「ちょっと話の腰を折ってしまうようなんですけど、一つ質問させてください。学歴厨のお母様は受験勉強には協力的だったんでしょうか?」

 いや、それがの、特に何かしてくれるっちゅう事は一切無かったんや。よく受験勉強してると、お袋さんが夜食運んで来てくれる、みたいなんがありがちなイメージなんやろうけど、うちはそんな事は一度もなかったのう。勉強しとって腹が空いたらサッポロ一番味噌ラーメンを自分で作ってよく食っとったな、玉子入れての。あれはわしの青春の味や。一度に2袋食ったりもしとったなあ。

 まぁ、そんな夜食が無いことよりも、テレビの音量を少しも気にしてくれなかったのには参ったわな。糞狭い家での、わしと姉共用の四畳半の勉強部屋があっての、その隣の部屋にテレビがあったんやが、部屋の間には襖が一枚あるだけや。そいでテレビ大音量で観るんやからたまったものじゃないわな。何度か頼んだ事あるわ、「テレビ観るなとは言わないけど、もうちょっとボリューム下げてくれない?勉強してるからさ」と低姿勢にな。すると、「うるさい!勉強なんかしなくて良い!」と怒鳴るんよ。それでこちらも「もうすぐ受験だから、それまでの間だけでも頼むよ」というんやが、「大学なんか行かなくて良い!誰もお前に大学行ってくれと頼んだ覚えはない!高校卒業したら働け!」とキレ散らかす訳や。男なら最低でも京都大学出ろ言うわりに協力する気は全然無い訳なんやな。わしもしまいには諦める他なかったわ。

 勉強中によく聞こえて来て印象に残ってるのは、「火曜サスペンス劇場」のオープニングやな。ジャン!ジャン!ジャーン!ジャン!ジャン!ジャーン!っていうあれや。母親は火曜サスペンス劇場が好きやったんやろ、しょっちゅうジャン!ジャン!ジャーン!が聞こえてきよったわ。録画もして何度も観てた思うで。


 いつ頃の事かもう忘れたんやが、自宅で早慶の過去問に取り組んでた時の事や。本番形式でストップウォッチで時間も計っての。実際に受験してる体で解いて行くんや。で、まずは英語から始めたとするわな。

 なんやこの文。糞難しいのう。どれが主語でどれが動詞かも分からへん。てゆーか、一つのセンテンスに2つも3つも初めて見るような単語があるやんか!やっぱりわしに早慶は無理ちゃうか。いや、待て待て、落ち着け。分からん単語があっても前後の文脈で意味は推測出来るはずや、よし!もう一回始めから読み返そう!と思ったその時に、ジャン!ジャン!ジャーン!ジャン!ジャン!ジャーン!や(笑)

 まぁ、わしの実家が受験勉強にベストな環境やったとはお世辞にも言えないやろな(笑)

 ただ、感謝しとる事もあるんよ。

 それは、参考書、問題集はもちろん、漫画以外の本には惜しみなくお金を出してくれた事と、高校生の時にバイトしろと言わなかった事やね。

 まぁ、最悪の毒親ではあるけど、全部が全部最悪だった訳では無いんや。そこはちゃんと認めてやらんとフェアじゃないわな。

 おじさんはそこまで話すと、グラスの水をグイッと飲み干した。