カレーの隠し味に味噌がいいと聞いて

 

味噌が嫌いなのに

味噌をカレーに入れてみた

 

うまーく隠れて、コクだけ出してくれたらいいのに

 

変に自己主張してきた。

 

普通の、おいしいカレーに見えるのに

食べたらまずい。味噌の味しかしない。

なんだか騙された気分。

 

味噌入れなきゃよかった。

 

 

それから半年間、

隠れきれなかった隠し味は悲劇を生む

を、教訓に過ごした。

 

ルウのパッケージに書いてあるレシピに忠実に

カレーをつくる日々。

 

試行錯誤なんてしない

工夫なんてない

考えない

ただマニュアル通りに

 

野菜を切り肉と一緒に炒め

水をいれて火にかける。

沸騰したらあくをとり

ルウを入れて出来上がり。

 

うん。おいしい。

ただただ、おいしい。

なぜならカレーだから。

誰がどう作ってもおいしいに決まってる、

逆にまずく作ることのほうが難しい。

 

今日も明日も、未来もずーっと

カレーはおいしい。

父も、母も

その両親も、そのまた両親も

きっと、はじめて人類が生まれたときから

カレーはずっと同じ味。

 

ああ、おいしい。

今日もカレーは、カレーだな…。

 

 

そのときわたしは思い出した。

 

まずい味噌カレーを食べる30分前の、カレーへの想い。

味噌を入れてみようかしらと考えているときのワクワク。

カレーに味噌を入れた瞬間のドキドキ。

味見をする1秒前の、期待と不安が入り混じった気持ち。

 

それは好きな人に告白しようと決めた朝にも

好きな人のいる学校へ向かう通学路にも

告白の言葉を頭の中で反復する授業中にも

やっと言えた「好き」にも似ていた。

 

 

うわ。これは…

ちょっと辛い味噌じゃないか。

カレーじゃなくて、

わたしの大嫌いな味噌だ。

隠し味としてカレーの風味を引き立てる役割に徹してほしかった。

カレーより前へ出てきてはいけないのに。

 

 

「ごめん、今は恋愛する気ないから」

 

 

どうしてちょっと遠回しな言い方をするんだろう。

わたしが嫌いならそういえばいいのに。

あなたはオブラートに包んだつもりかもしれないけど

「付き合えない、嫌い、タイプじゃない」

その気持ち、全然隠れきっていませんよ。

 

 

帰って布団にくるまって泣いた。

あなたの困った顔が、頭から離れなかった。

あなたが憎くて仕方なかった。

それでも、

好きで好きでたまらなかった。

 

 

卒業して、大学に進学して

ふつうの学生生活を送るなかで

たまにあなたのことを思い出した。

胸が少しきゅん、となる。

でも、立ち止まろうとは思わない。

その苦しさが、背中を押してくれているような気がした。

 

 

わたし、また恋がしたい。

また、チャレンジしたい。

 

 

こうなったら、もう

隠し味という隠し味をすべて入れてしまえ。

 

 

「カレー 隠し味」で検索した。

 

りんご、コーヒー、チョコレート、バナナ、ヨーグルト、生クリーム、豆乳…

 

近くのコンビニに走って全部入れた。

隠し味が隠れなくたっていい。

ガンガン自己主張してくれていい。

でも、ひとつだけ気を付けた。

 

 

 

嫌いなものは入れない。

 

 

 

あのころの、

苦しみを知らない純粋な乙女の気持ちがよみがえった。

 

真剣な横顔。

ふざけているときの笑顔。

制服の袖からチラリと見える筋肉。

何度も問い合わせてしまうIモードメール。

照れながら受け取ってくれたバレンタインチョコ。

 

あなたが笑いかけてくれる幸せ。

 

 

 

あ、うん、おいしい。

色々入れたのに、隠し味たちはちゃんと隠れている。

うん。おいしい。

このカレー、おいしい…

 

 

おいしい。

つまり、

「いつものカレー」

 

 

 

カレーはもとも美味しいもの。

隠し味も好きなものを入れたんだから、そりゃあ美味しいに決まってる。

 

 

 

なんでだろう。美味しいのになんで、いまいち喜べないんだろう。

この物足りなさは、何…?

 

 

 

「あんなヤツと付き合って、幸せになれるわけないじゃん。アイツ、他にも彼女いるんだよ。何人の女の子が、アイツに泣かされてきたか…。あんな最低男より、

モッくんの気持ちに応えてあげなよ。誠実なモッくんなら、絶対あんたのこと大切にしてくれるよ」

 

 

 

少しだけ、味噌を入れてみよう。

わたし、昔よりは上手くやれるよ

あのときは、入れすぎちゃったんだ。

 

 

小さいスプーンでほんのちょっと

大嫌いな味噌をすくう。

 

 

どんな味になるか想像できないけど

きっと、食べたことのないカレーがわたしを待っている。

 

 

 

ごめんね、モッくん。