重雄が重々しい口調で、「さて、ご用件をうかがおうか」と声をかけると、
陽兎は静かに、しかし確かな意思をこめて口を開いた。

「先の戦において、我が弟・陽巳が……竹台かえで殿に一目ぼれいたしました」

場内がざわめく。

「ゆえに、かえで殿を我が弟の嫁として迎えたく、こうして直接お願いにあがった次第です。
 加えて、長年争いの火種であった百鹿川の水利問題についても、これを機に終止符を打ちたく存じます。
 両家の絆を深め、平穏を築くための縁とならんことを──」

堂々と語る陽兎。その隣で、陽巳はやや恥ずかしげにうつむきながらも、真剣な面持ちで前を見据えている。

重雄は静かに目を閉じ、しばし思案した後、やがて静かに口を開いた。

「かえでを呼べ。本人の意思を聞こう」

やがて広間に現れたかえでは、陽巳の姿を見て頬を染めた。

「……かえで、おまえの気持ちはどうだ?」

しばし沈黙ののち、かえでは胸元に手を添え、はっきりと口を開いた。

「はい。わたくしもまた……陽巳様に心を奪われました。
 このご縁、願ってもないお話にございます」

その言葉に、場の空気がふわりと和む。

重雄は微笑みを浮かべながら深くうなずき、陽兎も安堵の表情を見せた。

「ならば、この縁──しかと結ぼう」

こうして縁談は整い、広間には和やかな笑顔と、未来への温かな希望が満ちていった。



連続投稿 861日目。