前立腺がんに対する前立腺全摘術と放射線治療の成績は、ほぼ同等と言われています。

この場合の成績とは、生化学的再発率を意味していることが多いと思います。

前立腺がんは、一般的に進行が遅いため、生存率や前立腺がん特異的生存率(前立腺がんで死亡しない率)では、両者を比較することは困難と言われています。

では、実際、この両治療法の成績に、差はないのでしょうか。

 

少し古くなりますが、限局性前立腺がんに対して、前立腺全摘術と放射線治療を比較した論文をメタ解析した論文が出ていました。

162の論文に引用されていますので、インパクと高かったことが分かります。

カナダからの報告です。

Surgery Versus Radiotherapy for Clinically-localized Prostate Cancer: A Systematic Review and Meta-analysis.

Eur Urol. 2016 Jul;70(1):21-30. doi: 10.1016/j.eururo.2015.11.010. Epub 2015 Dec 15.

 

背景:

前立腺がんの根治的治療には、前立腺全摘術と放射線治療の2つがありますが、両者のランダム化比較試験は行われていません。

高リスク前立腺がんに絞り、両者を比較した論文のメタ解析によると、前立腺全摘術の方が、良好な生存率と前立腺がん特異的生存率を示しました。

 

目的:

限局性前立腺がんに対して、前立腺全摘術と放射線治療の生存率と前立腺がん特異的生存率を、メタ解析で比較する。

 

方法:

2015年6月までに発表された前立腺全摘術と放射線治療を比較した論文(発表された言語によらず)を集め、メタ解析しました。

評価項目は、生存率と前立腺がん特異的生存率。

対象は、限局性前立腺がん。

 

様々なデータベースから1921の論文が抽出されました。

結局、解析に用いられたのは、19の論文でした。

 

図のaは生存率を、bは前立腺がん特異的生存率を示します。

ハザード比(hazard raito)1は偏りなしで、それより右側(ハザード比が1を超える)は前立腺全摘術が良い(Favors surgery)、左側(ハザード比が1未満)は放射線治療が良い(Favors radiotherapy)となります。

1を挟まないで、右または左に全体の線があると、有意と判定されます。

 

放射線治療の多くは、外部放射線治療(EBRT)で、EBRTにブラキ治療を組み合わせたものがありました。

IMRTのみを使った論文は2つありました、つまり他は三次元原体照射と思います。

前立腺全摘術の術式は言及されていませんでした。

 

結果:

生存率については(図のa)、一つの論文が1を挟んで右側にありますが、他の9論文は全て右側にあります。

論文全体の結果は、黒の菱形で示されていますが、有意に前立腺全摘術で良好でした。

ハザード比は、1.63。

1.63倍と考えると、例えば、治療10年後の前立腺全摘術の死亡率が4%の場合、外部放射線治療のそれは6.52%(4x1.63)と考えると良いと思います。

 

前立腺がん特異的生存率については(図のb)、2つの論文は1を挟んで右側にありますが、他の13論文は全て右側にあります。

論文全体の結果は、黒の菱形で示されていますが、有意に前立腺全摘術で良好でした。

ハザード比は、2.08。

2.08倍と考えると、例えば、治療10年後の前立腺全摘術の死亡率が2%の場合、外部放射線治療のそれは4.16%(2x2.08)と考えると良いと思います。

 

集団をサブ解析しても、この結果は変わりませんでした。

例えば、低リスク、中リスク、高リスクに分けて、観察期間が5年、5〜8年、8年以上に分けて、2005年以前とそれ以降に分けて、EBRTのみとEBRT+ブラキに分けて、米国とそれ以外の国に分けて解析しても、同様な結果でした。

 

結論:

限局性前立腺がんに対する生存率と前立腺がん特異的生存率は、前立腺全摘術の方が優れている。

 

感想:

しっかりした論文なので、事実ではないかと思います。

放射線治療の方が年齢が少し高いことを考慮しても、今回の結果は変わらないと思います。

 

限局性前立腺がんの場合、進がゆっくりであり、がんが原因で命を落とす可能性は高くありません。

従って、治療後のQOL(性機能の維持、尿漏れがない)を考えると、放射線治療が劣っている訳ではないと思います。

 

この判断は、患者の年齢によって違ってくるかも知れません。

若い患者には、前立腺がん特異的生存率の観点から、前立腺全摘術が勧められのかも知れません。

一方、若いほど、前立腺を失うことによる性生活への障害は強く、この判断は悩ましいところです。

 

将来、PSMA PETの導入、PSMA治療を含む新たな治療薬の導入によって、両者の差は縮まるのではないかと思います。

放射線治療後に生き残っている前立腺がん幹細胞を眠らせておく治療、つまり放射線治療後の後療法の開発が望まれます。

 

今日、水戸に出張でした。

暑いです💦

Cocoaから2回目の接触を知らせるメッセージがありました。

ビックリです🫢