納車四日目の悲劇から、バイクは大した修理にならなかったものの
その年のシーズンは完全復活を遂げられずに終えた。
【復活と出会い】
次の年、またしても朝練を中心としたバイクライフがスタートした。
いつもひとりで、決まったコースを淡々と走る。
決まった休憩スポットで缶コーヒーを飲みながら一服する。
うちに帰って家族と休日を過ごす。
そんな過ごし方を1ヶ月くらい続けていたある日
運命の出会いをする事になる。
おれがひとりで走るのを見ていた人が居た。
当時やってたSNSで秋田のバイク乗りが集うコミュニティーがあって
そこに入ってたおれを、その人が見付けてメッセージをくれた。
「今度の日曜日の朝、チームの仲間と走るから来ないか?」
秋田に越してから、ライダーに戻ってから初めての誘いだった。
黄色いZZR1100に乗っているという情報だけはSNSから読み取れた。
結局その誘いに乗っかる。
「楽しく走りましょう!」なんて返信をすると
「うちのチームのメンバーもみんな遅いから、突っつかないでね」なんて返信が来る。
会ったことも見かけたこともない人達と走るのは物凄く緊張した。
当日、待ち合わせ場所だった峠の麓のスーパーの駐車場へ向かう。
時間はまだ早くて、一台も集まっていなかった。
缶コーヒーを買って、一服しながら待った。
すると一台黒いZZR1100が入ってくる。
全身を革で包んだ重厚にも見えるスタイル。
真っ白なヘルメットを被り、ただ者ならぬオーラを発していた。
「チームのメンバーの方ですか?」
恐る恐る話しかけた。
「メンバーっていうのとは違うけど、たまに走りに誘われるんだ。」
メンバーではないらしい。
駐車場に停められた、黒いZZRを観察する。
デビル管、オーリンズのリアサス、WPのフロントフォーク?スプリング?、バックステップ。
それだけでもお腹一杯だったのに、その人のリアタイヤは、キレイにサイドまで使われていた。
そんなときに黄色のZZRがけたたましいエギゾーストを奏でながら
駐車場の前を通過して、峠を登っていく。
おれを誘った張本人。
一緒に走る人もさることながら、確実におれの域を遥かに越えているのがわかった。
黄色のZZRはしばらく戻ってこなかったが、その間にも続々と集合してきた。
ZX-12R、ZX-9R、もう一台ZZR1100。
そして、ツナギを身にまとった隼。
どれもこれもが、リアタイヤがキレイにエッヂまで使われていた。
とんでもないところに迷い込んだ…。
それが正直な気持ちだった。
そこへ黄色のZZRが戻る。
名前を告げて、今日誘われた者だと改めて自己紹介。
皆が缶コーヒーで一服し終わると、走り始める。
黄色いZZRが先導して走り出す。
最後尾から追いかけようと皆が出て行くのを待っていると
中頃で行けとサインを出される。
仕方なく、列の真ん中ぐらいを走り始めた。
走り始めは穏やかにタイヤを暖めるような動きを見せながら
長い登りの直線を走る。
一つ目の大きな左コーナーが見えたかと思うと、明らかに先導のペースが上がった。
コーナーへの侵入、前をいくバイクのブレーキランプは光ることが無かった。
その時のおれのレベルでは明らかにオーバースピードを感じ、ブレーキングする。
コーナーに入っても、減速する気配は無い。
たちまちに遅れ始める。
コーナリングスピードが違い過ぎる。
コーナーでまだ慣れきらないバイクと、ビビリミッターが効いて
コーナーで開けられず、遅れを取り戻すために可能な限りの直線加速。
途中の奥で曲がり込むコーナーが一カ所あって、慌てて二度寝かせしたりした。
途中走ったことのない道へ入って、しかも先導から遅れていたので
左によって後続に引っ張ってもらった。
後ろから皆を見てると、無理をしてる感じが全くない。
キレイなフォームで曲がっていく。
何なんだこの人たちは?
なんだか嬉しくなってきて、ただただ速い人達の後ろを必死で追いながら
ヘルメットの中では終始ニヤニヤしてしまっていた。
もし、その顔を見ることが出来る人がいたら、きっと物凄く気持ちの悪い光景だっただろう。
とりあえずの目的地になっていた駐車場へ到着する。
ヘルメットを脱いでも、笑いは止まらなかった。
「めちゃくちゃ速いっすねぇ!すんごいです!」
正直な感想だ。
今までに体験したことのない世界を体験して、予想以上に喉がカラカラだった。
冷たい缶コーヒーで喉を潤す。
話の中に入りたい気持ちはあるのだけれど、ケタ違いの走り方を見せられた後では
何とも話しかけにくい空気もあり、さらにはチームというまとまりの中に
ポンっと放たれたおれはどこか滑稽な気さえした。
またしばらくダベリ、今度は来た道を戻る。
精一杯走っているつもりなのに、全く後ろから離れない。
もうこれは諦める他ないと、途中で左により右手で行ってくれと合図を出した。
理解の出来ない速さに初めて出会った。
ひとりで峠を下りながら、すんごい人たちが居るもんだと思いながらも
心は相変わらずドキドキしてウキウキしていた。
遅れて初めの集合場所へ戻る。
ヘルメットを脱いで話に混ざる。
「今日うちでバーベキューやるんだけど、もし良かったら来ない?」
その一言に乗っかって、その日おれはチームにメンバーとして迎え入れられた。