ウイリアム・S・バロウズ 爆発した切符  【サンリオSF文庫】  

 

あのバロウズの作品である。裸のランチなどで有名な作家だが、これがSFとして売られていたかと思うとやや複雑なものを感じてしまう。どれだけの青少年が読みこなしていただろうか。うらすじ(裏カバー記載のあらすじ)もサンリオSF文庫最強とも言えるほど意味不明である。唯一カバー表紙のイラストがSFパルプマガジンっぽい雰囲気を醸し出していて、SF文庫作品であることを主張している。とにかく目立ったストーリーや筋はないので読むのに苦労したが、このイラストを糧に最後まで読み切ったものだった。ちなみにバラードあたりがこの「爆発した切符」や「ノヴァ急報」あたりをさしてニューウェーヴSFの旗手としてバロウズを賞賛していたらしい。

 

 

 

 

もちろん本作はSFなどではなく、ハーバード大生だったバロウズの知性とディープなドラッグ&同性愛体験が生んだ壮大な言語実験である。文と文の前後を入れかえるカットアップ手法をとっているので、筋を読むことはまず無理であるが、シュルレアリズムにおける自動筆記と同じく、新たに生まれた文の中から、何かを発見したり感じたりすることは可能である。オカマでジャンキーだったバロウズならではの、猥雑な単語の羅列とドラッグ体験が混濁したようなテカりまくった世界感は、きわめてニッチであるが、それはそれで人類のなし得た到達点のひとつではないかと思うのだが、如何であろうか。 ちなみに今の日本ではこんなドラッグ漬け生活をもとにしたケツの穴系の背徳な小説を書くことは、まず社会が許さないはず。袋叩きに遭うこと間違いなし。そもそもLSDなんて最近聞かないし。やはり50~60年代のアメリカ風俗があってこその作家、作品なんだと思う。

 

 

 

 

ちなみにこの同性愛欲にまみれたバロウズのドラッグ小説を、女性はどう読むのだろうか。理解または感じることは可能なのだろうか。そこまで考えて、ふと女性のドラッグ小説家を思い出した。アンナ・カヴァンである。こちらもサンリオSF文庫でお馴染みの作家であるが、常用していたのはバロウズも使っていたヘロインである。両者の作品の趣はだいぶ違うが、それは男女の性の違いから来るものなのか、それとも使用する薬物への依存度や耐性の違いからくるものなのか。実に興味深いところである。BWオールディスによるとカヴァンはドラッグの使い過ぎで、性的な嗜好を失なっていたそうである。となるとドラッグまみれになりながらもおのれの性的嗜好にこだわり続けたバロウズが超人的なのかどうか。真実は不明である。