
夜間飛行 (光文社古典新訳文庫)/光文社

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堀口大学さんの訳もいいんだけど、新訳で読むとまた違った新鮮な味わいでした。
前に読んだ時よりも、情景がくっきり浮かび上がり、登場人物の心理状態も、時代背景も、場面描写までもがずしんと胸に迫りました。
普通、「夜間飛行」というとジャンボジェットのパリ行きナイト・フライトみたいな現代技術に支えられた優雅な都会の夜景を眺めながら離陸するシーンとか、ゲランの香水のような洗練されたイメージだと思うんですが、この小説は全く違う趣です。
まだ空輸会社ができて間もない頃、航空郵便を夜間に南米大陸に運ぶための、命がけの飛行士達のお話。
照明爆弾を落とさないと下の風景も見えない、月明かりだけが頼りの南米山脈を越える旅。
命綱は計器類と無線連絡のみです。
今や旅客機が毎夜数え切れないほど飛び、そもそも郵便はメールで瞬時に着く時代。
昔は命がけで南米への葉書や封筒を届けるパイロット達がいたんだと思うと、涙が出ます。
主人公は、ファビアンというパイロットと、空輸会社の管理者リヴィエール。
リヴィエールは一見冷徹な経営者だけど、実はこういうチャレンジャーな人物がいたからこそ、テスト飛行を繰り返し、空輸郵便が実現され、国際社会の運輸事情は大きく進歩したんですね。
ありがとう、リヴィエール

もちろん、死を恐れずに家庭を犠牲にし、積荷と他人のために、悪天候でも夜間に飛ぶ勇敢なパイロット達の存在抜きでは語れません。
サン=テクジュペリ自身が郵便機のパイロットだったこともあり、取材や想像で書いた小説やノンフィクションと違い、リアルな空輸黎明期の現状とパイオニア精神にあふれた当時の人間像が80年たった今も色あせずに残っています。
パイロットの傍ら、小説を書いて2作目だというのにフェミナ賞を受賞し、今も世界的に読み継がれてますます評価が高い本だけあります。
それは私も感じたように、今の便利な時代に読むからこそ、当時の郵便・航空事情が貴重でありがたく思えるからでしょう。
さっきニュースで見ましたが、今や素人でもお金を出せば宇宙旅行に行ける時代です。
先日、フランスからのお土産をもらったばかりだから余計に、望めば「地球の反対側から物が届く」という、つい1世紀前の人には難しかった実感をひしひしと噛みしめた、印象的な作品でした。
それも、冷血人間リヴィエールがいたからこそ...(くどい)
また夜という情景をこれだけロマンチックに、しかし危険なほど美麗でバリエーション豊かに描ける小説家を私は他に知りません。まるで自分がパイロットになって、夜の闇を突き進んで飛んでいる錯覚に何度襲われたことでしょう。
「孤独の豊穣」という訳語が胸にしみ入ります。
特に、何度読んでも感動する、あの名場面ではいてもたってもいられなくて、鼻水が止まらず(涙も)鼻をかむふりをして、目もぬぐいました(笑)
かのアンドレ・ジッドが序文を書いて大推薦したのもわかります(何様)
前にもこのブログで書きましたが、この「夜間飛行」がきっかけとなってフランス語に興味を持ったので、繰り返し何度も読みたい本だということを再認識しました。
命がけの瞬間にこそ、真の人間の価値を痛感するのです。
奇しくも「永遠の0」が今期ドラマ化されます。(うっ、結婚した向井くん...だけど、辛いけど見るよ~ん
)こちらも、飛行機好きにはたまらない小説です。