加古山城の奥座敷。
障子越しに差し込む柔らかな陽光と、吹き抜ける春の風が、畳の香りをやさしく揺らしていた。

この日集まっていたのは、当主・加古山良智、長女・宇美、そしてたかやま、あすけ、ハジメ、キヨシの六人。
話題は“教養としてのたしなみ”へと及び、場の中心に座る宇美が短歌の手ほどきを始めていた。

「武士たるもの、刀ばかりでなく、心を綴る術もまた大事なのですわ」
凛とした声に、場の空気がほんの少し引き締まる。

良智は筆をとる手つきも堂に入ったもの。
「都で習ったことが、ようやく役に立ちそうだ」と、どこか楽しげに詠む。

対してたかやまは額に汗。
「……これはこれで戦よりも難しいのう」と苦笑しつつ、筆先を震わせていた。

あすけはというと──
「おむすび つるりと落ちた 春の坂……いや、ちがうな……」
食べ物の連想から抜け出せず、悶々としていた。

そんな中、ハジメはたかやまと視線を交わしながらも、
その眼差しは一貫して宇美に向けられていた。

「美しすぎるって、ずるいよな……」
思わずつぶやいたその声は、誰にも聞こえなかった──はず。

そして、キヨシ。
彼はかつて短歌好きの祖母から少し教わっていたことがあり、筆を走らせた短歌には、どこか芯の通った響きがあった。

「ほう……素敵ですね」
宇美のその一言に、キヨシの顔は一気に赤く染まる。

(あ、あれ……なんで、こんなにドキドキしてるんだろ……)

春の風が、ふわりと揺れた障子を抜けて、ふたりの間をすり抜けていった。



連続投稿 857日目。