ウォーッ!!!マジかよー!まだそんな隠し玉持ってたんすか!今日この店入って良かったー!
もうサラリーマン組に目で合図しちゃう。向こうも頷く。何を確認しあったのか自分でもよく分からないが、あの時の僕達は間違いなく通じ合っていた。
『イヤ…今日はその話は…』と意気消沈の男性。
「じゃあいつハッキリするわけ?」冷静な語り口の女性。
洗濯ティッシュの話からまさかこんな展開になるとは…
「結局別れる気ないんだよね、わかってたよ私」
『イヤ…』
「今日までずっと我慢して来たけどさすがに限界」
洗濯ティッシュがトリガーとなり、今ひとつの愛の形が終わろうとしている。
『別れる気はあるんだよ、ちゃんと、ね?』
さっきまで可哀想なオトボケ君だと思っていた男性に急に腹が立ってくる。
女性は無言。
『でもね、相手がある話だからそう簡単に進まないのよ。わかってよ。』
「だからもう良いよ。今までありがとう。サヨウナラ!」
そうだ!君にはもっと良い相手がいるはずだ!君の為なら文句言わずに家事をこなしてくれるパートナーを探すのだ!
もはやマスターもサラリーマン組も、身を乗り出してカップルを凝視している。私も例外なく。
マスターはもう少し働いて欲しい。
立ち上がる女性。
腰を上げる男性。
出口に向かう女性。
女性の手をつかむ男性。
振り返る女性。
見守る僕達。
男性が口をひらいた。
「今気付いたー。お前のこのワンピース、ポケットついてないよ。ポケット無い服あったじゃん。」
無邪気なキラキラ笑顔の男性。
女性はゆっくり男性の腕を振りほどき、カウンターの方を向く。
『マスター串焼き10本盛りと梅酒ソーダ』
はいよー。
着席する無表情の女性と笑顔の男性。
‥‥
我々も何事も無かったように酒をすする。
大人の夜が更けていく。
夜明けにはまだ遠い。
《おわり》