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藤田保健衛生大学医学部・救急総合内科学の岩田充永教授の投稿。
テーマ:「延命治療」とは何か? 無意味な治療と必要な治療を分けるもの
救急当直をしている後輩からの深夜の相談で、英国の天才理論物理学者ホーキング博士が罹患していることで知られるALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さん。
「急性心不全(あるいは、慢性心不全急性増悪かな?)
で救急搬送されてきたが、家族は延命治療を望まず、人工呼吸器(NIPPV)の装着に難色を示しているが、どうしたらよいか?」
と後輩救急医が悩んで相談してきたというお話しですが、
そもそも、この例えがあまり適切ではありません。
(−_−;)
ALSというのは末梢神経が上肢から徐々に麻痺して行き、最終的に呼吸筋の麻痺を来して肺の換気・ガス交換が出来なくなって死に至る病気です。
その変化は「不可逆的」で一旦そういう状態になったら、人工呼吸器なしでは生命を維持できなくなります。
そこで、患者さん本人やご家族との話し合いで【DNRオーダー】(Do Not Resuscitation Order: 延命治療拒否)を書面に残すことがあります。
そういう患者さんが急変してきたときに、
「救急医の判断で延命治療をやって家族に誹りを受けることがある」
ということを問題提起したかったのだと思いますが、この岩田教授のお話…
例えが適切ではありません
ALSの患者さんのご家族が憤った理由は、
「一旦人工呼吸器を装着してしまったら、死亡するまで外すことができなくなる。外したら殺人罪に問われる」
という明確な理由に他なりません。
確かにそれは、患者さん本人にとっても、ご家族にとっても非常に残酷なことに他なりません。
しかし、このケースは、論点がそこじゃないのです
ALSが進行した結果として出現する症状として、急性心不全は来さないのですよ
〔ALSで侵されるのは随意筋で、心臓や腸管などを司る自律神経は障害されません〕
この話しは、そこがポイントで、
患者さんはALSが悪化して致命的に陥って人工呼吸管理が必要になったのではなく、
単なる偶発的に急性心不全を発生したために治療が必要だったということで、「ALSに対する無理な延命治療」には該当しないのです。
だから、救急医は、その旨をきちんと説明して、人工呼吸管理は一時的で、救命率(回復率)も80%(ちゃんとやれば)以上だと説明すれば良かったのです。
それでも治療を拒否するのであれば、家族の側に「殺人教唆」が問われることになります
この記事に象徴されるように、医学部の教授でも、そこの線引きが曖昧で、研修医や学生の指導も曖昧になっているきらいがあります。
昔から問題になっているのは、例えば、肺癌の患者さんが呼吸不全に陥ったときに人工呼吸器の装着をどうするか?
というような「悪性腫瘍の患者さんへの延命治療」です。
主治医によって対応は三者三様で、
A医師は酸素と一緒に「塩酸モルヒネ」を投与しました。
モルヒネは、痛みを取る2/3の量で呼吸苦を取ってくれます。呼吸苦だけ取ってあとは自然経過に任せました。
B医師は「仕方が無い」と放置しました。麻酔をかけると呼吸抑制が起きて呼吸が止まることがあるので、麻酔もかけられません。軽度の鎮静剤投与だけで経過をみました。
C医師は見るに見かねて、気管内挿管をして人工呼吸器を装着してしまいました。亡くなるまでもう外せませんが、麻酔をかけてしまうので、患者さんは苦しくはない… はずです
あなたなら、どれを選択しますか?
これは実際の医療現場で目にする実際の例で、本当に対応が三者三様に分かれるのです。
生命は、その日が消える瞬間までが大切な時間です。
その大切な時間をどう過ごすか、どう使うのか? それは患者さん本人が与えられた最後の権利であり、
最期の瞬間までをサポートする家族や医療者に託された大きな責任でもあるのです。
医療チームのトップである医師に
「何が意味のない延命治療」で、
何が「回復可能な偶発症」なのかという、
きちんとした判断の基準が出来ていなければ、現場の医療チームは混乱します。
ヒトの死になぞ慣れてもいない、まして患者さんが急変して混乱・狼狽する家族や親族に、冷静な判断の統一を求めるのは非常に酷というものです。
患者さんの終末期医療を左右するのは、最終的に医師の判断と責任感です。
カルテに【DNRオーダー】があるかどうか? の問題では無いのですよ。
この頃の若い医師には、患者さんの病態から人生まで
深く突っ込んで関わり、
信念を持って医に携わっているケースが少なくなっているように感じます。
(−_−;)
医師は、決してお気楽な9時5時のサラリーマンであってはいけません。
高度な分子レベルの医学を理解できるだけの見識を積み上げ、
職人としての高度な医療技術の腕を磨く努力を一生継続してください。
医に携わるものは、強い信念と情熱を持って日々の診療に携わらなければなりません。
・・・なんていうと、若い頃から病棟〔hospitalist〕経験の希薄な外来専門の、
「家庭医」を標榜するサラリーマン先生達に、
あんたはもう古い と言われるのでしょうかね…
〔出典〕
【延命治療】救急医が台無しにしやがって…… : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160727-OYTET50015/
〔ホーキング博士について〕
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0


