親切な物理化学

化学反応式 A+B→C+D・・・①

化学反応とは、反応する前に存在した物質A、物質Bが消失して、反応前には存在しなかった反応後の物質、物質C、物質Dが出現するといった化学的な変化のことである。あったものがなくなり、なかったものが出現する、不思議な現象を上記反応式は示している。

化学反応式 A+B←C+D・・・②

上記②は①の逆反応を示している。もともとA→1モル,b→1モル、c→0モル、d→0モルであったものが、完全に右向きに反応が進み、A→0モル,b→0モル、c→1モル、d→1モルとなることはない。逆反応、左向きの反応も進み、外見にはある平衡状態でおちつくことになる。高校の化学では、このことは反応速度の観点から説明される。

右向きの反応の反応速度は、k[A][B]

左向きの反応の反応速度は、k[C][D]

これらが同じになるところが平衡状態となるので、[A][B]=[C][D]

 

一方、発熱反応、吸熱反応等の熱量の出入りを考えると、この反応は発熱反応であるとしたとき、化学反応式 A+B→C+D +Q>0)と表せ、A+Bのエネルギー準位は、C+Dのエネルギー準位に比べて+Q高い準位にあることになる。エネルギーの高い準位から低い準位に移る、というのは理解しやすい。ただ、上記で述べたように、AとBのどちらかが0になるまで反応が右に進むわけではなく、ある平衡点で平衡状態となる。

高校物理で学ぶ内部エネルギーUは、水素なら水素、酸素なら酸素、水分子なら水分子の運動エネルギー等の総体であった。また、熱力学第2法則によると、ある物理変化の前後において、ΔU=-PΔV+ΔQ が成立した。系の外部にした仕事を引き、外部から吸収した熱量を加えたものが内部エネルギーの増加分ということを表している。

 

上記反応に対してこれを適用してみたとき(ここでは完全に反応が右に進むものとする)

 A+Bのエネルギー準位は、C+Dのエネルギー準位に比べて+Q高い準位にある

ことより、ΔQ=-Q となる。発熱反応であるため、ΔQはマイナスになるのである。

 A+Bの内部エネルギーは、C+Dの内部エネルギーに比べて+Q高い準位にある

というとき、ここで使われている内部エネルギーは、分子の運動エネルギー等だけを表しているわけでないことに注意が必要である。ここでは、化学反応がおこり、原子間の結合等が変化しているのであるから、この変化によるエネルギー変化の方が一般に大きな値であり、主要なものである。一般にPΔVもこのエネルギー変化に比べれば小さい。物理化学ではこのΔU+PΔV(=ΔH)はエンタルピー変化(P一定での)と呼ばれる。熱力学第2法則によれば、-(ΔU+∫PΔV)だけ外部に熱量を放出することになる。ΔH<0であるということは、発熱反応ということである。

 

では、化学反応は一般に、「エネルギーの高い準位から低い準位に移る」と考えられそうなので、ΔHが負になる方向に進む、と考えてよいであろうか?

熱力学において、T一定の変化、等温変化というものがある。圧力2P,体積Vであったものが、圧力P、体積2Vになる等温変化では、内部エネルギーUは不変であるから、外部から吸収した熱量Qがすべて∫PΔV、外部にした仕事量と等しくなる。

もし体積2Vの箱の真ん中を薄板で半分に分割して、左の体積Vの空間に圧力2Pの気体が、右の体積Vの空間は真空といった状態を想定する時、薄板を取り去ると、放置しておいても自然に、左側にあった気体は一部右側に移動して結局圧力P、体積2Vの状態になるであろう。この状態(圧力P、体積2V)は、はじめの状態(圧力2P,体積V)に比べてエントロピーSが高い状態であるという。内部エネルギーUの変化はないが、エントロピーは後の状態、(密→)疎な状態の方が大きい。(断熱変化ではエントロピーが一定である。)

物質は、自然に放置していると、エネルギーの小さな方へ、エントロピーの大きな方に状態が変化する、といった性質がある。これを考慮して、自由エネルギーGがU+PV-TSと定義される。上記では変化前後で、UとPVが不変、Sが大きくなるのでΔG<0。

自然に放置していると、エネルギーの小さな方へ、エントロピーの大きな方に進行する

というのは、ΔG<0になる方向に進む、ということと同じである。

(TΔS>=ΔQといった不等式表現は理解しづらいものであるが、上記の等温変化(等号成立、可逆変化)と薄板を取り去る場合(等号不成立、不可逆変化)とを比較すると比較的理解しやすいかもしれない。こういった等温変化の場合のように、また燃焼等によるΔH<0の変化(発熱反応)が外部の仕事に使えるばかりか、TΔS>0についても外部の仕事に使えるのである。)

 

化学反応において、ΔHが負になる方向に進む、とも思われたが、実際にはΔGが負になる方向に反応は進む。ΔGが負になる方向に化学反応は進むのではあるが、完全に右に進もうとすると反応後物質が密になり過ぎるため、右寄りではあるものの完全に右ではなく少し左側あたりで自由エネルギーGが最小となりこの平衡点で落ち着くということになる。

 

たとえていうならば、人気店に人が集まるが、あまり人気が出ると混雑して過密になるため、そこに集中するのは抑えられ、そこまで混雑していない店にも客が分散する、そういったイメージになる。エネルギーという要素だけではなく、エントロピーという要素も含めて、また反応前、反応後の物質すべてのそれらを総合して、それぞれの物質の内部エネルギー、エントロピー、分圧等を考慮して得られる自由エネルギーの総和が小さくなる方向に反応が進行することになる。