『天を楽しみ、命を知る、故に憂えず』
―楽天知命、故不憂―
<易経>
「天」と「命」を合わせると「天命」である。この場合、「天」も「命」も、同じ意味。ちなみに「命」を手もとの「辞海」で引いてみると、「天命なり。按ずるに古人は毎(つね)に、人道は天道に基づき、人の禍福、窮通、妖術は皆天の支配する所と謂う」とある。
むかしから中国人は、人間社会のもろもろの現象は天の意志の見えない糸によって支配されていると考えてきた。それが、「天命」であり、「命」なのである。だから「命」を自覚することによって、達観とか諦念が生まれ、さらに言えば悟りの境地に近づいていく。
それで「故に憂えず」――へんにジタバタしないということになる。
逆境に陥ったとき、もっともまずいのは、ジタバタすることである。いわゆる悪あがきだ。たんに見苦しい醜態をさらすばかりでなく、これでいっそう事態を悪化させることが多い。
「天を楽しみ、命を知る」者の強みは、こういうときに発揮されるのかもしれない。
守屋 洋 (著)
文庫: 409ページ
出版社: PHP研究所 (1987/12)
ISBN-10: 4569563805
ISBN-13: 978-4569563800