こんなものもちょっと前に作りました。
https://youtu.be/jfFI4n8Dp2A

最初のモチベーションは「何かアウトプットしたい」というものと、「この曲使いたい」の2つでしたが、
やってみてだいぶ楽しかったです。

そのうち動画の各シーンについても解説を記録しておきたいと思います。

  • ショル

 

ジャルの双子の姉にあたる。発生後の生体反応を確認できたのが、ジャルより少し早かったため、研究員からは姉として扱われ続け、その様子を見ていたジャルも自ずとショルを姉と呼ぶようになった

しかしショルにとっては、自分が姉かどうかなどは、正直どうでもいいことであった。

ショルにとっては、同じ部屋に住む自分と同じ髪色、顔のつくりなのにいつもひどくなにかに怯え、寝るときになると必ず同じ布団に入ってきて安らいだ顔を見せる、妹のジャルだけが重要で、研究員もルーサーもルドルフさえも、ショルにとっては取るに足らない存在だった。

物心がついた頃から、自分は何者なのだろうかと考えることが尽きなかった。

気づいたら鉄筋の壁と一枚の巨大なガラス張りの部屋に放り込まれ、定期的に誰かが様子を見にくる。たまに外に連れ出されたと思ったら、毛むくじゃらの動物や巨大化した虫のような生き物と戦わせられる

痛いのは嫌だから、なりふり構わず戦って辛くも勝利する。それを見た周囲の大人は落胆した表情を浮かべる。

わけもわからず命令だけを受けて、それ通りに動いてるのに、周りの大人は誰一人として満たされているように見えない。

自分は何のために、誰に望まれてここに居るのか。一人でいるとそんな考えが頭を満たし、体が霧散していくような感覚を覚えた。

それを払拭してくれるのは、いつもジャルだった。

怯えた表情をする彼女に気まぐれに触れると、彼女は心からの笑顔を見せた。

夜になるとなんの断りもなしに震えながら自分の布団に入ってきて、いつの間にか静かに寝息を立てる。

深夜に突然ジャルがはね起きて泣きじゃくることもあった。そんなときは手を握ると、あっという間に落ち着いていく。

二人の間に、言葉による命令の関係はなかった。ただただ自然と、ジャルが自分に近寄り、自分はジャルを受け入れ、そうすることで自身の中で何かが補完されていく感覚が、ショルにとっては何より心地良かった。

ジャルが自分を頼ってるときだけは、ショルは自身の存在意義を強く感じることができた。

私はこの小さく臆病ですぐに泣く妹という存在を支えるために生きているのだと。この子が私を望むから、私はここにいていいのだと。私はこのか弱い存在に生かされている、この子がいないと生きていてはいけないのだと。

第三者から見たら、二人の関係性はある種ジャルからショルへの一方通行な関係性であったり、あるいはショルが保護者として存在してるかのように見えたかもしれないが、

二人の関係の本質は共依存にあるということを知るものは当人達以外にはいなかった。

ジャルは『比較的』優秀だと、口々に周りの大人は漏らしており、それを耳にすることは多かった。

その比較対象として、自分の名前、あるいは試作機という単語が混ざるのも。

確かに、ショルから見てもジャルは自分とは違った。

自分では絶対に気付けないような死角からの攻撃をすんでのところで避ける。

自分には見抜けないような、相手の隙や癖を執拗に狙う、など

ジャルが戦う姿は、ショルが知ってるいつものジャルでは無かったし、それを見る大人たちの視線も、自分に向けられるそれとは全く異なっていた、

しかしショルはそれを妬むことは一度もなかった。

それよりも、臆病なはずなのに戦わされているジャルを案じる気持ちと、怖かったと戦闘訓練後に泣きそうになりながらジャルが自分のもとに寄り添ってくる時間を心待ちにする気持ちの方が強かった。

そのせいもあり、ショルは自分が周りから失望の目線を送られつつあることには気付かず、それを是正しようという発想にも至らなかった。

それが結果的に、ルーサーによるデューマンへの改造に繋がったといえる。

 

ある日、何かを察したジャルが悲鳴のような声で自分に逃げろ、隠れろと告げる。今まで見たこともないような半狂乱に陥るジャルに驚きつつもその気迫に押され走り出すやいなや、次に聞こえたのは何かを強く殴打するような鈍い音、微かにだか確かに発せられた、ジャルが呻くように呟いた自分の名前。

振り返る頃にはあっという間に大人たちに囲まれ、すぐさまタンカの上に縛り付けられた。

自分がこれから何か恐ろしいことをされるのだけは察した。ルドルフはひどくげっそりとした顔でうなだれている。もともと興味も薄く何を考えてるかわからない男だったが、今回ばかりはこれから私の身に起きることを想像して意気消沈しているのだろうと第六感が告げる。

悪い想像への方向に支配されたショルの頭は、自分を庇って倒れたジャルの安否についてもまた、最悪の事態が起きたのではないかと考える。

そしてその想像こそが、ショルにとって一番の絶望であり、悲しみに繋がった。

自室から手術室に運び込まれるまでのたった数分間で、ショルがひそかに嬉しく思っていたジャルとおそろいのブロンドの髪色は、これから行われることへの恐怖と、ジャルを失ってしまったという深い絶望によりすべて白くなっていた。

 

手術は、ショルの短い人生の中で他に類を見ない最悪の苦痛をもたらした。

ヒューマン、蛇、そしてデューマンの素となる異次元からの遺伝子の三種の融合は、まだ幼いショルの体内で想像を絶する痛みを生み出す。一方でこの三種の融合により彼女の中で彼女を内から攻撃するエネルギーの発生は、ルーサーの目に新鮮で興味深いものとして写り、それに伴うショルの肉体反応すべてを観察するべく、『彼女の身に何が起きても意識を失わせないように』生命維持は万全の状態を保ったのだ。

これによりショルは、体が燃えるような激痛と、指先から少しづつなにか得体のしれないものに侵されていき、頭から額にかけて別の生き物が這いずりまわるようなおぞましい感覚を意識がはっきりとした状態で知覚しつつ、それでも死ぬ事は許されなかった。

一時間、一日、あるいは一週間、どのくらいの時間が経過したのか、もはや痛み体に存在することが当然であるかのように錯覚するようになった頃、ルーサーが鼻で短く笑って離れていくのが分かった。

気がつくと体の拘束は解かれており、痛みも幾分和らいでいる。

それでも指一本動かすのに数十秒、上半身を起こすのに5分以上もかかるくらいには体が悲鳴をあげているのが分かった。

ショルの頭にはジャルのことしか無かった。

ひどく緩慢にならざるを得ない肉体に鞭打って、自室へとふらつきながら歩く。

体が自分のものとは思えない、何か自分の知らないものに変異してしまったかのような感覚に薄気味悪さを覚えながらも、一歩ずつ足を進める。

自室へ向かう道中にある廊下の壁に掛けられた鏡が目に入ったとき、彼女はその違和感の正体に気付く。

その顔には謎の紋様が刻まれ、左目は黄色く淀み、髪は白く変色している。そして何より額からは獣のような角が生えている。

それを目にしたショルの脳裏にまっさきに浮かんだ感情は、いつもの自分ではない、ではなく、ジャルと異なってしまった、であった。

もうこんな自分を、ジャルは今まで通りに接してくれないかもしれない、

私もまた、周りの大人や獣のようにジャルを怯えさせてしまうかもしれない。

それでも、今は何よりジャルに会いたい。彼女が生きていれば、何か変わるかもしれない。

私の変質した体も、ジャルに触れることでキレイにもとに戻るかもしれない。

早く、安否を確かめねば。

 

心身ともに疲れ果てていたショルはそんな荒唐無稽な想像を胸に、痛みに耐えながら必死に部屋へ向かった。

そして、ようやく自室にたどり着いたころ、そこにジャルはいた。しかしそれは、ショルのよく知る彼女ではなく、自身の変化よりも遥かに異質な空気と形相をたたえたジャルのような生き物だった。

 

* * * *

 

手術を終えたその日から、二人の関係性は変わってしまった。

ジャルは時折周りの大人やルドルフに対する怨嗟の言葉を呟ことがおおくなった。

時折短く笑う声がするが、その表情はショルだけが見てきた安らかであどけない笑顔ではなかった。

そして、それだけではなく、彼女は以前のように自身に近づいてくることもなくなった。

それでも視線だけは常に感じていたが、その爬虫類のような目から感情を読み取るのは、少なくとも当時の精神状態にあるショルには困難だった。

ショルは、そんなジャルを、変わったとは思わなかった。正確には、ショルが彼女を変えてしまったのだと考えていた。

変質した自分の姿が、彼女を壊してしまったのだと。だからもう、彼女は、私の布団に来なくなったのだと。

 

そんな距離感で一月を過ごしたある日、ショルは、ジャルが目に良からぬ決意を宿してソワソワしていることに気付く

何があったのかはわからないし、彼女が何をしようとしてるかも見当がつかない。ただ、彼女がこれから何か危険なことをしようとしてるということは容易に想像がついた。その手には訓練場からいつの間にかくすねていた二本のナイフが握られていたからだ。

ジャルが何か罪を犯そうというのなら、今の自分にはそれを止める資格は無い。今の私は、彼女の安らぎになり得る体ではないのだから。

それでも許されるなら、せめて私は共犯でありたい。あのか弱い妹に、一人で罪を負わせるのではなく、その重さを分かち合える存在でありたい。

そんな思いがショルを突き動かし、これから起きるかもしれない恐ろしい出来事に身体を震わせつつも、黙ってジャルの背後に行き、彼女の手はナイフを握っているためそっと後ろからジャルの服の裾を掴んでついていった。

 

ジャルが向かったのは人気のない研究室の一つだった。

部屋の中から男二人の声が聞こえる。一人はルドルフ、もう一人はルーサーだとわかった。

何を話してるのかと耳をそばだてた瞬間、衣服を掴んでいた手が強く引っ張られる感覚があった。

ジャルが部屋に飛び込んだのであった。

そして最初に目に入ったのは、鮮血を撒き散らしながら宙を舞うルドルフの頭部だった。

その動きはなぜかひどくスローモーション処理が施された出来の悪い映像作品のようにショルの目にはうつった。

キリモミ回転をするルドルフの頭部に2つ有る、もはや光を失ったその目と目が合った瞬間、ショルの意識に妙な気持ちが流れ込んできた。

 

食欲が抑えきれない。

 

あの首から流れる真っ赤な血はどんなに甘美な味だろうか。

床に散るその一滴すら勿体ない。その味を想像するだけで、啜ることで得られる幸福感に想いを馳せるだけで、体の震えがより一層強くなってくる。

その首が地面に着地し、部屋の中に鈍い音が反響したのを聞いたのが、この部屋でのショルの最後の記憶だった。

 

気付くと自室で横たわっていた。どれくらい寝たのだろうか。とても良質な睡眠を取れたかのように体に活力が溢れてるのがわかる。あの一月前の手術以来、こんな感覚は一度も無かった。

とても良い夢を見ていた気がする。甘くて暖かくて、欲しいものをようやく手に入れたときのような幸福感に満ちたそんな夢を。

まだその余韻に浸り、あわよくば夢の続きを見れないかともう一度寝ようとしたのだが、

誰かが自分の眼前で鼻を啜る音が聞こえたことで我に返る。

それは、ちょっと前まで毎日毎晩のように耳にしていた音。私がいつも心待ちにしていた音。

そして、なぜかこの一月の間、聞こえることのなかった音。ずっと恋しく思っていた音。

ジャルが泣く前に鳴らすの鼻の音だった。

目を開けるとそこには瞼に溢れんばかりの涙を湛えた、最愛の妹がいた。

ショルはそれを見て、考えるよりも先に口から言葉を発していた。

「どうしたの?何かあったの?」

  • ジャルとショル、シャル

いずれの世界線でも存在。

シャーロットのルーツであるカルアの遺伝子とナベリウス生息の吸血性ヘビとをかけ合わせて生成された完全なる人造人間。

シャーロットはすでに存在する子供に対して遺伝子を組み替えて作られたが、

ジャルとショルは細胞レベルでの遺伝子融合を行い、そこから通常の生き物と同様に細胞分裂を果たして発生。意味合いとしてはキメラに近いが、遺伝子配列におけるカルアを示す要素の比率的にはシャーロットと同等であり、結果、シャーロットとジャル・ショルはデミクローンの関係にある。

 

二人が試験管内での発生に成功したその日、気を良くして帰宅したルドルフが戯れに「もし、自分によく似た妹が二人いたらどんな名前がいい?」とシャーロットに聞いたところ

当時4歳の語彙力では気の利いた名前が思い浮かばなかったのだがかろうじて自分にそっくりというところにはシャーロットなりのささやかな嬉しさを覚え、自身の「シャル」という愛称に似た響きの名前としてジャルとショルがいい、と答えたことが名前の由来となっている。

なお、これはあくまで空想のお話という前提で戯れに会話しただけなので本当にそれに準ずる存在が自分にいるとはこの時点で認識していない。

 

  • ジャルとルドルフ

ルドルフは、カルアの系譜の存在としてシャーロットもジャルもショルも平等に愛情を注いでいた。

また、ジャルとショルにはシャーロットという姉にあたる人物がいることを隠していた。

ルーサーには内密に失敗作にあたるシャーロットを持ち帰った事実が漏洩したら、ろくなことにならないということは、心酔していてもなお認識していたおり、

まだ幼いジャルやショルがシャーロットのことを知ったら、何かのはずみに口外されるかもしれないと考えたからだ。

ルドルフはできる限り彼女ら三人と一緒にいる時間を同等にするため、仕事が忙しいという名目で家に帰らずに研究所に残り、ジャルとショルと対話する時間を設けるなどしていた。

一方で、ジャルから見たルドルフは、いまひとつ信用のおけない人物であった。

本能的に何か隠し事をしていることを察していたというのもあり、心から気を許すことはできないものの、例えば規定時間外に研究所内の出歩きなどを相談する相手としては都合がよかったため、一定の距離間を保って接していた。

  • ジャル

前述のとおり、シャーロットが4歳のときに発生。

そのため現在実年齢としては19歳であるが、野生動物の遺伝子が混在してることから細胞のテロメアが通常のヒューマンより短くなっており、身体の成長が早い。そのため見た目年齢はシャーロットと同じ23,4歳前後だが、精神年齢はまだ16,17程度で、大きな差はないものの見た目に反して若干幼稚な面や、慣れない相手に対して不必要に虚栄を張るような態度を取ることがよくある。

 

後述のショルとは双子の関係にあたる。

これは分裂の過程でたまたまニ分化した細胞がそれぞれ独立してそのまま分裂を繰り返したことによるもので、

これに関しては人為的な要素は絡んでおらず、自然発生した偶発的な双子である。

もちろん、遺伝子情報の書き換えの段階でなんらか双子となりやすい作用が働いた可能性はあるが、少なくともルドルフを始め、関係者にそういった思惑は無かった。そしてなにより、ジャル本人が唯一の肉親にあたるショルの存在を、他者の意図したものではなくあくまで偶然の産物であってほしい、信頼する姉の存在が人為的なものであってほしくない、運命的な関係性にあってほしい、と考えている。

 

ジャルはいわゆるボイド研究員の間では佳作にあたった。ここで言う佳作とは、ルーサーが見たときに即時処分を言い渡さないレベルのことを指す

フォトンの扱い、身体能力ともに突出して秀でていたわけではないが

野生生物の血が入っていることから、それでも試作品のシャーロットよりは優秀であり、

なにより闘争本能が強くショル以外の実験生物に隙あらば噛み付こうとするなど、兵隊や鉄砲玉として使いどころがあるかもしれないというのが研究員達からの、そしてテロメアの短さにより成長が早く実用的な身体に育つまであまり時間を要さない点がルーサーからの評価ポイントだった。

しかしそれは大きな間違いで、ジャルの本来の気質はひどく臆病で神経質であり、決して自ら進んで闘争を求めて他者に危害を加えていたのではなかった。

研究所内に蔓延する恐怖と狂気を動物的な勘で感じ取った結果の、強い自己防衛本能によるものだった。

絶え間なく聞こえる動物の悲鳴、人間の断末魔の声、巨大な生き物が踏み鳴らす足音、無機質な鉄とコンクリートの壁、どこにいても充満し鼻孔を突き刺すアルコールとアンモニアが混ざった匂い、

そしてなにより、たまに自分を見に来るルーサーのただならぬ雰囲気や、それに心酔している様子の生みの親ルドルフ、その他の研究員達の存在など、

すべてが狂気に満ちているように見えた。

一方で、定期的に行われる戦闘訓練で、流血した訓練相手を見ると、たまらなく食欲をそそり恍惚とした気分になることを自覚していたため、自分自身もまた、もはや狂気にとらわれているのではないかという思いもあり、

ジャルにとって毎日の研究所での生活は想像に難くないストレスに満たされたものであった。

そんなジャルにとって、唯一の救いであり、気持ちを安静に保てる時間が、姉のショルとともに身を寄せ合っているときだった。

胎生で生まれたわけではないはずなのに、ショルに触れた状態で寝ると、母親の体内に胎児として二人で眠っているかのような感覚を覚え、ジャルにとって恐怖の対象である研究所のどんな音も匂いも、ショルの声、心臓の鼓動、寝息、体臭でかき消されるのであった。

もともと一つの細胞がたまたま分裂した、つまりそれは本来一個の生命体として持ち合わせていたものが2分割されたとも考えられ、自分とショルは二人で一緒にいることで凹凸が噛み合った状態にあるのかもしれないとジャルは考えていた。

そして、ジャルの考えはあながち間違ってはいなかったのかもしれない。

ジャルが佳作として見られていた一方で、ショルの身体能力やフォトンの扱いはシャーロットと同等か少し上失敗作と言われないだけの水準をぎりぎり満たしている程度だった

研究員たちは遺伝子配列の結果から二人の関係性を凹凸ではなくコピーの関係にあると考えていたため、芽が出るのが早いか遅いかの違いで、潜在的な素養は近いものがあるに違いないと仮説を立てていた。

しかしながら、ショルはその後も目立って伸びるということはなく、

研究員たちの間では諦めの空気が常に見え隠れしていた。

ジャルとショルが実年齢9歳、肉体年齢的には11歳を迎える頃、後天的なデューマンの発現にハマっていたルーサーがショルに目をつける。

それほど優秀でもないのに、わざわざ生かしておく必要もなく、芽が出ないなら消せばいいとも考えたが、実験素体も無限に手に入るわけではないこと、

またショルが完全なヒューマンではなく蛇とのキメラであり、普段の実験素体とは少し条件が異なってることに着目し、

ショルをデューマン改造の素体として使うことを思いつき、研究員達に彼女を連れてくるよう言いつける。

これにはルドルフは当然反対の意を見せたがしかし、水準に満たないショルを処分せずに持ち続けていたことをはっきりとミスとして指摘され、ルーサーからの言及がシャーロットにも及び、存在を隠している彼女についての話題が続くのを避けたいという思いから、ショルを素体として引き渡してしまう。

ルドルフとしては、ここでショルを素体として渡さなければ処分を言い渡されるだけであり、デューマンに改造されても生きていればどうとでもなるという思いがあった。

これに対しジャルが全身全霊で拒絶を試みたのは言うまでもない。

ショルはジャルにとって、分裂の過程で失ったピースであり、ショルにとってジャル自身もそうであると考えていたことから、ショルがデューマンとして改造され、もとの身体から変わることは、ジャルにとって二人の関係性や絆を冒涜することに等しかった。

決死の抵抗を試みるも、いくら身体能力がある程度優れているとはいえ、大の成人男性たちの単純な腕力には勝てるはずもなく、強く殴打されて気を失う。

ジャルが時間にして数十分程度の気絶から目が覚めたのは、研究所内のどこからか、今まで聞いたこともないショルの悲鳴が響いたからだった。

 

ジャルはショルの身に何が起きているかは知れない。

ただその悲鳴はジャルを後悔と絶望で満たすのには十分なほど悲痛であった。

自分がもっと強ければショルを守れた、ショルは別の生き物になってしまった、ショルに足らなかったものを、私はもう提供できなくなってしまった。

私自身の安らぎは、我慢すればいいだけ。私の感じる恐怖など、今ショルの身に起きてることに比べれば、いや、比べ物にならないほど矮小だ。でも私はもう彼女の安らぎになることはできない。あんなに苦しそうな声をあげているショルと私は、もう今まで通りに補い合える関係ではないのだから。

ではどうすればいいか、悪いのはショルを連れ去ったあいつらで、危害を加えてるあいつらだ。そしてなにより、あいつらを退けられなかった非力な自分だ。誰よりも強くなって、ショルには誰も近づけなければいい、あんなに苦しんでいるショルをこれ以上苦しめてはいけない。

私以外誰一人として、ショルに近づかせない。近づくやつは死ねば良い、いや、私が殺す。息の根を止める。

ショルが手術室より戻った日、そこにはショルの変異した見た目よりも遥かに鬼と呼ぶにふさわしい残忍性と、蛇のような湿っぽくも無機質な妄執心を内に秘めたジャルの姿があった。

 

* * * *

 

ショルの改造をルドルフが止めなかったという事実がジャルにどんな感情をもたらしたかは考えるまでもないことだった。

ジャルはルドルフをはじめとした虚空機関の関係者に対する復讐心に燃えていた。しかし、一度研究員達から打ちのめされている彼女は今はまだ機ではなく、より力をつけて研究員たちをすべて抹殺する頃に、ルドルフだけは特別苦しめてやろうとほくそ笑んでいた。

しかし、彼女の狙いはいずれの世界線でも達成されなかった。

ショルが改造を施されてから間もなくして、件のダーカー襲撃事件が発生し、

世界線2ではダーカー襲撃時の家屋崩落によりルドルフは事故死、

世界線1ではルーサーによって処分されたからだ。

 

ルーサーによるルドルフの処刑が行われた日の朝のことだった。ルドルフがひどく憔悴した様子で研究所に出勤したのをジャルは偶然見かけ、うわ言のように研究所をやめる旨の呟きを繰り返しているのを聞いた。

彼女は、ルドルフが研究所を去るというのならば、彼を殺すのは今しかないと考えそのあとを尾行する。

その目に今まで見たこともない残忍性を宿しているジャルを案じた様子のショルは、ジャルに無理やりついていった。

ルドルフが人気のない研究室の一室に入っていったことを好機と考え、背後から奇襲をかけようと意を決して部屋に飛び込んだジャル、そしてそれに引きずられる形でついていったショルの二人の目に最初に入ったのは、ルーサーの手によりルドルフが首をはねとばされる瞬間の光景だった。

今まさに自分が行おうとしていたことをあっけなく他人が実行したという事実に虚を付かれ硬直するジャルの傍ら、一方でショルはその身を震わせていることが、ジャルの服の裾を経由して伝わってきた。

ルーサーが彼女らの侵入に気づき、ジャルが眼前の状況を脳内でようやく整理できた矢先、再度信じられない光景が繰り広げられた。

自分の背後で彼女の衣服を掴んで震えていたはずのショルが、いつの間にかルドルフの首にむしゃぶり付き、その血を恍惚とした表情で啜っている。

その様子を見たルーサーは高笑いを上げ、ショルはぶつぶつと何かを呟きながら血を吸い上げる。ショルのうわ言の合間には、液体が滴り落ちる音、そしてそれを勿体ないと言わんばかりにすくい上げる音。物言わないのは首をはね落とされたルドルフの胴体のみ。

どこにも正気が見当たらない現場で、ジャルのストレスは極限まで高まり、そのまま意識を失った。

目を覚ますと、ジャルはショルとともに自室に横たわっていた。

まだ寝ているショルの顔を眺めながら、ジャルは先程の理解できない光景について、彼女なりに考察する。

ショルは、やはり自分の知ってる優しくて強い姉ではなくなってしまったのかもしれない。

私の知ってるショルは、あんな奇行に走る人ではなかった。

いつも優しくて、目が合うだけで微笑みかけてくれる、そんなショルが好きだった。

先程のショルの恍惚とした表情には、その面影は無かった。

ショルは先程の行為を覚えてるだろうか。

覚えてたとしたら、きっとショルは大きなショックを受けるに違いない。

今回のことを運良く覚えていなくても、次同じことが万が一起きた場合、また都合よく記憶を失ってるとは限らない。

彼女にはもう、二度とあんなことをさせてはいけない。

なぜあんな奇行に走ったのかは私にはわからない。ただ、一つだけ言えるとしたら、

やはり、ショルの身の回りには私以外近づかせてはいけない。

たとえ形が変わって、もう前のような二人で一つという関係性ではなかろうと、それでもショルのそばにいるべきなのは私以外ありえない。ショルのことを一番わかっていて想っているのはいつも私だったし、これからもそうあるべきなのだから。

私は、ショルが手術された日から彼女と向き合ってこなかった。怖かったから。ショルが私を今までのように受け入れてくれないのではないかと考えると、怖くて近づけなかったから。

今日の出来事は、そんな私の弱さが招いたものだ。ショルが後ろから震えながら近づいていることに気づいたときに、あんな男のことなど忘れて部屋で二人でじっとしてればよかったのだ。

これからは、私がいつも細心の注意を払ってショルの驚異となるものを未然に排除しなければいけない。

最愛の姉が姉として在り続けていくために。そしてそれが、彼女をあのような奇行に走らせてしまった私の罪を拭うたった一つの方法だと思う。

 

遅れて目を覚ましたショルの目の前には、今にも泣き出しそうに顔を歪ませたジャルの姿があった。「どうしたの?何かあったの?」という、自分がよく知る優しい姉の声を聞いたジャルは、先程の出来事を姉が覚えていないと判断した安堵から涙を流し、ショルを守り続ける決意を新たにするのだった。

シャーロットオリバー。愛称「シャル」

  • 共通設定

故・ルドルフ=オリバーが作り出した3人の娘の一人であり、故・カルア=シンガーの遺伝子を3歳のヒューマン女児にかけ合わせることで作成されたデミクローン。

虚空機関でルーサーからの提案ならびにルドルフ自身の意志により作成された、模倣体アークス造成プロジェクトの試作品にあたる。

試作ゆえ、フォトンの扱い、身体能力は全て並か、それ以下であったがためにルーサーからは失敗作として処分を命じられていたが、

ルドルフはそれを承諾したように見せかけ自身の娘として育てる。

ルドルフが兼ねてよりカルアに対し恋慕の想いを抱いていたため、その忘れ形見ともいえるシャーロットを他の失敗作と同様に処分することは、彼にはできなかった。

  • 世界線分岐ポイント

新光歴228年8月7日

シャーロット当時13歳

主人公(安藤)とシャオの時間遡行及び歴史改変は、人知れず次元にゆらぎを産み出しており

そのゆらぎに巻き込まれる形でシャーロット自身に起こりうる可能性から世界線が分岐している。

 

 

※以下、参考

新光歴228年8月7日(歴史改変)

二代目クラリスクレイスがアークスシップを強襲したダークファルス【若人】を撃退した直後、ダークファルス【仮面】の襲撃を受け致命傷を負う。同時刻に時間遡行で訪れていた主人公により【仮面】を退けるも、クラリスクレイスのダーカー因子が暴走し深遠なる闇になりかけていたためクラリッサによる自身の消滅を敢行。シャオの判断で強制帰還させられた主人公の時間遡行に巻き込まれ消滅は免れたもののダーカー因子と記憶を失ったマトイは10年後のナベリウスに漂流する。※12

https://ameblo.jp/aesculapiuspso2/entry-12298935872.html

より抜粋

 

  • 世界線1(sideA,目隠しシャル

分岐ポイント当時、シャーロットとルドルフの住む市街地がダーカーに襲撃されシャーロットが」重症を負った世界線。

ルーサーの頭脳に魅入られ職場では研究に没頭し、家庭内では勉学に励む父・ルドルフの姿を幼少期から当たり前のように見ていた。

ルドルフはもともと一人暮らしで、その性格上近所づきあいにも乏しかったため、母親、あるいはその他頼れる大人はシャーロットの周囲におらず、

処分されるはずだった身の上である以上、ルーサーに存在を隠すため父と二人で外出したり遊びに行ったりすることも稀だった。

そういった境遇のため、父ルドルフと死別する13歳まで彼女の世界は自分と父ルドルフのみであり、

ルドルフのように勤勉であることを美徳とする生き方が身に付いていた。

 

ダーカー襲撃時に負った怪我が治り退院した彼女は、倒壊は免れたものの爆風や振動などにより乱雑に散らかった我が家へ帰る。

父ルドルフは、彼女の入院中は家に帰る理由も無かったため研究室と病院の往復だった。その結果誰も家を片付けなかったためだ。

仕方なく病み上がりのシャーロットは部屋の片付けに取り掛かる。父の書斎に足を踏み入れたとき、床に散らばった数枚の写真となんらかの研究レポートが彼女の目に入った。

ルドルフと幼い自分が研究室のようなところで一緒に写ってる写真が一枚、自分に似た面影の少女二人と一緒に父が写ってる写真が一枚、病院か何かで床に伏せているひどく不健康で、しかしこれまた自分に似てるニューマンの女性の写真が一枚。

一緒に落ちていた研究レポートの表紙には「模倣体造成プロジェクト」の文字。

ところどころが黒塗りにされているものの、断片的な情報をくみあわせていくことで、

シャーロットはどうやらニューマンの女性とヒューマン(特定不可)のそれぞれの遺伝子からかけ合わせたデミクローンであること、自分によく似た少女2人はそのニューマンの女性の遺伝子とナベリウスに生息する吸血ヘビの遺伝子によるデミクローンであることが読み取れた。

俗世に対して興味が薄いとはいえ、13歳はヒューマンにとって思春期にあたり、その繊細な感性は自身の出自やルドルフの研究内容を非常に冒涜的で汚らわしいものとして認識し、父への敬意が強かったが故に、軽蔑、裏切り、疑惑と強烈な負の感情に支配されたのは想像に難くない。

その後帰宅した父に、件の内容を激しく追求し、生まれて初めて口汚く(それでも世間一般から考えれば控えめな言葉遣いで)彼を罵倒、自身の部屋に鍵をかけて閉じこもった。これが彼女とルドルフの最後の会話になる。

愛娘が見せた初めての激昂により、ルドルフは自分が大変なことをしでかしたことに気づく。

ルーサーに魅入られて、憧れていたのは間違いないが、人の道からは大きく踏み外していたことをしてきたと自覚、後悔し、虚空機関からの異動をルーサーに申し出る。

しかしながら、情報漏洩を防ぐため、ルーサーはなんの躊躇いもなくルドルフを処分する。ルーサーにとって、ルドルフほどの優秀な研究員も、比較的使い勝手が良いだけのコマに過ぎなかった。(なお、それは後述のジャル、ショルの目の前で行われた。)

シャーロットは父が殺害されたことを知らない。しかし当然のことながら、待てど暮せど父は帰ってこない。彼女は自分が父に発した言葉を激しく後悔する。自分がひどいことを言ったから、父は愛想を尽かし私を置いてどこか遠くへ行ってしまったのだ、と。

彼女にとって世界も同然だった父の喪失は

彼女に強烈なトラウマを植え付ける。結果、ヒューマンの自己防衛本能から、シャーロットの脳はきっかけである自身の出自、自身のデミクローンの存在に関する記憶を封じ込めたのだが、罪の意識と後悔の念だけが残り、茫然自失とするしかできなかった。

廃人も同然に家屋で横たわるシャーロットは、アークスによって市街地復興及び行方不明者捜索の目的で定期的に行われるパトロール中に発見、保護される。(このときの第一発見者が、後述のマヅキにあたる)

薄い意識の中、心身ともに弱り切っていた彼女は、救出活動を行ったマヅキに父の幻影を重ねて見てしまう。

結果、父との離別後、彼女が次に目標として目指したのは言うまでもなくアークスだった

アークスシップ内メディカルセンターでのカウンセリングを経てどうにか正常な理性を取り戻した彼女は、自身もアークスになるべく、戦災孤児としてあてがわれた義援金や奨学金をすべて活用しアークス士官学校へ入学する。

フォトンの扱いも身体能力も並かそれ以下だったが、努力のしかた、自己研鑽への姿勢だけは父の背中を見て学んでいた。彼女が、生まれ持ったハンディキャップを覆すほどの実力を若くして身につけるまでに、そう時間は要さなかった。

  • 服装について

私生活では伊達メガネを好んで着用する。

これは、ルドルフが家にいるとき常に眼鏡をかけていたからである。

父親とのちょっとした共通点を持ち続けることで、

生前ルドルフが何を考え、何を目指し、シャーロットに対してどんな感情を持っていたのかを知れるのではないかと、

馬鹿げた話だと自覚しつつも淡く期待している節がある。

なお、もともと視力は悪くなく、仕事中はARでの照準合わせに邪魔であることから眼鏡は外している。

 

 

  • 世界線2(sideB,ガンシャル)

分岐点当時、シャーロットとルドルフの住む市街地がダーカーに襲撃されルドルフが」重症を負った世界線。

 

当然だが、分岐ポイントまでの生い立ちはSideAと同一。

 

ダーカーによる市街地襲撃は苛烈を極めるもので、家屋の倒壊やそれに伴うインフラ設備などの爆発など、

一般の住人からすればひとたまりもないものであった。

シャーロットとルドルフもご多分に漏れずそうで、やっとのことで脇目も振らず二人で逃げた結果、市街地の外れ、人気もダーカーの気配もない裏通りに出る。

ようやく安心したところでしかし、遠くから響いてくる振動の蓄積が、半壊した周囲の家屋を崩し、巨大な瓦礫がシャーロットの頭上に落ちてくる。

(急所を外したもののそれにより怪我を負ったのが世界線1)

とっさの判断でルドルフはシャーロットを庇う。

結果、シャーロットは奇跡的に無傷だが、ルドルフは致命傷を負う。

(瓦礫の角度的に、何の物理的な作用も働かなければ、世界線1のようにシャーロットは大怪我を追うものの、急所は外していた。ルドルフが彼女を庇ったことにより、ルドルフのみが瓦礫を直撃するような位置関係になってしまった)

右目が潰れ、口は大きく裂けて、下半身は瓦礫に挟まれて動けないルドルフを、シャーロットは手を握り背中を揺すって声をかけることしかできない。

助けを呼ぶも、そこは人気のない裏通りで、シャーロットの声は虚しくこだまするだけだった。

やがてルドルフはシャーロットの目の前で息絶える。

 

目の前で惨たらしく死を迎えた人間の姿は

13歳の少女の精神にダメージを与えるのに十分なインパクトがあった。ましてやそれが世界も同然の父なのだから。

茫然自失となった彼女は、それでも最後の生への本能からか、ダーカーやそれに準ずる敵から姿を隠さねば、と廃屋に身を潜めるが、

そこで彼女の気力は枯渇する。

その後約5日間は、食べるものも無く、たまに降る雨水をすするのみ。体力的に限界を迎えた彼女のもとに現れたのは、自分の歳の半分程度の年齢の少年少女数名と、それを率いる青年の姿だった。

シャーロットを案じて声をかけ、手を差し伸べる青年の姿に、意識が朦朧としていた彼女は父の幻影を重ねた。

青年らはそのまま気を失ったシャーロットを彼らのアジトに迎え入れ、輪番で看病する。

もともと外傷もなかったシャーロットは数日のうちに立って歩き回れるくらいには回復した。

そして看病されている中、彼らとの会話によりこの少年少女の集団は、アークスシップ市街地内でも治安の悪い区画内出身で、様々な事情に起因して親と一緒に暮らせなくなった子供たちが互いに身を寄せ合っている集まりだということがわかった。

リーダー格の青年はアキラと名乗り、年齢は16歳。

他は男女合わせて11人で、シャーロットと同い年の子供も何人かいた。

(年齢的にはアキラが最年長、その次がシャーロットといった序列)

彼らは生きることに貪欲で、食べ物を得るために廃屋荒らしや空き巣、ゴミあさりなどで、直近数カ月を生き伸びてきたという。

今回のダーカー襲撃で無人の家屋が多数発生したのは彼らにとって好機で、

宝探しの気分で各家屋に空き巣を行っていたところシャーロットを発見した。という次第。

最初はその素行の悪さに対して、シャーロットが完全なる軽蔑を感じていてたのは言うまでもないことだったが、

かと言って父を失った今、永らえた命をつなぐのにどうしても食料や他者からの支えが必要で

彼らと行動をともにするしか選択肢はなかった。

 

一緒に行動をともにする中で、彼女はこの集団がただの不良たちの集まりではなく、彼らなりの規律や義理、人情に溢れていることに気付く。

(例えばその日手にいれた食料のうち、最優先で与えられるのは最年少の子供で、それ以外はある程度ローテーションで優先度が日毎変わる。アキラは常に最後に選ぶ。看病を必要とする怪我人や病人がいる場合、皆で持ち回りで横につき、食事の優先順位もその時だけは患者が最優先になる、など)

それはすべてアキラが最年長として仕切り取り決めていたようで、言葉遣いは乱暴だが年少者にも正面から向かい合うまっすぐさに、他の少年少女は惹かれて集まり従っていた。(双方ともに、親代わりとして見ていた、という関係性)

この集団での生活は、父を失ったシャーロットにとって良くも悪くも大きな影響を与えるのであった。

彼女の心的外傷は初めて歳の近い人間たちと集団で営む社会生活に触れること、また何よりアキラ自身の前向きで、生きる気力に溢れた人柄に接することでゆっくりと少しづつ回復する一方で、自分達の食い扶持は自分たちで確保する、生と死が常に隣り合わせにある毎日は彼女を心身ともにタフに育てあげた。シャーロットの回復に伴って、彼女の言動は次第に粗野なものとなっていった。髪の毛も短く切って、動きやすい服装を好んで身につけるようになった。元来の行儀の良い少女のままでは、この集団の生活では置いてかれてしまう。必然的に強くなる必要があったのだ。

なお、彼女もまた他の少年少女たちと同様に、アキラを慕うようになる。最初は恩人として、次に父の代わり、歳の近い兄のような存在として。

思春期の彼女にとって、その気持ちが異性へ抱く恋慕の感情に変わるのは、言うまでもなく時間の問題だったが、

その感情が何なのかシャーロットは理解できておらず、なんとはなしの気恥ずかしさもあって誰にも相談、打ち明けることはなかった。

 

そんな生活は突然崩れ去る。

ある日、シャーロットがたまたま洗濯の当番の日で一人別行動をしていた頃、「アークス」を名乗る男たちが治安維持及び災害孤児の保護の名目で少年少女らが集まっているアジトへ乗り込んできた。

不便であっても今の生活に満足はしていたし、何より彼らは事情がそれぞれ異なれども、親に捨てられた身であり、アキラ以外の年長者は恐怖や不信の対象だったゆえに、「アークス」に対して激しい抵抗を見せる。そんな彼らを中には力づくで連れ出そうとする者もおり、

アキラは激昂し殴りかかる。

現場は騒然を極めたが、一人の「アークス」が現場上長からの司令を受け、アキラを子供たちの目の前で撃ち抜く。

これがきっかけとなり、統制および気力を失った少年少女らは呆然としたままあえなく捕縛される。

シャーロットがアジトについた頃に、そこにあったのは息も絶え絶えのアキラの姿のみ。

「アークス」を名乗る連中が攻め込んできたこと、他の仲間は皆捕まったこと、そして自分はもうじき死ぬが、シャーロットはせっかく生きながらえたのだからと、何が何でも生きろと伝え(彼ら集団のモットー)、アキラは息を引き取った。

事件の真相はすべてルーサーの差し金で、次の実験に幼い子供を素体として使う予定だった彼は、市街地を荒らして回る孤児集団に目をつけ、配下の研究員たちにアークスの格好をさせて事に及んだのだった。本物のアークスではなく研究員を使ったのは、抵抗者を射殺することも最初から念頭に入れており、本物のアークスを使うよりも、自分の息が濃くかかった研究員の連中を使った方が事がスムーズに進むと考えたからであった。

これによりシャーロットはアークスを目の敵とし復讐を誓うが、相手はプロの戦闘集団であることは彼女なりにわかっていた。自分一人ではどうにもならないことはわかっていた。

であれば、自身がアークスとして潜入し、内部から真犯人たちを暴きいつか自分の手で復讐を果たさんという考えに至る。かつての仲間たちとともにこれまでの廃屋荒らしや空き巣で、いざというときのために使いみちを決めないまま蓄えてた金品を売り払うことによって得た資金を使ってアークス学校へ入学し、復讐心のみを糧に意地でアークスに就任する。

もともと高くなかった身体能力は、日々の生きるか死ぬかの生活の中で底上げされており、特に苦労なく訓練にはついていけた。

アークスとして就任し、一定の実力を身につけ数年後、彼女はアークスシップ内に存在する各資料から虚空機関、総長のルーサー、そして父ルドルフ=オリバーの在籍記録など、自分との並々ならない因果関係を知ることになる。

シャーロットはさらに記録を漁り、アキラ殺害の経緯もまたようやく知るのだが、これらの情報はすでにルーサー没後で組織も解体されたあとの、ルーサーにまつわる事件の事後処理の中で得たものだった。

父を失い、その後できた新たな仲間や大切な人も失い、復讐心を糧に生きてきた彼女だったが、真相にたどりついたころにはその対象を失っている。

今のシャーロットの心の中は、行き場の失った怒りとどうしようもない虚無感で満ちている。

もう自分には、何も目指すものがない。いっそ私も彼らのもとに自ら行ってしまおうか、という考えは常に付きまとっているものの、そのたびにアキラが最後に彼女へ残した言葉がそれを阻害する。皮肉なことに、彼女が最後まで慕ったアキラの遺言である「生きろ」という言葉が、今の彼女が求める救済から遠ざけていることになっていた。

日々の任務でダーカーの殲滅に精を出すことで自身の感情を誤魔化すしか、今の彼女にできることはない。

  • 服装とトラウマ

ルドルフ死亡時、彼は顔に大怪我を追ってみるも無残な状態だった。

シャーロットにとってはそれが大きなトラウマとなっている。

どんな服装をするときでもレクイエムマスクやサングラスのような、顔の一部を隠す装飾品を身に着けているのは、そのトラウマに起因した防衛本能が働いているからである。なお、本人に自覚はない。

  • キャラ相関図の作成
  • 一部キャラのプレイアブル化
  • Phase2コーデ及びそこに至るまでの経緯作成
  • マヅキ、アキラの設定作成