お母さんに案内され、


二階にあるサヤの部屋の前に立つ。


お母さんは「お願いしますね。」と仰って


そのまま一階に戻られた。


俺は静かに一呼吸して、


目の前にある木製の扉を手の甲で叩いた。


トントン・・・


俺「こんばんは!」


・・・


反応はない。


俺は「入るよ。」と言って


扉を静かに開けた。


すると、サヤが入り口に背中を向けて、


奥にある机に向かい、勉強をしている最中だった。


部屋のカーテンやマット、テーブル、椅子、ベッドカバー、


その他の飾りつけはほとんどがピンクに統一されていた。


ベッドの上にはところ狭しとキティのぬいぐるみが


並べられている。


これがサヤの部屋か・・・


一瞬、感慨にふけった後、俺は気を取り直し、


サヤの机に近づいていった。


英語の問題集らしきものを開き、解いている。


俺はサヤの隣に用意された椅子に座る。


これから、どのような話をサヤとすれば良いのか


わからないまま、俺はサヤの顔を見つめた。


サヤは目を合わせず、目線は問題集に向けられたままだ・・・


しかし、手に握られたシャープペンは


全く動きをなしていない。


俺「わからないところある?」


サヤ「・・・ないです。」


俺「そう。なら、一度、問題集を閉じてもらえるかな?」


サヤ「どうしてですか?」


俺「・・・話があるんだ。」


サヤは一瞬、押し黙った後で


ペンを置き、問題集を閉じる。


俺「ありがとう。」


まだ、サヤは俺と目を合わせようとしない。


閉じられた問題集の表紙をうつろに見つめているだけだ。


俺はお母さんから聞いた余計なことは話さず、


何も知らないフリをして、お母さんと聞いたことと


同じことを聞いた。


俺「まずサヤの成績について聞きたいんだけど、


最近はどう?うまくいってる?」


サヤ「・・・普通です。」


俺「そうか、普通か。


具体的にはどれくらい取れてるのかな?


例えば、学年末テストの結果はどうだった?」


サヤ「どれくらいだったかな・・・


覚えてないです。」


俺「じゃあ、成績表とかある?」


サヤ「・・・捨てました。」


俺「そうなんだ。


なら、次の質問。


志望校はどこ?前と変わらない?」


彼女はある都市にある大学を目指していた。


少なくとも半年前までは・・・


サヤ「前と同じです。」


俺「なるほど。


そしたら、最近、何か模試は受けたかな?」


サヤ「はい。」


俺「志望校の判定はどうだった?」


サヤ「・・・覚えてないです。」


俺「そうか。」


お母さんの情報がもしなかったとしても、


話しぶりから、相当悪いのだろうと察しはついた。


そして、彼女はこの現実から逃げているのだ。


半年前まで、一度も成績が落ちたことのない


サヤが、初めて体験しているスランプである。


正直に受け止めきれないのも頷ける。


しかし、それは乗り越えないといけない・・・


スランプの原因はわかっている。


原因は言うまでもなく俺自身なのだから。


俺は、何とかしなければいけない責任感で一杯だった。


俺「・・・じゃあ、最後の質問。」


ここで俺は勝負に出た。


俺「まだ俺のこと好き?」


そこでサヤは「えっ?」という表情を見せ、


ようやく俺の顔を見た。


半年ぶりに視線が合う。


サヤ「・・・どうしてですか?」


真剣な表情で俺は話をし続ける。


俺「もし、俺のことがまだ好きで勉強に集中できない様なら


俺はいつでも恋人に戻れる準備はできているから!」


サヤ「でも、私、新しい彼氏いるし・・・」


俺「知ってる。だから、俺が嫌ならすぐに他の先生に


代えてもらっても構わない。


もし、彼氏じゃなくて、先生として純粋に勉強を見てもらいたい


ならそれでも構わない。


サヤのためなら何でもする!


だから・・・


サヤの正直な気持ちを教えてほしい。」


サヤ「・・・先生はどうなんですか?」


俺「・・・正直言って、最初この話をもらった時は


すごく迷ったんだよ。でも、サヤともう一度、しっかりと話を


しないといけないと思ったんだ。メールではなく、直接、話をしてね。


あの時は本当にごめんね。


ゆきちゃんと二人きりであんな所に行って・・・


あれは100%俺が悪かった・・・本当にごめん!


でも、ゆきちゃんとはホントに何もないから。


それにゆきちゃん本人もサヤのために何でもないってこと


証明したいって言ってくれてるんだよ・・・」


サヤ「それはわかってる・・・でも、他の女とは


話さないでって約束してたでしょう!?」


俺「うん。約束を破ってしまって本当にごめん・・・」


サヤ「それが許せなかった・・・


もう信じることができないと思って。」


俺「うん。本当にごめんね・・・」


サヤ「・・・・・・・・・・・・


・・・でも、私も悪かったと思ってます。


他の全ての女と話すなって約束自体が


最初から無茶苦茶だったのかなって・・・


自分も、子どもだったのかもしれないなって・・・


この半年間、そう思いました。


前は私、他の女と先生が話してたら、


先生が他の女のところにいってしまってるみたいで


何かすごくつらかったんです。


でも今、実際に自分が他の男と遊んだりしてたら、


わかったんです。他の男と遊んでも、


変わらない気持ちがあるってことが・・・」


俺「・・・それは、どういうこと!?」


サヤ「つまり、好きな人はそんなに簡単に変わる


ものじゃないってことです。」


俺「俺もだよ・・・じゃあ聞くけどさ。


今、サヤは誰が好きなの?」


サヤ「それは・・・その前に


先生は誰が好きなんですか?」


俺「俺は・・・この半年間、一生懸命忘れようとしていた


ある人だよ。それはどれだけ忘れようとしても


忘れることのできなかった人。」


サヤ「誰?」


俺「・・・それは言えない。


今は先生と生徒の関係だから。」


サヤ「なら、私も言えない。


まだ、彼氏と別れていないから。


だから先生、少し待っててもらえますか?」


俺「いいよ。」


そう言ってサヤはケータイで電話をかける。


サヤ「・・・あっ、もしもし?


うん・・・ちょっと話があるんだけどいい?


・・・うん・・・あのさ・・・・・・・・・


別れてほしい!それだけだから。じゃあね!」


そのまますぐに彼女はケータイを切った。


サヤ「先生・・・」


俺「ん?」


サヤ「今、彼氏と別れました。


私の本当に好きな人は先生です。


それは半年前から変わりません。


だから、私と付き合ってください。


もう一度。」


俺「うん。


ありがとう・・・


でも、まだダメだ。」


サヤ「どうして!?」


俺「実はサヤの成績のことが気になってる。


俺と付き合ったら悪影響がでないかと思って。」


サヤ「それは心配ないですよ!


前だって、一度も成績落ちたことなかったじゃないですか?」


俺「付き合ってる時はね・・・


でも今回みたいにまた別れたら?


もちろん、別れるつもりはなくて・・・


例えば、仮にの話だけど。」


サヤ「絶対に次は別れないから!!


大丈夫です!!」


俺「本当に?」


サヤ「はい!!」


俺「それならオッケーだよ。


俺と付き合うことがサヤにとって


パワーになるのなら、俺も嬉しいし。」


サヤ「じゃあ・・・いいんですか?」


俺「うん、またよろしくね。」


俺がそう言うと、彼女の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。


我慢していた感情が今、一瞬にして弾けたのだ。


俺は彼女の肩を静かに抱いた。


俺「つらかっただろう・・・ごめんね。」


サヤ「・・・うっ・・・うっ・・・」


俺たちはそうやってまた復縁したのだった。





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