化学反応式 A+B⇔C+D
上記反応式において、反応物(AとB)のみがある状態Ⅰから生成物(CとD)のみがある状態Ⅱに至る過程について考える。状態ⅠではAもBも2モルでC,Dはない、状態ⅡではCもDも2モルでA,Bはない。
反応進行中、Aが2-αモル、Bが2-αモル、Cがαモル、Dがαモルとなった時、自由エネルギーはG(α)とする。たとえば、G(0)=-1、G(2)=-3などとすると、反応は右寄りに進み、平衡状態におけるαであるαCは1から2の間にあるでろう。たとえば、αCは1.4で、G(1.4)=-5等となる。
G(0)=-1、G(1.4)=-5、G(2)=-3を通るような下に凸のグラフが、反応の進行に伴うGの変化ということになる。
(平衡状態においてAは0.6モル、Bは0.6モル、Cは1.4モル、Dは1.4モル)
次に、ライフサイエンス等においてよくみられる以下の関係式について考える。
ΔG=ΔG0+RTloge[C][D]/[A][B] ・・・*
ΔG0は、A、B,C,Dがどれも1モル/lの時のΔGで、標準自由エネルギーである。平衡定数をKとすると、K=[C][D]/[A][B]であり、平衡状態においてΔG=0であるから、
0=ΔG0+RTlogeK ∴ΔG0=-RTlogeK
前述の例で考えると、[C][D]/[A][B]=K>1となるので、ΔG0<0となる。
ΔGは反応前後の各物質の濃度を不変とできる時、1モルのAと1モルのBが反応して1モルのCと1モルのDが生成される過程での自由エネルギーの変化を表している。ΔGはおかれた状況、各物質のそれぞれの濃度等により変化する。
平衡点においてΔG=0となるが、これは平衡点の近傍で反応が右に進もうと左に進もうと自由エネルギー変化がほとんど0となることを意味している。
また、すべて1モルの時、ΔG<0なのでまだ右に進もうとすることがわかる。
ここでいうΔGは、G(2)-G(0)などを意味しているわけではなく、Gの変化を表す下に凸のグラフの接線の傾きと関係している。
G(2)-G(0)<0なのだから、反応が右に進むとやはり、いくら平衡点近傍にあったとしても、ΔGは0ではなく負になるのではないかとも思えてしまう。実際、内部エネルギーΔU等は、たとえば発熱反応ならば、どんな状況でも右に反応が進めば減少するため負の値になる。しかし、自由エネルギーは、同じように考えることはできず、平衡点においてはΔG=0なのである。
反応が右に進めば、AやBの物質量や濃度は減る。これらのことを考慮して自由エネルギーのグラフが描ける。後半の話では、一部反応が進んでも大きくみて各物質の濃度はほとんど変化しない、それぞれの物質の濃度は一定である環境下(減れば補われ、増えれば拡散するといった生物学的環境)であることを前提としている。このため前半の例のように、化学変化に伴い反応物や生成物の濃度も変化するといったことまで考慮する必要がない。一部の変化は全体に影響しないとして考えればよい。濃度はそれぞれ1モル/lの〔A}倍、〔B}倍、〔C}倍、〔Ⅾ}倍にて固定であるとして、エントロピー計算をすればよい。
*の導出
各物質のエントロピーの変化は、生成後の各物質のエントロピーから生成前の各物質のエントロピーを差し引いたものであるから(各物質が1モル/lの状態を基準として)
RT(∫ΔPC/PC+∫ΔPD/PD-∫ΔPA/PA-∫ΔPB/PB)
=RT(logPC+logPD-logPA-logPB)
=RTloge[C][D]/[A][B]
これをΔG0に加えたものがΔGである。
*例
反応式 A+B⇔AB
ΔG=ΔG0+RTloge[AB]/[A][B]、ΔG0<0
受容体BにAが結合したABの濃度が大きくなりΔGが0を超えると右向きの反応は進まなくなる。
吸熱反応なのにエントロピーの増加が大きいため進む反応の例
2NaHCO3 → Na2CO3 +CO2(g) +H2O(g) -Q´
NaHCO3が分解される反応は発熱反応ではなく吸熱反応である。にもかかわらず反応が進むのは、ΔU+pΔVの増加以上にTΔSが増加してΔG(=ΔU+pΔV-TΔS)が減少するからである。
ATP+H2O→ADP+H3PO4 +Q”
ATPが加水分解されADPになる。この際は右辺の方がエネルギーレベルが低く発熱反応となる。ΔGも負で発エルゴン反応であって、自発的に進行しうる。この自由エネルギーによって、他の自然には進まないΔG>0の反応を進めることができる(共役反応)。
一般に、エネルギー的なつりあいを考えて
ΔU+pΔV+ΔW=ΔQ
が成立する。ここでpΔVは圧に抗してする仕事、ΔWは系がする仕事(pΔV以外)、ΔQは系が外から吸収する熱量である。化学反応による内部エネルギーの変化はもちろんΔUに含まれる。
宇宙のエントロピーは増加するので、エントロピー変化をΔSとすると
ΔQ≦TΔS
(系が熱を吸収しなくてもエントロピーは増加したりすることを意味する)
これら2式より、
ΔU+pΔV+ΔW≦TΔS
このことから、系がする仕事の最大値(正味の仕事)は、
W≦-(ΔU+pΔV-TΔS)=-ΔG
内部エネルギーの減少分-ΔUすべてを仕事に使えるわけではなく、そこからpΔVや-TΔSを差し引いた分だけ実際の仕事に使えることを示している。(TΔS<0の場合で考えると、反応が進むことにより、最低でも-TΔSは系の外部に熱を放出しなければならない(この熱の散逸分はいかに効率を上げても仕事には使えない)。)
この自由エネルギーによって、自発的には進行しないΔG>0の化学反応(他養的な反応)、共役反応を起こすことも可能となるのである。