『Klara and the Sun』 カズオ・イシグロ
カズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞後初の作品。邦題は『クララとお日さま』ですが、今回は原書で読んでみました。
英語の勉強になるのと、図書館で借りるのも原書だとほぼ待たずに借りられます。人気のある作品は100人以上待ちはザラなので…
舞台は近未来のアメリカ。AF(Artificial Friends)といういわゆるAIロボットが子どもたちの友だちになるべく販売されているような世界。
AFであるクララがジョジーという女の子のいる家庭に買われていきます。
この世界の子どもたちは何かしらの遺伝子操作を受けていて(“lifted”と表現)、一方で裕福でなく遺伝子操作を受けていない子どもたち(“unlifted”)は進学ができなかったり、できてもわずかな枠しか用意されておらず競争率が高いなど、差別されている状況です。
差別という意味ではAFの世界も同様で、最新モデルのAFが旧型(クララは旧型)よりも評価されていて先に売れていくなど、差別というのもこのお話の一つのテーマだと言えます。
ジョジーは遺伝子操作のせいで体が弱く、大人になるまで生きられるかどうかわからない状況で、そんなジョジーを助けようとクララはお日さまにお願いをしてジョジーを助けようとするのです。
クララは太陽光で動く仕組みなのでこういった発想になるのだろうと思いますが、一種の太陽崇拝のような感じで、近未来の、しかもロボットが太陽の力で病気を癒せると信じ切っているというのがなんとも皮肉な設定でした。
また、ジョジーのお母さんは、万が一ジョジーが命を落としてしまったときのことを恐れ、ジョジーそっくりの人形を準備して、クララがその人形の心になってジョジーの身代わりになってくれるよう準備します。
結果的にジョジーは命を落とさず成長することができるのですが、人形にAFの心を入れて娘のクローンを作ろうという発想を持つという恐ろしさ…
物語の最後でクララがマネジャー(クララが売られていたお店の店長さん)にAFが最後に行きつく場所、つまりAFの廃棄場所で再会し久しぶりに話をするのですが、そこでクララは「ジョジーになりきること(ジョジーの形の人形に入り込むこと)は可能だと思っていたけれど、ジョジー自身を完全に理解するということはジョジーを愛している周りの人たちのジョジーへの気持ちすべてを理解しなければならないことだとわかった」という主旨のこと(うろ覚えな上かなり意訳しています)を言ってお話が終わります。
説明が下手すぎてうまく表現できませんが、なんとも切ないお話でした。
文章がきれいで読みやすく、読後感はとてもよかったと思います。
日本語にしても英語にしても、良い文章を書けるようになる秘訣は、きれいな、正しく書かれた文章をたくさん読むことだと思っているので、日本の小説も海外の小説もきれいな文章のものを読むのは楽しいだけではなく表現方法など色々勉強になります。
カズオ・イシグロの小説は映像化されているものがいくつかあるのでこの作品も映像化されたら見てみたいなと思います。