作 テーナ・シュティヴィチッチ 訳 常田景子
演出 松本祐子
クロアチア・・・私にはなじみの無い国です。
ユーゴスラビアの内戦のニュースは、鮮烈で、その後映画にもよく取り上げられていたので、記憶に残っています。
その時、いくら民族が違うとは言え、今迄お隣さんだったり、同級生だったり、同僚だったりした人たちがいがみ合い、武器を持って闘い血を流し合う・・・・単一民族で、島国で暮らしている日本人には、なかなか理解しがたいですが、彼らの中にある民族意識、今迄暮らしてきた中で抱えていた不満・・それが身近にいた知人たちに向けられた時、憎しみははっきりとした形になるのでしょうか。
クロアチアの3つの大きな転換期を、大きな古い家で生きた4世代にわたる家族と女たちの物語です。
舞台は3つの時代を行き来しながら進みます。彼女たちの今置かれている状況が、過去のどんな問題、過去のどんな出来事に起因するのか、わかりやすかったし、過去に生きた人たちが実は途切れることなく、現在生きている人たちの中に生きているのかを感じることが出来ました。
1945年、ナチスとの攻防に勝ち、夫が出兵している間に身重ながらパルチザン(?)として闘っていたローズは、国から住む場所を与えられた。彼女が選んだのは、その昔、母がメイドとして働き、乳飲み子の自分と共に追い出された家・・・貴族のお屋敷だったその大きな家には精神病院に入っていたはずのその家の娘が隠れ住んでいた。憎むはずの彼女を母は受け入れ、他の2家族と共にお屋敷での生活が始まった。
1990年、ローズの葬儀の夜。ついにユーゴスラビアは分断を決定した。
社会主義の終焉、民族紛争の拡大、人々の生活も心もゆとりを失っていった。
そんな中でもローズが残した家族たちは悩みながら、傷つきながら、踏ん張っていた。
2011年、クロアチアがEU加盟条約に署名。
一家はローズの末の孫娘の結婚式を迎えようとしていた。そして、一家が住むこの家を新婚夫婦が買い取り、他の2家族が出て行くことになった。そのことで繰り広がられる家族の攻防と葛藤・・・・。
登場する女性たちが、家族を生かすため、家族を守るために苦心する姿が、国は違えど、戦いの後で何とか家族のためにと頑張ってきた女たち全てに繋がるものがあると思いました。
本当に強い!女性たちでした。そんな強い女性たちの中で、お父さんの石田圭祐さんがとってもいい味を出してました。体制が変わり、職を失い、しょぼくれて、でもユーモアを忘れず、妻を愛し、娘たちを愛し、とても素敵な人でした。倉野章子さんと石田さんの夫婦の歴史、家族の歴史がそこここに感じられ、厳しい時代でも肩を寄せ合って生きてきた家族の温かさを思いました。
舞台をほぼぐるりと囲こみ、舞台は地続きなので、後方席からは見下ろすようになります。そして、古い屋敷の色合いを感じさせる照明、時折スポットライトに浮かび上がる過去の情景・・・時の流れやら、家族の秘密が私たちにだけ見えます。その演出がすごく良かったです。
彼らも知らない過去の出来事、細部まで知ることが出来ない彼らの現在に続く過去を、客席の私たちは見つめながら、現在の家族たちを温かく見守りました。
2011年から、また社会の情勢はどんどん変わっていきます。
家族の形もまたあの時と違ってきている気がします。
この世界はどこに向かっているのだろうかと不安になります。
遠い国のお話ですが、この物語には普遍のものがあるように思いました。あの舞台の上には、自分の家族の面々と続いてきた女たちの物語があったような気がします。
素晴らしい舞台でした。
ありがとうございました。
P.S.
音楽に疎くて、何の楽器か何の曲かわからないのですが、薄暗い中で流れたチェロ(かなぁ・・・)の静かな音色がとても素敵でした。

