俺は瞬時に無言になる。


少々、頭を整理する時間が必要だったのだ。


普段なら、その生徒の性格や特徴、


苦手とする教科、志望校、成績について


聞くことはいくらでもあるのだが・・・


今回に限って言えば、そんなことよりも


もっと違うことが俺の頭の中を支配していた。


何故、サヤが今さら俺を指名したのか?


それより俺のことを怒っていたのではないのか?


俺はその疑問を、まずは言葉に出さずにはいられなかった。


俺「あの・・・すいません。」


スタッフ「はい?」


俺「何故、この子は自分を指名してきたんでしょうか?」


スタッフ「それがですね。


先生、以前に当塾で講師されてた時、


この子の自習を熱心に見てくれていたそうじゃないですか?


それで、それを以前からご存知だったお母様が、


先生をリクエストしてこられたんですよ!


担当だった田岡先生が大学を卒業するので、


先生交代の旨をご報告した瞬間にw


先生、かなり気に入られてるみたいじゃないですか?w


頑張ってくださいね!」


俺「はぁ・・・」


お母さんのリクエストか・・・


ということは、サヤ自身は?


サヤ自身はこのことをどう思ってるのだろうか?


スタッフ「とにかく、今週の金曜から


早速指導を開始してもらってよろしいですか?」


俺「・・・ちょっと待って下さい!」


俺はそう言うなり、立ち上がり


塾をひとまず出て、サヤに電話をかけようとした。


しかし、すぐにサヤのメモリーを


すでに消していることに気がついた。


黙って椅子に座り直す。


スタッフ「・・・どうします?」


先生交代の権限は生徒であるサヤも持っている。


嫌ならすぐにその旨をスタッフに知らせるだろう・・・


それに意外とサヤもすでに俺のことは


区切りをつけているのかもしれない。


一講師として・・・


そして、それ以上でも、それ以下でもない存在として。


しかし、俺自身はどうだろうか。


サヤのことを意識することが少なくなってきていたとは言え、


またサヤに会うことでつらくはならないのだろうか。


彼女に会うことが俺にとってプラスになることは果たしてあるのか?


しかし、その時の俺には何も判断することができなかった。


それよりこれは、サヤともう一度話をするチャンスなのかもしれない。


どっちにしろ、このままでは寝覚めが悪いのは確かだ。


元に戻れなくてもいい。


ただ、まだ聞いていない俺への不満や


俺に何も言わず新しい彼氏を作った彼女の気持ちを


彼女の口からはっきりと聞いておきたかったのだ。


それによって初めて俺は彼女への思いに区切りを


つけることができるのだから。


したがって、俺はこう答えた。


俺「・・・わかりました、引き受けます。」




結局引き受けるんくわい!!
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