「タクシーの運転手をしていると何か怖いエピソードとかあるんじゃないの?」などとガサツな客によく聞かれたものだが、人付き合いが苦手な俺はいつも聞こえないふりをして窓の外の景色を眺めていた。
今だから言うのだが、タクシー運転手をしていると怖い経験をする。
これは紛れもない事実だ。
これはある蒸し暑い夏の夜だった。
そのお客は20代前半ほどの若い見た目だが少し陰があって、いわゆる男が守りたいと思うようなタイプの女だった。
特に会話もなく黙々と車を走らせていたら彼女は急に「そこで降ろしてください」と言った。
そこは墓だった。
俺はその時悟った。
彼女はこの世の者ではないと。
俺は「勘定はいい」と言って彼女を降ろすとそそくさとその場を後にした。
まぁそういう話です。