映画「紫」をみて、未だ捨てきれず時々こうやってこみ上げる、職人になりたい気持ちに何故か悲しみを抱いていた。何度も何度も再生してしまうほどに、心をくすぐる、職人という人たち。

丁度そんなときに、みやしんが廃業になったことを知った。
悔しくなって体が熱くなってしまった。
ちなむと倒産ではなく「廃業」だそうだ。
繊維新聞2面: http://instagram.com/p/Pth5lAjPat/
廃業についてのブログ: http://blog.okudaprint.com/tag/%E3%81%BF%E3%82%84%E3%81%97%E3%82%93


みやしんとは、八王子にある小さな織物工場だ。八王子は織物の産業地帯であり、地域と共に発達してきた歴史がある。富岡などで紡がれた糸は八王子に集まり、そこで織られた布が横浜へ輸送され、そのルートはシルクロードとも呼ばれた。
私は高校2年生の時、このみやしんに職業実習として1週間体験をさせていただいたのだ。みやしんでの仕事はドロッパーと呼ばれる縦糸が切れた際に機械を停止させる小さなものを、3000本やら5000本やらある縦糸へ一つずつつけていく作業など、とにかく地道で過酷だった。

みやしんは、
テキスタイル業界で知らない人はいないと言われるほどに、八王子の田舎から世界トップレベルの技術力と開発力そして創造力を発信してきた。みやしんがISSEY MIYAKEとコラボしている事は有名だが、他にも国内、国外問わず様々なデザイナーと提携している。アルマーニと提携したこともあるそうだ。さらに、MOMAの永久保存のコレクションにも所蔵されている。
その社長であった宮本英治さんは、とても先進的な考え方とアイディアの持ち主であり、時代の変化にいち早く対応して、この会社を時代に沿って進化させてきた方だ。9名の社員はみな20代で、それぞれ誰にも負けぬほどに持つ熱意に尊敬を抱いた。何度か怒られたけど、最終日に皆でした話したことは今も忘れてはいない。






その実習に発見したことがある。
小論の授業で扱った内山節さんの評論「知性」の中から言葉をかりる。
“近代的な生産では、仕事の分化がはじまる。そしてこの動きと、人間の知性を絶対視する思想が結びついた。人間の労働が、知性を働かせた「知的労働」と「肉体労働」とに分けてとらえられるようになったのである。(中略)近代以降、経済は飛躍的に拡大したが、人間の仕草そのものはこうして痩せ細っていった。” (高校生のための現代思想ベーシック ちくま評論入門)
みやしんでは、企画,設計から実際の織りまで、すべての過程を担う。社員の方に、企画と織りの両方できるのが魅力だと言われたことを思い出した。
価格からすると高価だが、それだけの価値がここで生産されるプロダクトにはある。八王子の織物は虫の息といえるほど衰退しており、時代の流れに逆流しているのかもしれない。しかし、プロダクトとしても、仕事としても、あらゆる意味において、多大な価値があった場であったことは、1週間の実習を経て確信している。

そんな工場が廃業してしまうことを、心から残念に思う。