QST病院(旧放射線総合医学研究所病院)から、低リスク前立腺がんに対する重粒子線治療の長期成績が発表されました。

少し、驚きの内容があります。

 

The clinical relative biological effectiveness and prostate-specific antigen kinetics of carbon-ion radiotherapy in low-risk prostate cancer.

Cancer Med. 2022 Jul 19.  doi: 10.1002/cam4.5045.  Online ahead of print.

 

目的:

低リスク前立腺がんに対して行われた4つのプロトコールによる重粒子線治療の結果をまとめました。

 

対象:

2000〜2018年、QST病院で、重粒子線治療を受けた262人の低リスク前立腺がんを対象としました。

低リスクの定義 臨床病期 T1–2b, Gleason score ≤ 6, PSA < 10 ng/ml

 

年齢の中央値 65歳(47〜80)

観察期間の中央値 8.36年(0.86〜18.36)

初診時PSAの中央値 5.94(2.46〜9.96)

全例、男性ホルモン除去療法は併用せず、重粒子線の単独照射

 

重粒子線治療のプロトコール

 66Gy/20回分割(1回3.3Gy,   2000 〜 2004)  34 人(12.98%)

   63Gy/20回分割(1回 3.15Gy, 2005 〜 2007)   29 人(11.07%) 

   57.6Gy/16回分割(1回3.6Gy, 2007 〜 2013)  114 人(43.51%) 

   51.6Gy/12回分割(1回4.3Gy, 2013 〜 2018)    85 人(32.44%)

 

重粒子線の線量Gy(グレイ)は、X線の線量Gyと異なる尺度で計算されたものなので、両者の線量は比較出来ません。

 

 

結果:

重粒子線治療5, 7, 10年後に見込まれる無再発率(100ー(生化学的再発率+臨床的再発率))は、91.7%, 83.8%, 73.2%。

 

照射プロトコール別の重粒子線治療10年後に見込まれる無再発率は、66 Gy/20 分割では81.4%、63 Gy/20分割では70.9%、 57.6 Gy/16分割では68.9%でしたが、統計的に有意差はありませんでした(P=0.32, 図B)。

66Gy/20回分割+63Gy/20回分割と 57.6Gy/16回分割+51.6Gy/12回分割を比較しても、統計的に有意差はありませんでした(p=0.23, 図C)。

 

重粒子線治療後、PSAの最低値が高いことと、PSAの最低値に至る期間が短いことは、再発率の危険因子でした。

最も低いPSA値と、最も長いPSAの最低値に至る期間は、66Gy/20 分割で見られました。

 

生化学的再発をきたした患者のうち、34人が救済療法を受けました。

23人(67.6%)は男性ホルモン除去療法、6人(17.6%)根治的前立腺摘除術、3人免疫療法、1人重粒子線の再照射、1人凍結療法。

34人中、1人が局所進展をきたし、1人が前立腺がんで死亡しました。

 

感想:

今回の結果は、男性ホルモン除去療法を併用していないので、重粒子線治療そのものの効果を表しています。

低リスク前立腺がんに対する重粒子線治療の長期成績は、思ったほど良くありません(10年の無再発率73.2%)。

個人的には、85〜90%を予想していました。

 

無再発率のグラフを見ると、照射後5年では4つのプロトコールは、ほぼ重なりますが、照射後10年前後から、4つのプロトコールに差が出始めます(図B)。

今後、観察期間の中央値が10〜12年となるまで観察期間を延長すれば、4つのプロトコールの無再発率に、有意差が出て来る可能性があります。

 

51.6Gy/12回分割(私が受けた)のグラフと、66Gy/20回分割のグラフは重なって見えます(図B)。

51.6Gy/12回分割の10年の結果は出ていませんが、66Gy/20回分割と類似した結果(81.4%)になることを期待しています。

 

効果と副作用(今回は、論文の内容を紹介していません)から、4つのプロトコールの中で、51.6Gy/12回分割が最も良いプロトコールであるかも知れません。

 

今回の報告から、放射線治療では、治療後5年の結果では、その治療を評価するには短いこと、治療後10年の結果を見ないと、その治療の良し悪しは判断出来ないことが分ります。

 

照射後に生き残っている前立腺がんの幹細胞があり、それが照射5年後頃から、ゆっくり増殖を開始し、生化学的再発を起こすのではと考えます。

前立腺全摘術では、周囲に飛び散った前立腺がん細胞によって起こるので、放射線後の再発とは機序が異なる可能性があります。

 

追加:

図示したグラフ(カプランマイヤー曲線と言います)の見かたです。

イベントが起きると、グラフが下がります。

イベントが起きなければ、グラフは水平線となります。

この論文では、イベントは再発なので、それが起きると、起きた時点で、グラフは下がります。

グラフに多数のヒゲがありますが、その時点で、最後に観察された人がいることを示しています。

 

図Bの赤い線の後半を切り取りました。

13年後頃、グラフが下がっています。

この時点で、再発を来した人が1人いたことを示しています。

その後、グラフにヒゲが4つあります(1つは重なっています)。

その時点で、再発を起こしていない人が4人(14〜15年)いることが分かります。