ハイブランドの値上げラッシュで「値上げしすぎ。もう買わない」という人達が一定数いる。

 「買わない」のか「買えない」のかは外からはワカラナイが、ハイブランドのブランディングと付加価値の創造を統計学(偏差値)から眺めてみると、値上げには「買わせない」というフィルタリングとしての意味合いも見えてくる。

 例えば「所得上位2%(50人に1人)の人達が持つブランド」と位置づけたい場合、偏差値化すると70以上の人達が対象となる。

 ※厳密には上位2.275%。

 欲しい人ミンナに行き渡るように供給してしまうと「ミンナ持ってる」状態になり、いわゆる量産品と化し価値がなくなるので、常に「上位N%」という比率を保つ必要がある。そこで資本主義ではなく民主主義を持ち出すと「抽選」とかになって、「あの人が持ってるなら要らない」などが生じ価値を保つことができないから、ステータス性の高いブランド品に平等の概念を持ち込むべきじゃない。

 偏差値とは、日本人に馴染みのあるテストの点数で言えば、100点満点のテストで平均点が50点だった場合、標準偏差10(階級が10点刻みということ)なら、50点の人は偏差値50(平均ど真ん中)、60点の人は偏差値60、70点の人は偏差値70と出る。このテストにおいて70点以上の人は受験者の2%しかいない。

 これをそのままの比率で所得に置き換えてみると、例えば平均世帯年収を500万円とし、600万円の世帯は偏差値60、700万円の世帯は偏差値70(上位2%)ということになる。

 ※後述するが実際の日本の所得分布とは異なるので飽くまで例え。

 例えば世帯年収の10%をブランドバッグに消費できるるものとして考えると、平均(世帯所得偏差値50)層向けは50万円、偏差値60の層を対象とするバッグには60万円、70の層には70万円という値付けをすれば、大凡70万円のバッグは「世帯所得上位2%の人達が持つバッグ」と位置づけることができる。

 ※ココでは見栄で借金(ローン)してまで買う人達は例外とする。需要過多に陥る原因でもある。

 では所得格差が開き、最初に設定した「標準偏差10」が20になった場合どうだろう。

 前述のテストの点数で言えば、50点が平均(偏差値50)で、70点なら偏差値60、90点なら偏差値70ということになる。

 同じ上位2%でも、標準偏差が異なると70点と90点の差がある。受験者の能力差に開きがあると考えられる。

 同比率で世帯所得に置き換えてみると、平均の500万円が偏差値50、700万円が偏差値60、900万円が偏差値70となり、何となく今の時代っぽく見えてきたんじゃなかろうか。

 これを実際の日本の世帯所得分布(2019年調査)に合わせると、上位2%は世帯年収1,700万円以上なので、テストの点数で言えば標準偏差60というトンデモナイ開きがある。

 ※所得分布が標準正規分布に沿ってない(左寄りで特に500万円以下がダンゴになってる)ので、飽くまで平均から上位2%の開きだけを見た場合。

 でこれを前述のバッグの値段に当てはめると、平均層向けの50万円のバッグは、上位2%(偏差値70以上)向けだと170万円という設定になる。

 供給を絞って品薄にし「売り切れ続出!」と煽ることで更に人気に火が点く時代もあったが、今は競合する代替品も多く、商機を逃すリスクの方が大きいし、供給を絞れば当然に売上が落ちるから、供給量は一定比率(「上位2%」など)に保った方が良い。それでも人口そのものが増えているので、必然的に生産量の絶対数(流通量)は増える。だから、手に入りにくいからといって持ってる人が減っているわけではない。

 所得の統計とは無収入側にはゼロというリミットがあるが上は青天井なので、平均から上位2%の差は今後ますます広がっていくだろう。だとすればハイブランドが「所得上位N%向け」と位置づけを明確にすればするほど、当該ブランドのプレステージ商品はうなぎ登りで値段が上がっていくと推察できる。

 例えば所得上位2%を対象とするブランドの最上位品を顧客上位2%向けと位置づけた場合は、所得上位0.04%すなわち所得偏差値83超えを対象としていることになり、前述のバッグの場合230万円を超える。

 ※偏差値と出現率の表を最下部に添付した。

 でタイトルの「フィルタリング」としての値上げとは、ブランド品とはお金持ちが持ってるからこそ高級品としての憧れやステータス性を保ってきたのであって、借金(ローン)等で買う人達が増えると、所持品と生活水準に矛盾が生じ、周囲の人達が憧れなくなる。そしてそこを通り過ぎると「じゃぁ私も」という人が増え、ますます競争が激化し、本来持って欲しい人達に行き渡らなくなるため、値上げして対象顧客でない層を買えなくするのが手っ取り早い。

 受験や入社試験の足切りと同じ。

 仮に出てきても支払えないような価格のバッグなら、ブティックの前に列を作ったりということもなくなり、スタッフも楽になるし店内も落ち着く。

 また、レディディオールみたいに「パパ活バッグ」と呼ばれてしまうと価値が薄れるどころかブランドイメージにも傷が付くので、その辺のパパ(笑)が買ってあげられない値段まで上げたら良い。理屈的には。70万円のレディディオールは買ってあげられても、150万円のバーキンを買ってあげるとなると対応できる“パパ”の絶対数が減るから。

 ただしそこまで値上げしても良いブランドか否かこそがブランド価値(人気と品質も含め)そのもの。

 加えて転売対策にもなる。定価が上がれば上がるほど、更に上乗せされた転売価格で買える人自体が減るから。

 というわけで、前回の現地物価の上昇に合わせた値上げと、過剰な需要を抑えるフィルタリングとしての値上げとがある。

 次回は、欧米の物価上昇と日本のクレジットカードの限度額の関係を書いてみたい。


via Charlie's Intelligence
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