「アンチカリスマ」の徒然なるままに・・・
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東京物語・・・若さ故・・・幕

お互い納得済みの別れだったが、最初の内は随分虚脱感に見舞われた。きっと彼女も同じだったと思う。

その後、彼女は、独りで住むには広過ぎる2DKの部屋を出て、実家にほど近い場所に部屋を借りた。少し前から畑違いの仕事をしていた彼女だが、職場もその辺だったらしい。

急速に記憶の密度が薄くなるが、その後も連絡を取り合っていた事もあり、何度か後戻りしそうになった。しかし、それでも時間を経るごとに、安定していった。お互いに、今までの事をいい思い出に昇華する事が出来たと思う。


あまりに重い恋愛を経験した後は、なかなか次の恋愛には行けなかった。恋愛にはエネルギーが必要だ。当時の自分には、もうそんなエネルギーは残されていなかった。もっと軽い付き合いで充分だった。

合コンや紹介で知り合う女のコに対し、「オレ、遊び人だからね。一人には決められないよ。」と、口癖のように言っていた。相手の要求が高まると逃げたくなった。話したい時だけ電話をする、会いたい時だけ会う、抱きたい時だけ抱く・・・。「遊び人だから・・・」という言い訳で、何人もの女の子と掛け持ちで付き合った。勝手な思い込みかもしれないけど、それでも、一人一人と会ってる時は、そのコに対して誠意を持って接していたつもりだった。

「誠意ある遊び人」
女の人には怒られるかもしれないが、もし許されるならそういうジャンルの男と思って欲しい。後に、遊んでいた一人に子供が出来て、いわゆる「出来ちゃった結婚」をする事になったのは誤算だが・・・。(笑)

それが良かったのか悪かったのかは判らない。でも、全ての経験は自分の人生の肥やしになっている事は確かだと確信出来る。


「東京物語」と名付けたこのブログは、かけがえの無い東京での生活の最も波乱に富んだ出来事を、「若さ故」という範疇で括ったもの。いや、実は、過ぎてしまえば全てが「若さ故」となるのかもしれないが・・・。


元々、「愉快な仲間達」企画でそれぞれが立ち上げたブログで、「ゆか」さん(http://yuka-7777777.ameblo.jp/)の応援をしているつもりが、自分の場合、自分のブログに半分夢中になってしまった。(笑)ゆかさんが、ブログの書籍化を望み、今、それが実現に向けて動き出した事を受け、「東京物語・・・若さ故」は幕を閉じる。ブログを始めて、当時の自分に目を向け再確認出来た事は、非常に面白かったし、そうさせてくれた、「ゆか」さんを初め「愉快な仲間達」に感謝すると共に、読んでくれた方々にもお礼を言いたい。

「ありがとう。」


後日談がある。

昨年の終わりに、ネット上で、彼女がオレを見付けたらしい。懐かしさでメールを交わした。旦那さんには以前からオレの存在を明かしてたらしく、オレに会いに行くんじゃないかと随分心配しらたらしい。

でも・・・、それは有り得ないな・・・。お互い、絶対に譲れない大事な生活を持ってしまったから。





それにしても、いくら懐かしいからって、年賀状を送ってくるなよな。今年の正月は、キミからの年賀状を手にして、その瞬間、リアクションに苦しんじゃったぜ。(笑)来たる新年は、メールで「おめでとう」と言おう。





後日、気が向けば、今の女房編も書くかもしれない。もっと軽い感じで。(笑)その時には「テーマ」と「タイトル」は整理しないと・・・。


じゃあね。

東京物語・・・若さ故・・・残像

あれから17年たった今でも、はっきり思い出せるその瞬間・・・。残像のように目に焼き付いている。

その数日前に、お互いに別れを告げたはずなのだが、何と言ったのか、お互い、どんな状態だったのかを思い出せない。

思い出せるのは、そのシーンだけ・・・。

バイクで部屋に戻ると、マットの外れたベッドの骨組みの中で、彼女は後ろ向きに立ち尽くしていた。そのシーンだけだ。


確かその日は、バイク仲間に手伝って貰って、新しい自分の部屋に荷物を運び出したはず。彼女に最後の挨拶する為にバイクで戻って来たんだ。

その夜は、多分彼女は泣いていたと思う。自分も、今までの経緯を思い起こし、新しい部屋で眠れぬ夜を過ごしたはず。

「子供でも出来てれば、違ってたかもね・・・?」彼女は言った。

「そうだね・・・。」そう答えた。

実際、そうだと思った。

何故、子供を作らなかったんだろう?いや、それ以前に、何故入籍しなかったんだろう?

その理由は、今でも判らない。

もしかしたら、この運命を心のどこかで予想していたからなのかもしれない。


こうしていると、いろいろな思いが交錯する・・・。

つい、昨日のように思い出せるたくさんの思い出・・・。

いっぱい喧嘩したよな?いっぱい愛し合ったよな?一緒に飲みに行ったよな?一緒にメシ食いに行ったよな?一緒に映画を見たよな?バイクの2人乗りも随分したな。他人に対し、「ウチの女房」という呼び方をした事もあったな。たまに、お風呂屋さんにも一緒に行ったな。「貴方のご飯を作るのって、簡単だよね。カレー、ラーメン、ハンバーグを作ってればいいんだもんね?(笑)」なんて言われたりしたよな?亡くなったお母さんの実家がある三陸海岸にも行ったな。初めて大船渡線に乗ったよ。その時は、「かもめの卵」ってお菓子をオミヤゲに買ったんだ。その後、ウチの実家にも一度来たな。そうそう、親の前で、眠くなっちゃって、キミの膝枕でウトウトしたな。夜は飲み屋街に繰り出したな。帰って来たら、部屋の中のゴミ袋に入れた生ゴミが腐ってたっけ。(笑)

部屋の前から、一緒に夕日を見たよな?オレンジ色に染まる高台からの景色。


その全てが、今でも残像のように瞼に浮かぶ・・・。


それでも、お互いに新しい道を歩き出したんだ。

東京物語・・・若さ故・・・変化

どこでもある話だとは思うが、倦怠期という時期がやって来る。それは老夫婦じゃなく、ママゴトみたいな生活だとしても・・・。

理由は思い出せないくらいの小さな事で、口喧嘩に発展してしまう。長男、長女という、お互い命令系統にいた人間同士、どうしてもぶつかってしまうのか・・・?

このままではいけない、どうにかしなければ・・・。そういう思いはあったとは思うが、お互いカラ回りしていた。

そして、ついに別れはやって来た。

東京物語・・・若さ故・・・時の流れ

調布に住んでしばらくは楽しい日々が続く。大家さんの家族とも仲良くなった。近所のレストランや、出来たばかりの居酒屋にも顔を出すようになっていた。極々、普通の若夫婦に見えていたと思う。


その頃、バイクの大型免許(限定解除)を取りに、府中試験場に行き始めた。同時期に、たくさんのバイク乗りと知り合い、休みの日はツーリングに行き始める。彼女とは休みの曜日が違うせいで、夕方までに帰れば問題は無かったのだ。

しかし、その後、仕事が終わった後にバイクの集まる喫茶店に誘われる事も多くなってきた。同じくらいの年齢のヤツらはみんな未婚で、自由気ままに暮らしていた。彼らを妬ましく思った訳ではないが、彼らの自由を少しだけ羨んでいたのかもしれない。

それに、あまりにも同じような毎日を暮らしていると、なかなか気持ちを維持していけなくなるのは2人とも同じだった。しかも、まだ婚姻届という紙切れでの取り交わしをしていないのだ。

東京物語・・・若さ故・・・新生活

彼女の家族構成は、父、母、彼女、妹の4人。しかし、実は母親は継母だった。彼女は父親の前妻の娘。妹は継母の娘。本当の母親は、彼女が小さい頃に亡くなっていた。

彼女は継母と折り合いが悪く、そのせいで父親とも上手くいってないようだった。そんな理由から、独立した自分の生きる世界を早く作り上げたかったのだと思う。継母も、厄介払いが出来ると思ったのか、彼女の独り立ちには積極的に加担した。

「入籍はいつ?」
彼女の家族との食事会で継母が急かしてくる。

しかし、父親は、「まだ、早いんじゃないか?来年でもいいだろう。」とけん制する。恐らく、父親は、継母の内心を知っているようだった。

とりあえず、一緒に住む事に決めた2人に、父親はお金を渡した。そのお金で、彼女の実家にほど近い調布市に部屋を借りた。

多摩川方向に、夕日が綺麗に見える高台だった。

その時には、中野区に職場を移っていたが、バイクで30分という通勤時間はさして遠くは感じられなかった。それよりも、誰に咎められる事も無く一緒に住める事に歓喜し、毎日毎日、少しでも早く帰る為にバイクを飛ばした。

東京物語・・・若さ故・・・電話

結婚を決めた夜、親に電話を掛けた。

「オレ、結婚するよ。」
「誰と?」
「一度、専門学校の謝恩会で会った事がある、あの子だよ。○○子。」

○○子は、自分の母と同じ名前だった。

子供の事は言えなかった。いや、言わなくて良かった。後日、妊娠していない事が判ったのだ。

しかし、話はどんどん進んでいく・・・。もう、後戻りは出来ないのだ。

東京物語・・・若さ故・・・決意

「妊娠してるかもしれない・・・。」その言葉は、自分を狼狽させた。間違いなく、ヤツの子だ・・・。一瞬、ヤツに対してなのか、その子に対してなのか、憎しみの感情が漲る。

しかし、その子には何の罪も無いのだ。そんな理不尽な仕打ちを受けなければならない理由なんて無い。そう思った。

彼女はオレに「命を救ってくれた」と言った。彼女の命を救ったオレが、その子の命を絶つ事がどうして出来よう?

「判った。結婚しよう。子供も生んでいいよ。自分の子として育てるから。」

彼女は泣いた。何度も「ありがとう」と言った。

22~3歳とはいえ、一通り仕事は出来る。それなりの給料を貰える立場にいた事も、自分を後押ししたのだと思う。

しかし、今後の事を考えた時に、押し潰されそうな重圧、不安、いろいろな思いが襲ってくる。それでも男が一度決意した事を曲げる訳にはいかない。まして、彼女はオレよりも大きなショックを受けているはずなのだ。男のオレが弱気な態度を見せる事は許されないのだ。

若いながらも、いや、若さ故の必死の決意だった。

東京物語・・・若さ故・・・衝撃

その後、しばらくの間、彼女とのヨリを戻し、デートを重ねていた。しかし、彼女の親から見れば、21、22歳の若造であるオレは、結局は悪い虫に思えたのだろう。ある時、「もう会わないようにして欲しい」と言われたのだ。

ほぼ同時に、彼女から衝撃的な言葉も・・・。

「私、妊娠しているかもしれない・・・。」

可能性は無い訳ではない。しかし、それは自分ではなく、ヤツの子だ・・・。

東京物語・・・若さ故・・・命

グッタリしている彼女を必死に揺り動かし、名前を呼ぶ。意識を引き戻さなければ・・・。

夢とも現実とも判断出来ないようなどんよりとした感じで目を覚ました彼女を抱きかかえ、次にすべき事を考える。「血を止めなければ・・・。」腕にタオルを巻いて締め上げる。「救急車?警察?」近所に交番があった事を思い出す。すぐに彼女を抱きかかえ、交番に向かった。

経過を説明し、それでも疑り深い警察官に、「理由はどうでもいいから、救急車を呼べよ!」と大声で怒鳴った。

救急病院での治療中、警察官は執拗に詳細を訊いてくる。オレは全てを話した。今までの関係、そして例のヤツの存在も。


この辺りの出来事の順序の記憶は定かではないが、彼女は騙されていたらしい事が判った。

ヤツは、彼女にいろいろ買い物をさせてた。大型テレビやその他電化製品。とにかく金を使わせたらしい。その話を聞き、オレはヤツの実家(マンションの一室)に殴り込んだ。真夜中だった事を考えると、事件当日だったのかもしれない。

出て来たヤツを思いっきり殴り倒し、後から出て来た母親にも罵声を浴びせる。そうせずにはいられなかった。

病院から彼女を連れて彼女のアパート帰る。そこには、警察から連絡を受けた彼女の親もアパートに来ていた。

怒りや拒絶の言葉を浴びせられ、何も言わず立ち上がったオレを、彼女は必死で擁護した。「私を助けてくれたの。命を救ってくれたのよ。」と。

この言葉が、その後の人生の行方を左右する事に・・・。

東京物語・・・若さ故・・・嵐

彼女と別れてしばらくは虚脱感に見舞われた。その頃既にお店も替わり、板橋区のアパートに住んでいたが、江古田の駅前を闊歩する学生達はやけに楽しそうで恨めしかった。何故自分は独りなんだろう?どうしようもなかった。

知り合いの紹介とかで、何人かの若いコと出会い、それなりの関係になりつつも、心には塞がらない大きな穴があった。


ある夜、予想だにしない彼女からの電話。

「いろいろゴメンネ。多分、もう二度と会えないと思う・・・。」それだけを言い残してプッツリと切れた。

虫の知らせというか、何か釈然としない違和感があった。

もう夜も遅い時間、明日も仕事だ。外は雪でも降ろうかという寒い夜だった。でも、何だ?この胸のざわめき・・・。確かめずにはいられない。

もしも行き違いがあってはいけない。ドアの鍵は掛けない。ストーブも点けっ放し。そして、急いでバイクに跨った。

環7を川越街道に向かい突っ走る。全開だ。1分1秒でも速く・・・。川越街道の手前でスピード違反で捕まった。手間取っているヒマは無い。すぐにサインをする。罰金なんてどうでもよかった。


彼女の部屋へ登る階段が、ヤケに急に感じる。夢で誰かに追いかけられてるような感じ。足がノロノロと上手く動かない。

ドアを開けた。コタツに突っ伏した彼女の姿。コタツ布団にはおびただしい鮮血。呼びかけても答えない。

彼女は手首を切っていたのだ。