始まりはその一言でした。
離婚話が上手くまとまらず…。
とここを簡単にお話しておきたいのですが。
お金の問題ではありません。
夫が職場での評価が下がることと親からの圧力で離婚を拒否。
事実離婚(そんな言葉、初めて聞きましたが…)として別居がいいと突っぱね、志願して遠方へ転勤、単身赴任の体で別居生活になっています。
つまり話し合いがきちんと出来ず、私の気持ちなど一切聞き入れてもらえず、一方的に去られて呆然としていた頃。
あまりに無気力で凹んでいる私を、カレがそう誘ってくれました。
飛びついてしまったんですよね、その誘いに。
職場外で二人きりで会うのは、それが初めてでした。
よく考えれば、危険だと分かったはず。
そういう関係になることを求めていたわけじゃないので、あの時に踏みとどまれば今はないと思います。
けれど、会ってしまいました。
仕事終わりのカレと合流したのは、駅前のカフェ。
まだ何の後ろめたさのない私たちは、人目など気にする必要なかったのです。
そこで現状報告をすること数時間。
閉店後は近くのカラオケに移動して、ひたすら話していました。
私のことも、そしてカレの事情も。
その時は、恋愛感情はあまり表に出ませんでした。
互いにツライ家庭事情を暴露し合って、ああだこうだと、ずーっと話していました。
ところが。
帰り道、バイク通勤のカレの駐輪場へ一緒に向かっている時。
ぎゅっと手を繋いできました。
正直、嬉しかった。
カレのそれまでの態度は完璧に『友人』だったから、良かったとまで思っていたのに。
嬉しかったんです。
そして、バイクで送ってもらった時。
家の近くのコンビニの死角で、カレはバイクに跨ったまま、ぎゅっとハグ。
さすがに、この流れはセフレになっちゃうんじゃないか、と怖くなりました。
それは絶対に嫌でした。
だから。
『雰囲気に負けて簡単に手を出すのとかやめて』
というような事を言ったんです。
するとカレは、
『好きなんだ。ごめん。言っちゃいけないのは分かってる。でも、ちゃんと本当に好きなんだ』
と。
道を踏み外すのは、思いのほか簡単でした。
続く。