今まで、ブログに記載した限局性前立腺癌についてまとめました。

 

○「正常な食道粘膜で、遺伝子異常を起こした集団(クローン)」を解析した結果、遺伝子異常(ドライバー遺伝子異常(発がんやがんの悪性化の直接的な原因となるような遺伝子異常))は、20歳代の若年者の正常食道粘膜にも認められました。高度の飲酒や喫煙者では、同年齢に比して、遺伝子異常の頻度が高度でした。

→前立腺がんでも同様なことが起こるとすれば、若い頃から前立腺に遺伝子異常が起きること、悪い生活習慣(喫煙など)は、前立腺の遺伝子異常を増やすことが示唆されます。

 

○「グリーソンスコアと遺伝子異常」から、グリーソンスコア7になると、未分化ながん細胞が出現します。グリーソンスコア8以上になると、腫瘍塊は、未分化ながん細胞に置き換わり、腫瘍塊自体は、もっと小さくバラバラになり、前立腺の構造と似ていない像になります。グリーソンスコア7では、グリーソンスコア6に比べて、遺伝子異常が飛躍的に増えて来ます。特に多いのが、転移と増殖に関連する遺伝子異常です。

→グリーソンスコアは、遺伝子異常を反映しています。

 

○「限局性前立腺癌患者の長期予後ー15年間追跡したランダム化比較試験」の結果です(N Engl J Med. 2023 Apr 27;388(17):1547-1558. )

患者を、積極的監視、前立腺切除術、放射線治療(3次元原体照射、74Gy/37回分割照射)にランダムに割り付けました。患者の3 分の 1 以上が、診断時中または高リスクでした。前立腺癌による死亡は 45 人(2.7%) で発生した。積極的監視群で 17 (3.1%)、前立腺切除群で 12 (2.2%)、放射線療法群で 16 (2.9%) と有意差はなかった(P = 0.53)。あらゆる原因による死亡は 356 人 (21.7%) で発生し、3 つのグループすべてで同様の数でした。 転移は、積極的監視群で 51 人 (9.4%)、前立腺切除群で 26 人 (4.7%)、放射線療法群で 27 人 (5.0%) に発生した。 長期のアンドロゲン除去療法は、それぞれ 69 人 (12.7%)、40 人 (7.2%)、42 人 (7.7%) で開始されました。 臨床的進行は、それぞれ 141 人 (25.9%)、58 人 (10.5%)、60 人 (11.0%) で発生しました。 

→治療法をランダムに振り分け、15年間観察した結果です。死亡、転移、臨床的進行の観点からは、前立腺切除術と放射線治療に差はありませんでした。長期のアンドロゲン除去療法(PSA再発や臨床的再発に対して行われ、患者のQOLに関わる)の頻度も両者で差がありませんでした。発表された医学誌は、臨床論文でもっとも信頼度が高いN Engl J Medです。

 

○「限局性前立腺がんに対する手術と放射線治療の比較」によれば(Eur Urol. 2016 Jul;70(1):21-30. doi: 10.1016/j.eururo.2015.11.010. Epub 2015 Dec 15.)、前立腺全摘術と放射線治療を比較した論文をメタ解析した論文です。限局性前立腺がんに対する生存率と前立腺がん特異的生存率は、前立腺全摘術の方が優れている結果でした。

→上記のランダム化比較試験と相反する結果です。個人的には、15年経過観察し、N Engl J Medに発表されたランダム化比較試験の結果を重視します。

前立腺全摘術では、放射線治療に比して、術後のPSA再発に放射線照射できることが利点とされていますが、死亡、転移、臨床的進行、長期のアンドロゲン除去療法の観点からは、この説明は正しくないと思います。

 

○「放射線治療後のPSAの動き」から、外部放射線照射によって、直ちに前立腺がん細胞が死滅するわけではなく、死滅するまで2〜3年要します。照射後も死滅することなく、不可逆的に障害された前立腺がん細胞が存在します。

→照射後、不可逆的に障害された前立腺がん細胞は、PSAを産生する可能性があります。もし、可逆的障害の前立腺がん細胞が残った場合、将来再発を来す可能性があります。

 

○「エピローグ:根治的治療後の再発予防」から、前立腺がん診療ガイドライン2016年版(http://www.jsco-cpg.jp/prostate-cancer/)によれば、「CQ4 前立腺癌の化学予防として有用な薬剤は存在するか?」には、推奨グレードC2と厳しい回答となっています。C2は、「科学的根拠がなく,行わないよう勧められるです。

→前立腺がん診療ガイドラインは、今後改訂版が出ると思います。根治的治療後の再発予防についての新たな知見の記載に期待します。