レミリア:いつかまた、あなたとあの満月を眺めながら未来を語り合う日が訪れるのを信じて私はこうして待っているわ...

 

緋色に染まる満月を眺め、そう呟くレミリア

変えられなかった運命...
導けなかった運命...

溢れる涙に込められた己の無力さを呪い、一人孤独に苛まれていた
495年...
聞くだけで気が遠くなりそうな長い間、フランはなぜ紅魔館の地下に閉じこもっていたのか
誰もが羨むほどに仲の良かったレミリアとフランの間に何があったのか

これは、そんな二人の吸血鬼姉妹が歩んできた495年間の軌跡を描いた物語である

この動画は、東方Projectの公式設定を参考にして制作した二次創作品です

ヴラド・ツェペシュの末裔と言われているレミリア・スカーレットは500年以上生きる吸血鬼少女
少々姿は異なるものの、同じヴラドの血が流れるフランドール・スカーレットとは5歳違いの血縁関係にある
ヴラドの末裔というだけあり、二人共好戦的かつ狂気じみた性格をしており、周りから「紅眼の戦闘狂(レッドアイズ・ベルセルク」と恐れられていた
しかし、普段から見境なく凶行を働いているわけではなく、戦闘時に返り血を浴びて冷ややかな眼で微笑む姿から称された異名である

姉のレミリアは生まれつき未来を予見する能力を持っていた
その能力を活かし、自分や周りの身に起きる"運命"を書き換え、降りかかるはずだった危機を作為的に幾度となく乗り越えてきた
しかし、その強大な力の代償として、身体は500年以上の時を経ても幼いままである

一方のフランは姉のレミリアを凌ぐ強大な力を宿していた
それは、

"ありとあらゆるものを破壊する力"

目に映る実体のあるものであれば見境なく破壊する事が出来る
それこそ、辺り一面を一瞬で塵と化すのは容易なほどの爆発的威力を秘めている

レミリアは自身の能力を理解している事もあり、不用意な殺生や武力行使に出るといった事はしないが、フランはレミリアよりも知的部分が幼く、気に入らない事があれば武力行使を辞さず、時には力を制御しきれず暴走しかける事もあった

そんな凸凹姉妹だが、普段から非常に仲が良く、幻想郷に転移する前の時は二人で出かけたりするなど二人でいるのが当たり前な日々を過ごしていた
しかし、とある事件をきっかけに、修復困難な亀裂が二人の絆を引き裂く事になる

 

時は遡る事495年前
ヴラドが統治していたルーマニアの「ワラキア公国」と、トルコ系民族によって結集した国家勢力「オスマン帝国」による覇権争いがヴラド亡き後も続いていた時の事
レミリアはワラキア公国の領主として指揮を執っていた
フランは特攻隊の隊長として最前線でオスマン帝国の兵士達を次々と薙倒していった
眼にも止まらぬ速さと力強さで突き進むフランの後に続いて進軍するワラキア公国軍
状況的にワラキア公国が優勢と見られていたのだが、喧騒とした中を縫うようにフランの右腕を貫いた1発の銃弾によって全てが一変する

 フラン:あ、ぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!

右腕を打ち抜いた銃弾に悶え苦しみ、地面にのたうち回るフラン
周りの状況を把握せずに突き進んでしまった事で、遠隔からの攻撃に誰も気付く事が出来ていなかった
しかも、放たれた銃弾は銀の弾丸
ここからオスマン帝国の本当の逆襲が始まる

  フラン:...ふっ、ふふふ、あ...はは...ア゛っ、ガっ...ス...すべテ...ズベデ...ギエ゛ヂャ゛エ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!!!!

つい先程まで苦しんでいたフランが突然立ち上がり、敵味方関係なく目の前にいる兵士を次々と血祭りに上げていく
ただただ破壊する事だけに翻弄される本能剥き出しの悪魔と化してしまった

 レミリア:パチェ!?
     フランの様子がおかしいんだけど、フランの身に何があったの!!!?

パチュリー:ぐっ...おそらく、あの銀の銃弾には神経毒が塗られていて、フランの腕を貫いた事で血管からの吸収率が高まり、精神が錯乱するほどに高濃度に毒が回っているんだわ

変わり果てた妹の姿に動揺を隠しきれないレミリア
ワラキア公国内部にオスマン帝国と繋がっている者が紛れており、フランの弱点や能力、性格について情報が敵国に漏れ、その情報を基にした内部崩壊を狙った謀略ではないかとパチュリー・ノーレッジは事態の分析をした

パチュリー:いずれにせよ、このままではフランの暴走に巻き込まれてワラキア公国が滅亡する
      私と小悪魔と美鈴でこの場の指揮を執るから、レミィはフランを止めてきて!

 レミリア:わっ、分かった
      ここはあなた達に託すわ
      ちょっと、フランっ!
      いつまでもそんな下らない神経毒(おもちゃ)に弄ばれてるんじゃないわよ!!!

血で血を洗い流し、燃え盛る炎に骨ごと焼き尽くされていく屍の山
戦場の舞台は血と炎に包まれたこの世のものとは思えない阿鼻叫喚の世界と化したその光景を冷淡な眼で眺めながら嘲笑うオスマン帝国の国主
ヴラド・ツェペシュに抱く憎悪と復讐心が彼女達の凄惨な血の流し合いを現実にした

  小悪魔:その笑い、不愉快だから黙っててくれるかしら?

高笑いしている中、喧騒とした戦場の騒音に紛れながら近づいてきた小悪魔によってオスマン帝国の国主は討たれた
残すはレミリアとフランの激しい戦いのみ
両者がぶつかり合う度に閃光が戦場を照らす

 レミリア:ちっ...も、もう体力が...
      この子、こんな力を秘めていたなんて...
      けど遊びはもう終わりよ
      いい加減眼を覚ましなさい、フラン!!!

  フラン:ア゛バババっ!!!
      オ゛ネ゛エ゛ザバ、モ゛ッ゛ドア゛ゾン゛デヨ゛~!!!

満月が輝く藍の空を埋め尽くすように二つの槍と剣が激突し、辺りを白く染め上げ、光が戦場を包み込む
光が収まった後に映ったのは、フランによって胸を貫かれて倒れ込むレミリアの姿だった
それと同時に、神経毒によって暴走していたフランが正気を取り戻す

  フラン:お、お姉...様...?
      あれ...何で私が...お姉様を...?

 レミリア:よ、良かった...
      やっと、元に戻ったのね...
      戦いは...終わったわよ...
      フラン...よく...がん...ばっ...

先程まで暴走していた記憶は一切ない
灰色に染まる荒野、斃れている無数の兵士
目の前でレミリアを刺し貫く現実を目の当たりにし、理解に窮するフランの左手は激しく震えていた
心臓よりも僅か数mmズレていた事で急所は免れたものの、瀕死の状態にあるレミリアパチュリーがすぐさま治癒魔法をかけ、応急処置にあたる
何が起こっているか分からず、茫然とするフランは、薄暗い空を見上げて泣き叫んだ

暴走した自身の力によって共に過ごした多くの仲間を殺めた事
最愛の姉をこの手で殺めようとした事

「死にたい...」と呟き、自身の存在を呪い、嘆き苦しむ少女の想いは、霞みゆく空に溶けるように儚く轟き、消えていった

 

数日後、瀕死状態だったレミリアは元気を取り戻した
一方、オスマン帝国との激戦以降、フランは地下の部屋に閉じこもってしまい、一歩も部屋から出なくなってしまった
レミリアがいくら声をかけても返事が返ってくる事はなかった
未遂とはいえ、姉レミリアを殺しかけた罪悪感から合わせる顔もなく、何より、自身の呪われし力を暴走させないよう部屋に閉じこもって力を封じ続けているため、反応するわけにはいかなかった

一方、同時進行でフランが部屋に閉じこもってしまった事以外にも大きな問題が残っていた
オスマン帝国との戦いにてフランが暴走した事で多くの民が亡くなり、怒り心頭のワラキア国民達が暴動を起こしていたのだ

"紅眼の悪魔を永久に国外追放せよ!!!"

その音頭と共に、日夜に及ぶ紅魔館弾圧の集中砲火の怒号が飛び交った
なお、紅眼の悪魔は、当時のフランの残虐な姿を模した揶揄する呼び名である
このままでは埒が明かないと、パチュリーの転移魔法を使い、紅魔館ごと幻想郷へと逃げるように姿を消し、身を潜めていた
霧の湖の近くに紅魔館を構えたものの、それでもフランが地下の部屋から出てくる事はなかった

 レミリア:"私とフランはなぜこんな呪われた運命を背負っているの?
      私達に具わるこの力は一体何を意味しているの?"

フランに宿る破壊の力の意味について、そして、ヴラド・ツェペシュの末裔である理由についてヴワル魔法図書館内全ての書籍を貪るように読み漁り、答えを探し続けていた
それでも答えらしい答えが見つからず、気付けば495年の月日が経過してしまった

  小悪魔:パチュリー様っ!これをっ

パチュリー:こっ、これはっ!
      そう、そういう事だったのね...

495年の月日が経ったある日
小悪魔が図書館内で見つけたとある書籍をきっかけに、止まっていた時間が動き出す
フランを除く紅魔館の従者全員を集め、フランを破壊の力の呪縛から開放するための作戦会議が開かれた
この作戦会議によって実行された計画により、幻想郷が大きく揺れ動く事になる
その作戦とは、

「対オスマン帝国再来作戦」

当時暴走していたフランの所業をレミリアが再現し、フランを地下から引きずり出すというものである

 レミリア:おそらく、この騒ぎを鎮めようと誰かが私を止めにくるでしょう
      それまでにフランを外へおびき出し、私と全力で対決させるよう促しなさい
      あなた達には色々と苦労をかけてしまうけど、フランを救うために力を貸してちょうだい
      さぁ行くわよ!準備は良いわね!!!?

  従者達:おぉ~!!!!!


満月照らす空の下、一人の吸血鬼少女が空を裂くように空を飛び回り、霧の湖を中心に妖怪や妖精達を次々と薙倒していく
紅魔館の従者達はレミリアの後ろについていくようにその流れに乗じて辺りの木々を燃やし尽くしていく

パチュリー:ふ、フランっ!
      大変よ、レミィが...
      レミィが暴走して辺りを見境なく破壊しつくしているの!
      あなたの力でないとレミィの暴走を止められないわ
      早くここから出てきてちょうだい!!!

  フラン:...え?お姉さまが何で?
      ...よく分からないけど、分かった

状況が理解出来ないまま495年間開く事のなかった地下の扉を開き、外へと飛び出したフラン
495年ぶりに見た外の景色は、495年前の時に見たのと同じ凄惨な光景だった
そして、その光景の中に見覚えのある黒き羽を生やした桃色の衣装を纏いし少女が満月と重なり、神々しく照らされていた

  フラン:お、お姉...様...?
      な、何をしてるの?
      それに...これは、どういう事なの?

 レミリア:あら、フラン
      495年ぶりに見る景色はどうかしら?
      真っ赤に燃え盛る獄炎に包まれた中に照らされる満月をあなたと見たくてね
      あの頃と同じで素敵でしょう?

  フラン:ち...違う...私は...こんな満月じゃない...
      お姉様と見たい満月は...こんなんじゃない...
      や、やめてよ...
      いつものお姉様に戻ってよ...

 レミリア:(ちっ、まずい...もう追手がそこまで...)
      いいえ、違わないわ
      あなたはこの景色を見て喜んでいたのよ?
      それでも違うというのなら、私を殺すつもりでかかってきなさい!
      あなたの正義、その力をもって示してみせなさい!!!

  フラン:う...うぅ...うぅわあああああ!!!!!!!!!!

 

フラッシュバックする記憶
疼き猛るヴラドの血に宿る狂気
狂い堕ちた姉に対する恐怖と絶望...

フランを纏う邪悪なオーラがフランの困惑する様々な感情を映し出す
だが、その中から徐々に微かな光が見え始める

"姉を救いたい妹の健気な愛と正義"

邪悪なオーラに潜む破壊衝動が次第に薄れ、フランが白い光に包まれていく

 レミリア:そう、それよ、フラン!
      その破壊の力は、あなたの本当の力は、

      "不条理な理を破壊する力"

      ヴラドが託してくれた愛する者を護るために奮う正義の力なのよ
      さぁ、その力で私の過ちを正してちょうだい!!!

  フラン:こ、これが、私の本当の力なの?
      お、お姉様...
      お願い...いつもの、わがままで、子供っぽいけど、誰よりも優しい家族想いなお姉様に戻ってぇ!!!!!

 レミリア:"何か癪に障る事を言われているような気がする..."

複雑な表情を浮かべながら互いの持てる力を全力でぶつけ合うレミリアとフラン
交錯する槍と剣から放たれる白金の光が辺りを包み込み、倒れ込んでいた妖怪や妖精達の傷を癒していく
同時に、焼き尽くされていた周りの木々達が元通りに修復されていった

 レミリア:ごめんなさい、フラン...
      今まで苦しく、寂しい思いをさせちゃって...
      私が自分の力の本来の使い方をもっと早く知っていればこうならずに済んだかもしれないのに...
      けど、これでもう大丈夫よ

  フラン:じ...じゃあ、また前みたいにお出かけしてもいいの?
      お姉様達と一緒の時間を過ごしてもいいの?

 レミリア:えぇ、もちろんよ
      遅くなっちゃったけど、あの時の約束の続き
      二人でまた満月の夜空を見上げながらゆっくりお話しましょう

  フラン:...う....うん...うっ...うぅ...うぇ...うえええぇぇん!!!
      お゛ね゛え゛だま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!

誰にも理解されない孤独の淵から開放され、安堵の思いから溢れ出した喜びの涙を流すフラン
そのフランを抱きしめ、静かに涙を流すレミリア
そこには慟哭にも似た悲しみに包まれたかつての光景はなく、自身の使命を見出し、新たな一歩を踏み出そうとする輝かしい二人の姿がいた

結果的に幻想郷の住民達に身体的な被害はなかったとはいえ、精神的なダメージは計り知れないものがあった
幻想郷を管理する紫にこっぴどく叱られたレミリアは、その翌日に関係各所に謝罪しに勤しみ、幻想郷の住人達との和解に努めた
そして、この一件を機に、不用意な殺傷行為が起きないよう疑似的な命のやり取りの方法として「スペルカードルール」が制定された
また、レミリアが起こしたこの事件は後に「吸血鬼異変」と名付けられ、後世に語り継がれるのであった

495年の時を歩み、それぞれの真の力について理解したレミリアとフラン
霧の湖に溶け込む満月を見上げながらヴラド・ツェペシュについて語り合っていた

  フラン:お姉様
      ヴラドって結局悪い王様だったの?

 レミリア:そうねぇ
      ヴラドに関する全ての書籍でそう書かれていたわ
      けど、小悪魔が見つけてくれたヴラド本人が記したと思われる日記帳らしきものにはこう書いてあったの

我が力、理を打ち砕く
我が力、理を導ゆく標なり
我が力、一つになりて運命を切り開く
我が力継し者
我が力成す使命正しく理解せし時、
末代をも照らす希望とならん

  フラン:ふぅん、難しい事はよく分からないけど、私達にその力をプレゼントしてくれたって事なのかなぁ?

 レミリア:プレゼント...ふふ、そうね
      そうかもしれないわね
      すごく大切な事を教えてくれているんだと思う
      ヴラドの思いに恥じないようお互いの力を大事にして生きていきましょう

もしかしたらヴラド本人も自身の身体に流れる血(力)の暴走を抑える術がなく、ただ一人苦しんでいたのかもしれない
呪いと疑われしその力の真の力を引き出す事が出来たレミリアとフランの表情は、優しさと自信に満ち溢れていた

こうして、495年の長き月日を歩んできたヴラド・ツェペシュの末裔達の物語の幕が閉じ、幻想郷での新たな物語の幕が開かれたのであった

 

fin.

 

 

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