ブログで、老化細胞は死に絶えることなく生き残り、様々な物質を産生し、それによって正常細胞が障害され、炎症が起きること、さらに、老化細胞を除去することによって、組織が若返ることを紹介しました。老化細胞を除去する物質や医薬品の検索が行われており、例えば、GLS-1(グルタミナーゼ1)阻害剤は、選択的に老化細胞を除去することや、カボスに含まれているウンベリフェロン(毒性あり)は、GLS1を阻害する作用があることを紹介しました。

 

最近、著明な医学雑誌であるNatureに、発表された論文に対するコメント記事が掲載されました。老化細胞は一生を通して体を傷つける。 Senescent cells damage the body throughout life. Nature (2023-01-05) .DOI: 10.1038/d41586-022-04430-9(Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 4)。

 

老化は避けられないものであると長い間考えられていたが、未然に防ぐ治療が実現可能であるとする証拠が増えてきている。こうした治療で特に注目されているのは、加齢に伴って蓄積する「老化」細胞、つまり細胞分裂を停止して、一見すると休眠状態にある、成長が止まった状態の細胞である。しかし、老化細胞の単離は困難であることが分かっており、老化細胞の挙動を生物の一生を通して完全に理解するに当たり障害になっている。このほどポンペウファブラ大学(スペイン・バルセロナ)のVictoria Moiseevaらは、マウスから老化細胞を単離する手法を確立し、Nature 2023年1月5日号169ページで報告した。Moiseevaらは、老化細胞を単離してから解析を行うことで、老化細胞が炎症を引き起こすこと、また、若齢マウスにおいてさえも骨格筋の再生を阻害することを明らかにした。この研究は、老化細胞の除去が、加齢との闘いに役立つ可能性があるという考えに説得力を持たせるものだ。

 

老化細胞は、高齢者であっても体全体を構成する細胞のわずかな割合を占める程度しか存在しないが、老化関連分泌表現型(SASP)と呼ばれる過程を介してシグナル伝達タンパク質を分泌することにより、細胞の傷害を引き起こす。SASPは線維化(組織の肥厚や瘢痕化)を誘導し、隣接する健康な細胞の機能を阻害する。そのため、老化細胞は多くの疾患や、加齢の望ましくない副作用に関与すると考えられている。

 

老化細胞の除去(senolysis)による加齢性疾患治療へのアプローチ

ファルマシア 56 (11), 1009-1013, 2020 公益社団法人 日本薬学会

 

セノリティック薬 Senolytic agent 老化細胞除去薬

 

 

老化細胞は,がん細胞と共通した特徴としてアポ トーシス耐性があり,実際,抗アポトーシスタンパ ク質である Bcl-2 ファミリータンパク質が高発現し ている. このことから,抗がん剤によって老化細胞を選択的に除去することができるのではないか,という戦略に基づいて様々な薬剤のスクリーニングが 行われた.

抗がん剤として使用されているダサチニブ(Dasatinib,チロ シンキナーゼ阻害剤)に関しても,ケルセチン(Quercetin,フラボノイドの一種)との併用によって、生体内から老化細胞を除去し、その結果、早老症マウスの心機能が回復し、自然老化マウスの運動機能の改善と寿命延長が見られることが示された.

アポトーシスを促進する p53 タンパク質を活性化させるFOXO4-DRやUBX0101が, セノリティック薬として有効であることが示されている.

数多くの薬剤がセノリティック薬として見いだされた一方で,これらの薬剤には重篤な副作用を示すものもあり,ヒトへの臨床応用には慎重にならなければいけない.

 

日常的に摂取する食品や医薬品の中にも、老化細胞の除去(senolysis)作用を示すものがあるのかも知れません。個人的な推測ですが、漢方薬の成分の中に、その様な作用を示す生薬があるのではと感じています。病気にならないで長寿を願うのは、昔からの人々の夢でした。その実現が、間近なものになってきました。