『10月。』
スピーディーな夏が過ぎ去って、
彼岸花の赤さにどきりと身を引き締めたと思えば、
金木犀の香りがたちこめている。
秋だ。
外は雨。
家の人はみな寝ている。
憂鬱が紡ぎだしているのは、言葉を失ったような静けさだ。
すうーーっと。
ただただ、平行線を描き続けている。
ただただ、平行線を描き続けている。
コンパスに閉じ込められた鉛筆は音をたてない。
ふと気付いた。
バッハのゴルトベルク変奏曲のアリアが時間の使い方を誘ってくる。
すっかり熱くなったPCを膝からおろすと、
私はのっそりと立ちあがった。
数ヶ月ぶりに煎れたコーヒーはまずかった。
だけど、やかんから漏れてくる蒸気も、
トースターからやってくるシナモンシュガーとバナナの焦げた匂いも、
たちこめるコーヒーの香りも、
みんな、わたしに親切だ。
たったの5分間。
余白が戻ると、ようやく文字を綴りたくなった。
さあ、新しい季節が始まる。
よろしくお願いします。