最近、国立病院機構 東京医療センターの放射線科から、前立腺がんに対する小線源療法の結果が報告されました。この医療機関は、以前からこの治療法に取り組んでいることで知られています。残念ながら全文が読めないので、抄録のみの紹介となります。

 Effect of adding androgen deprivation therapy to permanent iodine-125 implantation with or without external beam radiation therapy on the outcomes in patients with intermediate-risk prostate cancer: A propensity score-matched analysis. Brachytherapy. 2020 Oct 14:S1538-4721(20)30201-4. doi: 10.1016/j.brachy.2020.08.023. Online ahead of print. PMID: 33069598

 

目的:

・前立腺がんの小線源療法(brachytherapy;外部放射線療法併用あり、または併用無し)に、男性ホルモン遮断療法(ADT)を加える効果を検討しました。

 

方法:

・対象は、2003―2013年に中リスクと診断された前立腺がんで、小線源療法を受けた1,171人、ADTは有の場合と無しの場合の両者を含んでいました。

 

対象と方法:

・Propensity Score Matching(傾向スコアマッチング;無作為割付が難しく様々な交絡が生じやすい観察研究において、共変量を調整して因果効果を推定するために用いられるバランス調整の統計手法)が、ADTと非ADT間のバイアスを補正するために使われました。

・生化学的再発、局所制御(局所無再発)率、生存率は、カプランマイヤー法によって評価され、予後因子はコックスの比例ハザードモデルを用いて抽出されました。

 

結果:

・傾向スコアマッチングによって、ADTグループと非ADTグループに各々405人が割り当てられました。

・観察期間の中央値は9.1年、ADTの期間の中央値は6ヶ月。

・ADTグループ対非ADTグループの比較では、9年での生化学的無再発率は93.4%対87.8%(p=0.016)、9年での局所制御率は96.9%対98.1%(p=0.481)、9年での生存率は88.1%対90.4%(p=0.969)でした。

・生化学再発の要因は、多変量解析によって、グリーソンスコア(ハザード比2.52)とADTの使用(ハザード比0.55)が抽出された。つまり、グリーソンスコアが高いほど生化学再発を来たし易く、ADTを併用すると生化学的再発を抑制する。

・多変量解析によって、外部照射の追加は、局所再発を抑制(ハザード比0.38)すること、年齢(ハザード比1.12)と別疾患の併存(ハザード比1.56)は、死亡率を増加させました。

 

結論:

・前立腺がんに対する小線源療法にADTを併用する前に、生化学的無再発率の改善効果とADTの潜在的な副作用の両者を評価すべきである。

 

感想:

9年での生化学的無再発率が約90%であるのは、素晴らしいことです。

・前立腺癌診療ガイドライン2016年版によれば、「中リスク前立腺がんに対する外照射では、4〜6カ月程度のホルモン療法(照射前 ± 同時併用)が推奨される(推奨グレードB、科学的根拠があり、行うよう勧められる)」となっています。重粒子線でも、この考えが取り入れられています。

・一方、上述の診療ガイドラインによれば、 「小線源療法では、中間〜高リスク症例であってもホルモン療法の上乗せ効果がなかったとする報告が多く、特に十分な高線量が投与された症例ではホルモン療法省略の可能性が残されている」と記載されています。

・また、「中間〜高リスク症例に外部照射を併用する主な目的は局所の線量増加と被膜外浸潤への対応だが、治療成績に強く相関するのは前者とされている。一方、小線源療法単独でも十分な高線量投与が可能とする意見もあり、少なくとも中間リスク症例に関しては単独治療でも決して悪い成績ではない。外部照射の併用は有害事象の増加につながるので必要のない併用は省くべきであるが、どこで線を引くか明確なエビデンスはない」と記載されています。

・今回の論文は、上述の診療ガイドラインの内容を支持する結果であると思います。同じ放射線療法と言っても、小線源療法と外部放射線療法には、臨床効果が発揮されるメカニズムに違いがあるのも知れません。