ゲーベルのブランデンブルク協奏曲
バロック音楽でアンサンブルを始めた私にとってブランデンブルク協奏曲は、自分にとってのクラシック音楽事始めみたいな位置づけの曲。クラシック音楽を聴く人の中でどれくらい人気のある曲かといわれると、はなはだ心許なくて、バロックの協奏曲はヴィヴァルディの四季くらいしか聴かない(知らない)なんて人も多いのかもしれません。私がこの曲集を初めて聴いたのは、まだLPのころで、カール・リヒター指揮ミュンヘンバッハだったと思います。アルヒーフのオフホワイトを基調とした重厚感あるジャケットの2枚組のLPはなんとも高貴な感じがして、他のLPとは違う高級感にあふれていましたね。その後、ピノックのブランデンブルク(5番のチェンバロは圧巻だった)に惹かれて、これからはピノックだ!なんて思っていたころ、衝撃的なゲーベル・MAKのブランデンブルク協奏曲に出会いました。超高速、目の覚めるような爽快な演奏で、3番、6番あたりは何度も聴いていました(ブランデンブルクはマーラーのシンフォニーみたいに長くないので、何度聞いても時間があまりかからないのがいいですね)。その後、レオンハルトとか、アーノンクールとか、コープマンとかいろいろ聴きましたが、私の中ではリヒター、ピノック、ゲーベルが3大ブランデンブルクでしたね。# コープマンはサントリーホールでやった全曲演奏会を聴きに行きました。一番前、かぶりつきで聞いたのですが、その後、再び訪れたサントリーホールで、過去の演奏会のパネル写真に自分の姿が写りこんでいた、なんてのも懐かしい思い出です。そして先月、タワレコのHPを眺めていたときに目に入ったのが、ゲーベルのブランデンブルグの新盤。https://tower.jp/item/4605916/J-S-Bach%EF%BC%9A-Brandenburg-Concertosアルヒーフ盤とはまったく趣を異にしたジャケットで、ブランデンブルク協奏曲のCDのジャケットには見えないところが何だかなぁと思わないわけでもないんですが、まぎれもないあのゲーベルがブランデンブルク協奏曲を再録しているではありませんか。迷わずポチっとしたのは言うまでもありません。(ポリーニのベートーヴェンの再録に心躍らせるファンも多かったと思いますが、私にとってはこちらのほうが断然心が舞い踊りました)演奏は、素晴らしいの一言。旧録に漲るエネルギッシュさみたいなものは少し影を潜めて、やや丸くなったような感じもありますが、ゲーベルのブランデンブルグの爽快さはまったく失われていません。流麗さが増したといってもいいかも。演奏しているのベルリンフィルの面々で当然のことながら技術的には全く問題なし。すべてが楽々と弾きこなされています。そして、私にとってHappy Surpriseだったのは、カンタータ第174番『われ心より至高なるものを愛する』BWV174~シンフォニア,カンタータ第42番『されど同じ安息日の夕べに』BWV42~シンフォニア,の2曲が入っていること。カンタータ第174番は、ブランデンブルク協奏曲第3番にホルンとオーボエを加えて、華やかに編曲したもの。ヘンデルっぽい感じもしますが、気が付かないで聞いていると、え?なんで3番に管が入っているの?とびっくりしてしまいます。ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲をチェンバロ協奏曲に編曲しているバッハにとって自分の曲の編曲なんてお手の物だったのでしょうが、バッハの天才を感じずにはいられません。そしてこういう曲をブランデンブルク協奏曲の録音に併録してくれたゲーベルには本当に感謝です。