ギターの話で長くなります。
興味の無い方は読み飛ばしてくだされ。



経営学者藤田東久夫氏が著書の中で、
「美学経営」
について述べられております。
会社経営も“美的センス”が必要なのだそうです。
氏曰く、
今流行りの不祥事は醜く、
企業活動による社会貢献は美しい。
製造業であれば、よくできた製品は美しく、
市場に受け入れらて利益を生む。


わたくし事で恐縮ですが、
最近入手したギターが、
このうえなく美しい。

「ギターがウチにやってきた」

ただ単に見た目が派手だとか、
ぴかぴか光ってるということではなく、
その、全体像から細部に至るまで、
すべてに製作者の思い入れが感じられ、
まるで吸い込まれるような美しさです。
もちろん楽器ですから、音の方が大事ですが、
チューニングでA線開放弦を鳴らしただけで、
抱えている胸に心地よい振動が伝わるほど、
音に関しても、全く手抜きの無い美しさです。

最近のスペイン製のギターは
コストダウンのために
もっとも手間のかかる材料の加工工程を
東南アジアや中国で大量生産し、
そのブランドだけを冠し、ネームバリューを利用して、
世界中で大量に販売しています。
スペイン製ギターが日本でも比較的安価で入手できるようになったのは
おそらくそのためです。
ひどいところは、数十人の工員をかかえ
当人はすでに高齢でもう製作には携わっていないブランドもあります。
(実は、ウチにもその手のものが1本あるのですが、
 並べて比べてみるとその差は歴然としています。
 もちろんすべてがそうではありませんが)

一方このギターは
一人の職人が
最初から最後まで全てたった一人で仕上げたものです。
弟子や助手を一切使わず、演奏者が100%納得のいく仕事をするのが
この製作者のアイデンティティーです。
演奏者からの注文を受けてから、初めて製作を開始する完全オーダーメイドです。
世界に2本と同じものは無いのです。
そのため、このギターが店頭に並ぶことはありえません。
値段がゆうに中古車以上になってしまうのも
数十年もかかって仕込んだ希少な材料の価値や
製作にかかる職人ひとりの数ヶ月分の人件費を考えれば
至極もっともな話です。


また、
ギターは組み立てが完成してから後も
材料の乾燥や“なじみ”が進むため
弾きこむことで変化し、成熟し続けます。
そのため、完成後使われずに何年もケースに仕舞われておいたギターは
だめになってしまうと言われています。
このギターは製作時よりすでに演奏者が決まっていましたから、
完成直後からその演奏者によって適度に弾かれ、
なお一層成熟度が増したのです。
そこがまた、店頭に並んでいる量産ギターとは違うところです。

そうやって長い年月をかけて完成、成熟したギターが今、自分の手元にある、
その 「美しい仕事」 に触れることができたと思うだけでも至福の時です。


今後ニッポンの製造業も、
今まで日本が長年かけて培ってきた
このような 「美しい仕事」 をしていくことが、
世界で生き残っていく唯一の方法ではないのか、
と、個人的には思ってしまう今日このごろです。