「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(JPHC Study)」が、保健所と医療機関との共同研究として行われ、その成果は、https://epi.ncc.go.jp/jphc/index.htmlに公開されています。

様々ながん、疾患、病態と食物や要因との関係の調査結果を、自身で検索し知ることができます。

生活習慣や食事の内容が異なる海外からの報告ではなく、日本人を対象とした本邦からの報告ですので、その結果は重要です。

 

大豆食品と大豆食品に多く含まれるイソフラボンは、多くの疫学研究で、前立腺がんに予防的にはたらくことが示唆されているとのこと。

最近、大豆製品の摂取量と前立腺がんの死亡との関係を明らかにする調査結果が発表されました。全文が読めないので、抄録のみ紹介です。

https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8514.htmlに内容が公開されていますので、それも参考にしてください。

Soy and isoflavone consumption and subsequent risk of prostate cancer mortality: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Int J Epidemiol. 2020 Sep 23;dyaa177. doi: 10.1093/ije/dyaa177. Online ahead of print.

 

背景:

著者らは、以前、大豆食品と前立腺がんの発症との関係は、前立腺がんのステージによって異なることを報告した。

今回、大豆食品の摂取と前立腺がんの死亡との関係を、前向きに調査した。

 

方法:

がんと心血管系疾患を既往がない年齢45-74歳の男性43580人を前向きに調査した。

対象者は、138の食品を含む質問表に記入した。

対象者の調査期間は、1995-2016年。

ハザード比と95%信頼区間は、コックスの比例ハザードモデルを用いて計算した。

 

結果:

16.9年の観察中、前立腺がんで221人(0.51%)が死亡した。

大豆製品の摂取は、前立腺がんの死亡率を優位に増加させた(ハザード比1.76、p=0.04)。

イソフラボンの摂取は、前立腺がんの死亡率を優位に増加させた(ハザード比1.39、p=0.04)。

 

結論:

大豆製品やイソフラボンの摂取は、前立腺がんの死亡を増加させる可能性がある。

 

感想:

今回の研究は、後ろ向き調査ではなく、前向き調査ですので、信頼性が高いです。

一方、「1回のアンケート調査から計算された摂取量で計算しており、追跡中の食事の変化については考慮できていないことや、前立腺がんになった後の治療の情報がないことなど、いくつかの要因について統計学的に十分調整できていないことがあると」と述べられています。

 

大豆食品とがんとの関係は、単純ではありません。

表に、大豆食品とがんとの関係を調査したJPHC Studyのまとめを示します。

大豆食品の摂取によって発症が増加するがんがあり(膵癌、進行前立腺がん)、性別によって反応が異なるがん(肝がん)もあります。

発酵大豆食品の摂取は、女性の循環器疾患の発症を低下させますが、男性ではその効果は見られません(JPHC Study)。

発酵大豆食品は、高血圧の発症リスクを低下させます(JPHC Study)。

 

前立腺がんに絞ると、食物繊維は進行前立腺がんのリスクを下げ(JPHC Study)、欧米型食事(肉、加工肉、パン、果物ジュース、コヒー、紅茶、ソフトドリンク、マヨネーズ、ソースなど)は前立腺がんリスクが増加させ、健康型食事(野菜、果物、いも、大豆食品、キノコ、海草、脂の多い魚など)は低下させ、伝統型食事(ご飯、みそ汁、漬物、塩魚、干物、いか、たこ、えび、貝類、果物、日本酒)は影響与えませんでした(JPHC Study)。

 

今までのJPHC Studyの研究成果をまとめると、前立腺がんの発生や進行の予防に対して、発酵大豆食品に過剰な期待をすることなく、むしろ健康型食事を摂ることの方が重要であると思います。