「遅咲き」という表現にちょっとした感慨深さを感じたので、今回はその想いを語ってみましょう。その主人公は、2024年パリオリンピックの自転車競技、男子ロードでメダルを獲得したフランス人ライダーです。
まずは、クリストフ・ラポルト。オバさんのブログでは「ラポルトさん」で通す、ヴィスマ所属の31歳です。28歳で当時のユンボ・ヴィスマへ移籍する前までの8年間、リードアウトで光る走りは見せていたものの、プロトンに埋もれ静かに姿を消していくアシスト役が仕事と自覚する、「コフィディスの素朴な青年」でした。
そんなラポルトさんの、ヴィスマ移籍後の活躍は今さら語るまでもないんだけど、コフィディス時代が目立たなかっただけに、けっこう衝撃的でしたね。オバさんのド素人思考では、オランダのワールドチームに移籍すれば誰もがこうなるワケではなく、あくまで、ラポルトさんのキャリアアップの「タイプ」が、ヴィスマのやり方と見事に合致した結果だと考えます。ただし、ユンボへの移籍を決断したとき、本人にこんな未来は想像すらできなかったはずです。
ツール・ド・フランスのステージ勝利、ヨーロッパチャンピオン、そして、母国開催のオリンピックで銅メダル獲得。20代最後の年から30代へと、ラポルトさんのキャリアは輝きまくっております。
さて、グルパマ・FDJひと筋のヴァランタン・マディアスくんは、ある日、チームオーナーに言葉をかけられました。正確な内容は本人が濁すけど、受け止め方としては「25歳すぎたら、もう大目に見てやれなくなるぞ」みたいなニュアンスだったようです。グルパマの下位チームから、確実にキャリアを重ねてきたブルターニュのサイクリストの20代前半は、なんとも微妙な状況でした。
才能はある。そう、確実に…。チームは当然、それにふさわしい走りへの到達を期待するんだけど、2年、3年と月日を重ねても、マデュアスくんはイマイチで「ぱっ」としません。それでもたま~に、豊かな才能のカケラをキラリと光らせるレースがあるので、チームはゆっくり成長型と理解し見守り続けました。ただ、その限界が25歳だったようで。興味深いことに、パリ~トゥールで2位か3位になったのが、25歳のシーズン最後のレース。翌年のツールでは、厳しい山岳ステージでエースの最終アシストを務める、実に印象的な走りを披露し、そして去年・今年で、遅咲きのつぼみは見事に開花しました。
2024年8月、28歳で掴んだ母国オリンピック銀メダルの栄光。個人的には正直、マデュアスくんが2位になるなんて想像もしなかったけど、今年前半の彼の活躍を見れば、栄光にふさわしいライダーだと理解できますね。
個人的には、「遅咲き」とはあくまで結果の表現だと思っています。プロトンを構成するライダーの多くが、早くも遅くも咲かない地味なキャリアを重ね、静かに消えていきます。それなりの才能を秘めているから「咲く」ワケで、ドラマが存在するとしたら、開花のキッカケを掴めるか、それとも逃すかという二者択一の運命でしょう。
2024年パリオリンピックで輝いたふたりのフランス人は、間違いなく「遅咲きドラマ」のハッピーエンドを体感したライダーでした。