この時期になると毎年健康診断を受けるのだが、採血の時にいつも、出会い系アプリ『タップル』で出会った、看護師のОさんを思い出す。

 今から約十年前の話で、彼女は当時、私と同じ位で35歳前後だったか。

 私が婚活面接で5連敗して、その心の傷を出会い系で癒やそうとしていた時に出会った人だった。

 どんなやり取りをしたとか、その他の細々とした事とかは忘れたし、大して面白くもないからここでは省く。

 で、マッチングして、メッセージ重ねて仲良くなって、一回お会いしましょうみたいな流れになって、飲みに行く事になったのだ。

 そして、ある日の夕方待ち合わせて、居酒屋よりちょっと上品なお店に案内した。

 初めて会った彼女は、ぽっちゃりしている事を除けば、ごくごく普通の女性でテンションが上がった。飲んでいろいろお話すれば、今よりもっと仲良くなれるかもしれない、好印象を残して次につなげたい、もしかしたら彼女になってくれるかもしれないぞ、そう思って自然と気合いが入ったのだ。

 で、飲み始めてちょっと経った頃だろうか?
 彼女が真っ赤なお酒を飲んでいたので、「すごい色してますね!トマトジュースみたい!」と言ったら、「一口飲んでみますか?」ってグラスを寄越すのにはびっくりした。
 ストローで飲んでたから、もろに間接キッスになるんだけど良いのかな?みたいに思いながら一口頂いた。

 それからしばらく経った頃か、テーブルの上に乗せてた私の手の甲を見て「注射の打ちやすそうな血管してますねえ」と言って、触って来たのだ。それもちょっと触るとかじゃなくて、ねっとりと、味わうかのように触るのだ。
 私は、びっくりしつつも、触られて嬉しいものだから、「そうですか?」とか言って、頼まれてもいないのに手首のボタンを外して、腕まくりしてみせた。すると、わー、とか言いながら手の甲から肘のところまで触るのだった。

 私は触られて喜びつつも、よからぬ事を考えてしまっていた。

 これは誘われているのではないか?
 とりあえず終電無くさせて様子を見よう。

 その後、お店をはしごして、必死にトークして時間稼ぎをして、終電を無くす事に成功した。
 
 で、絶対何もしないからって、一緒に泊まって、打ったのか、打たされたのか分からないんだけど、『医療行為』ではない注射をした事があった。
 もちろん合意の上でだ。

 それで毎年、健康診断で採血される度に、彼女の温もりを思い出すのだ。

 真面目な人は眉をひそめるような話かもだが、彼女も私も寂しかったのだろう。 

 彼女とは、いろいろあってすぐに別れてしまったが、頭が良くて、器用で、面倒見が良くて、肝っ玉の据わった人だった。 
 婚活で自信を無くして苦しんでいた時に、彼女との出会いでどれだけ勇気付けられたか分からない。

 彼女が今頃は幸せになっている事を祈って、筆をおく事にしよう。