなので,

自分が気になる高校だけを回る事にしたのだ。


まずは芸術の森高校。

芸高は郊外にひっそりと佇んでいる。

森に囲まれたすごく落ちついた趣だった。


「悪くないな。いやむしろお前に合ってるかもよ」

王子はくっくっくと笑った。


王子が笑うのには理由がある。


僕は実は絵描きになりたいと密かに思っていたのだ。

しかし肝心の絵心がまるっきりなく,王子に自画像を見せた時も

「へ?これ誰?」

僕の顔と絵を交互に見て,

「おれ,随分目が悪くなったのかのかな?」

と皮肉たっぷりに言われたのだ。


『ま,まあ,こんな感じですね。』

『じゃあ次は本命の学道高校に向かいますよ』


10分ほど走らせたところに学道高校はある。


3年ほど前に建て替えたばかりで,まだ随分新しい。


「ここがお前の本命校かぁ~。いいなぁきれいで」


『え,ええ。4月からここに通えるといいですね』

僕は持ってきたカメラでパチリと校門を撮った。


「よし,じゃあ次はどこだ?」


『え~と・・・せっかくなので夢見ヶ丘高校も見ておきたいんですが・・』


「へ?なんで?ヶ丘(王子は夢見ヶ丘をこう呼ぶ)は別にいいじゃん」

「あそこはちょっと丘になっているし,登るの大変だぜ?」


『いや,せっかくここまで来たし,街の景色も見たいですから』


ふ~ん,と言いながら王子は僕の目を見据え,

じ~っと見て,そしてじゃあ行くかとつぶやいた。


『出発進行!』

僕はペダルを一杯に踏み込んで自転車を走らせた。


道すがら王子が聞いてきた。


「お前さぁ,最近すごく頑張っているけど,自分でも変わってきたなぁって思う?」


『な,なんですか急に。確かに,今までの自分と比べたら変わってきたと思いますよ』


「そうか。それは良かった。前にも言ったと思うけど」

「お前は自分で思っているよりずっと素直ですごい奴なんだ」


なんか面と向かって言われると照れちゃうな・・・


「そんでもってものすごくわかりやすい性格なのな」

「そんなお前を見て思ったのは,志望校の事な。」

「お前さ。ホントの本命は学道じゃなくて,ヶ丘じゃないの?」


『・・・』


「人は本音と建前を上手に組み合わせて生きている」

「そりゃ建前も必要なときがある。っていうか建前がほとんどかも知れないよ。」

「でもな,自分の本音をしっかりと晒し出さなきゃいけない時ってのがあるんだ」

「それは人生の岐路に立ったとき。」


僕は黙って王子の話に耳を傾けていた。


「遠慮や謙遜で自分の進路を決めていいのか?」

「僕にはムリだから,僕には高すぎるから,みんなから笑われるかも」

「そんなことにビビって本音を隠していいのか?」

「これからの人生で後悔はしないのか?」


「本当に行きたい高校。それが志望校だ。」

「いける高校ではなく,いきたい高校!ってやつだ」


王子が話し終えた後,僕はごにょごにょと口を開いた。


『僕は勉強するようになって・・・勉強の楽しさが段々わかってきたんです』

『もっと先,最高峰で勉強する人たちは一体どんな景色を見てるんだろうって』

『そんな事を思うようになっても・・さすがに夢見ヶ丘はレベルが高いというか・・・』


「自分にはムリって思った?」

「じゃあもう一回思い出せよ。さっきお前変わってきたって言ったじゃないか」

「人は誰でも変われるんだよ。しかもかなり簡単にな」

「自分の思い込みを捨てろ。自分にはできるって事だけを信じろ。」

「そうすればお前は昨日の自分,今日の自分と全く違う自分になれる」

「もう10月だ。これからは受験も本当に過酷な勝負になってくる」

「そんな時に志望校が決まらないんです・・・なんてフワフワしてられっかよ!」

「バシッと本当に行きたい高校を決めたらあとは迷うな。」

「一心不乱に合格する事だけを考えて,行動しろ」


王子はいつになく真剣に語りかけてくれた。


自転車のかごにはまったまま。。。


【本日の宿題


『本当の』志望校を決定する


43.僕は高ぶる。


かしこ