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ヒロインの名前は『希』です。

希『うーん、いい天気!馬に乗っていったら
気持ちよさそう』
見上げた空は、雲一つなく晴れ渡っていた。
私は愛馬に鞍を取り付け、その上に跨る。
そのとき、城から駆け出してきた家臣に名前
を呼ばれた。

家臣『姫様……希様!また遠乗りですか?』
『馬は危ないですからおやめくださいと、
何度も申し上げておりますのに』
希『大丈夫。そんなに遠くないから』
家臣『距離の問題ではありません!殿や
奥方様に叱られますよ』
希『その父上に呼ばれたから出かけてくるん
だってば』
『それじゃあ、行ってきます』
家臣『希様!』
まだ何か言いたそうな家臣を残して、私は
颯爽と馬を走らせた。

父上の城に到着し、下男に馬の手綱を預ける
と、私は真っ直ぐ天守閣に向かう。
父上はちょうど母上と話をしているところ
だった。
希『父上、お呼びでしょうか』
織田信長『ああ、希か。よく来たな』
濃姫『希、また馬に乗ってきたの?』
希『はい、母上』
濃姫『まったく……いい年をした姫が、馬や
武芸にばかり興味を示すなんて、困ったことね』
織田信長『まあそう言うな。希の好きなよう
にさせてやれ』
濃姫『まあ、信長様まで……』
母上はやれやれと言いたげに、そっとため息
を漏らした。
何だかんだいって、母上も私には甘い。父上
はそれ以上だ。
父上は堅苦しさを嫌う私に小さな城を与え、
私はそこに数人の家臣とともに、自由に
暮らしている。
家臣『殿、失礼いたします。各地を探っていた
密偵が、報告を携えて戻ってきております』
家臣が戸口の向こうで告げると、父上は表情
を引き締めた。
父親としての顔から、天下を統一した武将の
顔になる。
織田信長『分かった。通せ』
家臣『はっ』
希『父上、密偵って?』
織田信長『最近、あちこちで天下を狙い、
動き始めている武将がいてな。それを探られ
ているんだ』
濃姫『それでは、私はこれで失礼しますね』
戦の話になると聞いた母上が立ち上がる。
希『それじゃあ、私も…』
母上に次いで部屋を去ろうとした私を、父上
が呼び止めた。
織田信長『待て、希』
希『はい?』
織田信長『どうせなら、お前を一緒に聞いて
いけ』
希『いいの?』
織田信長『ああ。興味があるだろう?』
希『ふふっ。父上は何でもお見通しっていう
ことか』
私は肩をすくめて、もう一度父上の隣に腰を
下ろす。
織田信長『年頃の姫が戦に興味があるなんて
……と、また濃が顔をしかめそうだな』
希『昔からだもの。母上だってもう諦めてる
んじゃない?』
織田信長『ハハッ。仕方のない娘だ』
部屋のふすまが開くと、父上は口元に浮かん
だ笑みを消した。
密偵が、音もなく部屋に入ってきて頭を下げる。
織田信長『順番に報告しろ』
密偵『はっ。それではまず、伊達政宗について
ご報告申し上げます』

伊達の家臣『殿!またお一人で敵の領地に
お出かけになったのですか!?』
伊達政宗『ああ。面白いことが分かったぞ』
伊達の家臣『危険ですから、そのようなこと
は密偵にお任せください!何かあってから
では遅いのですよ』
伊達政宗『オレの目で確かめた方が早いし、
確実だろう』
『それに、オレがその辺の兵士などにやられ
ると思うか?』
伊達の家臣『しかし……!』
伊達政宗『オレはいずれ天下を手に入れる
男だ』
『ここで命運が尽きるなら、オレがそれだけ
の器量だったということ』
伊達の家臣『そ、それは……』
伊達政宗『どうだ。オレは天下にふさわしい
男だと思うか?』
伊達の家臣『もちろんでございます。殿以外
に天下人となるべき武将はおりません』
伊達政宗『そうだろう。オレがこの手で信長
を倒してやる』

織田信長『フッ。この私を倒すとは……減ら
ず口をたたく奴がいたものだな』
密偵『伊達は以前より、強引な性格で知られ
ております』
『傲岸不遜といいますか、かなりの自信家
のようです』
織田信長『伊達の独眼竜か。まあ、天下を
狙うのであれば、それくらいの気概は欲しい
ものだが』
密偵『ただ、飾らない人柄のせいか、家臣
たちは手を焼きつつも忠義を誓っており』
『伊達軍の結束はかなり強いとみてよろしい
かと』
織田信長『ふむ……』
密偵『戦い方もその性格と同様、型破りな
兵法を用いることが多く…』
『敵もその策に翻弄されてしまうようです』
織田信長『なるほどな。次の報告は?』
密偵『はい。武田信玄についてでございます』

武田信玄『剣術の稽古をするぞ!手の空いて
いる奴は刀を持って庭に出てこい』
武田の家臣1『殿、まさか……また真剣を
使って稽古をなさるおつもりですか?』
武田信玄『当たり前だろう。木刀など使って
いて、稽古になると思うか?』
武田の家臣1『ですが、先日も怪我をされた
のでは……』
武田信玄『こんなもの、ただのかすり傷だ』
『これくらいで怯えるような奴は、武田軍に
は不要だからな。さっさとここから出て行け』
武田の家臣2『殿!お手合わせ願います!』
武田信玄『よし!何人でもいいぞ、まとめて
かかってこい!』

織田信長『なるほど、なかなか豪快な男の
ようだな。確か武田の旗印は『風林火山』
だったか』
密偵『はい、さようでございます』
『ほかにも、無敵と言われる武田の騎馬軍団
も、厳しい訓練を繰り返しております』
織田信長『武田の騎馬軍団か。一度、戦って
みたいものだな』
密偵『信玄自身は家臣たちへの思いやりも
あり、人望も厚いようです』
織田信長『頼りがいのある、誠実な男といっ
たところか。家臣に慕われているとは、敵に
回すと厄介だな』
『それでは、次の報告を』
密偵『最後に、上杉謙信の情報でございます』

上杉の家臣『殿、失礼いたします。読経は
お済みでしょうか?』
上杉謙信『今終わった。ここには入るなと
言ってあるはずだけど』
上杉の家臣『は、申し訳ございません。先日
潜入させた間者より、急ぎの報告が来ており
ます』
上杉謙信『ああ……例の間者か。どうした?』
上杉の家臣『城主の書状を手に入れたとの
こと。どうやら密かに他家と同盟を結ぶ話が
出ているようです』
上杉謙信『なるほど……あのじいさんも、
なかなか食わせ者だね』
上杉の家臣『いかがいたしましょうか』
上杉謙信『引き続き、内部を探るように
伝えろ』
上杉の家臣『かしこまりました』
上杉謙信『……同盟か。そう簡単に行くと
思うなよ?』

織田信長『上杉謙信か……確かに見た目は、
一瞬、女と見間違えるほどに美しい武将
だったな』
密偵『はい。ですが、その外見とは裏腹に、
『軍神』と呼ばれるほどの戦上手……』
『それに、腹黒いというか、なかなか本心を
見せないようです』
織田信長『策士、ということか。読経をして
いたということは、信心深いようだな』
密偵『はい。場内にお堂があるようです』
織田信長『ああ、確か『毘』の旗印を用いて
いたな』
密偵『さようでございます』

織田信長『分かった。ご苦労だったな。
下がっていいぞ』
父上の言葉に、密偵は頭を下げ、部屋を退出
していく、そして入れ違いにやってきた人物
明智光秀『信長様、失礼いたします。武田に
仕える若き将についてご報告が』
織田信長『戻ってきたか光秀、申せ。』

明智光秀『はっ、噂の武田の将ですが、あの
真田一族の真田幸隆の孫、真田幸村でござい
ました』
織田信長『ほう……やつの孫か』
明智光秀『真田となればその武芸は目を
見張るもの…新たに策を練る必要があるかと』
織田信長『真田については光秀、お前に全て
任せよう』

明智光秀『御意にございます』
織田信長『よいぞ光秀、下がれ。』
明智光秀『では、これにて失礼いたします』
そう言うと光秀は一礼して去っていった。
織田信長『奴もああ見えて、計算高く一癖
も二癖もある策を練る…敵に回すと厄介な
男だ』
希『どの武将も、父上に勝るとも劣らず活気
がありそう』
織田信長『そうだな。私もうかうかしていら
れないようだ』
『ところで、お前はこの中で気になる武将は
いたか?』
希『そうね、私は……』

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